Lv.3 よくぞ戻った勇者よ
『以上。王座の間の壁面全体への即死トラップ設置により、勇者共が壁を抜けて襲撃してくるリスクは無くなりました』
『うむ、御苦労』
魔王オーカこと私は、ますます物々しくなっていく我が城を見て、ハァ……とため息を吐く。
玉座の背もたれの後ろに視線を向けると、真新しくなったばかりの床が見えた。
『それにしても、勇者がこの落とし穴にまんまと落ちていったのは良いのだが、ヤツの仲間達も追従して一緒に落ちていったのは意味が分からん……。金髪の女だけは抵抗していたようにも見えたが』
『理由は存じませんが、勇者一行は落とし穴だけでなく毒の沼やダメージ床なども隊列を組んで踏み入っており、まるで勇者と同じ痛みを仲間達にも与えるような奇行が目立ちますな』
『何それ怖いっ!!』
さらに大臣は、映像に映る勇者達の隊列の最後尾に居る金髪の女を指差し、気まずそうに口を開いた。
『そして……この小娘は勇者の仲間ではありませぬ』
『???』
確かに装備品は質素な弓だけで、勇者や他の女二人のように戦闘が得意そうには見えない。
私を背後から襲った時は一人だけ涙目だったし、落とし穴に落ちる時だって、最後まで抵抗していたところを僧侶女に突き落とされていた。
『エルフ王国のライラ姫でございます……』
『は?』
思わず
『え、なんで? エルフの姫が勇者と共に魔王城へ???』
『どうやら、勇者一行はドラゴンに捕らえられていた姫を助けた後、そのままエルフ王国に戻らぬまま旅を続けたようで……』
『あいつらマジで何やってんのっ!!?』
『どうやら最短攻略ルートのようですな』
ホント何言ってるのか意味が分からない。
ずっとドラゴンに幽閉されていて心細かったであろうに……。
いざ解放されるや否や連れ回されたうえ、毒の沼やら落とし穴に突き落とされる姫の立場を思うと、他人事ながら気の毒すぎて胸が締め付けられそうになる。
『む、勇者共がまたおかしな動きを……!』
大臣の言葉に嫌な意味で心臓が跳ねつつ、私は水面に映し出された勇者に目を向けた。
『……これは一体何をしておる?』
私の目に映ったのは、国王に対してひたすら旅の記録と読み上げを繰り返し要求する勇者の姿だった。
国王がグッタリと疲れ果てた顔で『冒険の書に記録するかね?』『よくぞ戻った勇者よ』と同じ言葉を反復していて、やっぱり他人事ながら気の毒すぎて見てられない。
『ハッ! これはまさか……!』
『何か思い当たる事があるのか!?』
『禁断魔法、サブフレームリセットです!!』
そろそろ慣れてきたけどホント意味わかんない。
『何それ……』
大臣は
『国王が旅の記録を記している途中に勇者が冒険の書を引き抜き、その記述を破綻させているのです……』
『意味わかんない』
思わず本音をこぼしてしまった私を見て、大臣は慌てた様子で首を横に振る。
『ヤツは旅の再開地点のマップ座標を偽装し、直接この玉座の間に乗り込むつもりですぞ!!』
『なああああーーーーーっ!!?』
『バルトラント王国のマップ番号下位8ビットをゼロクリアすると、魔王城の座標ですからなぁ』
『しみじみボヤいてないで、さっさと準備しなさいよぉっ!!』
私はバタバタと慌てながら使者達を呼びつけ、急いで戦闘の準備を整える。
やっとの事で装備を調えると、再び勇者の動向を見守る為に水面の前に立った。
<現在地:バルトラント王国>
・
・
<現在地:バルトラント王国>
・
・
<現在地:はじまりの村>
『あれ!?』
水面に映る映像がいきなり
それを見て、大臣はホッと安堵のため息を吐いて笑みを浮かべる。
『……勇者はリセットのタイミングを誤り、チェックサムエラーで冒険の書を消失してしまったようですな』
『言葉の意味は分からないけど、助かったの!?』
『はいっ!!!』
『うわああああーーー! よかったああああーーーっ!!!』
泣きながら喜ぶ私と大臣の姿に、通りすがりの炎王フォトナは不思議そうに首を傾げるばかりだったとさ……。
< 本日の魔王城修繕報告書 >
1.マップ番号をユニーク値に変更し、座標改ざんで魔王城に到達できないよう修正。
2.玉座を改造し、足下からすぐに対勇者用装備を取り出せるように保管庫を増設。
(追伸)
各国に密使を送り、記録中の冒険の書を勇者に奪われないよう注意を促しました。
以上。
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