3 そうだ、プリンを食べに行こう

「人間界に住む魔物からのご報告です。未だ勇者の生まれ変わりは見つからず、現在も捜索を続けているとの事です」

「そうか……。はぁ~あ……」


 王座の間にて、今日もラトスのつまらない報告を聞く。その内容に、ルキは肩を落とした。勇者の生まれ変わりである少女を逃してしまったあの日から3日が経ち、日を増す毎にルキのため息も増えていった。


「では、私は捜索の仕事に戻ります。ルキフェルア様もシャキッとしてください。気分が優れないのであれば、気晴らしに外出などいかがでしょうか?」

「んー……」


 ラトスが退室し一人になったルキはだらしなく王座に座り、うーんと唸りながら天井を見つめる。


「……プリン食べてぇ」


 唐突に、大好物であるプリンの存在を思い出すルキ。

(そういや、人間界にもプリンがあるって聞いたことあるな……どんなんだろ……食べてみよっかな)

 思い立ったが吉日。さっそく人間界に繋がるゲートを作る。

(確か、キッサテンって所にはお茶と甘いもんがあるんだよな。それなりに大きな街だったらあるかな)




 *****




 人間界に着いたルキは草原の中にいた。少し離れたところには王国が見える。おそらく城下町も栄えているはずだ。喫茶店のひとつはあるだろう。

(あ。この姿で行ってもプリン食べれるどころか街にも入れないな……)

 ルキは改めて自分の格好を見る。のどかな草原に相応しくない、いかにも悪者ですといった暗い色合いの高貴な服装と、どう考えても人間とは言えない角と牙と肌色。

 ルキはパチンと指を鳴らした。すると、皮膚は人間の肌の色に変わり、牙は短くなり、角がだんだんと無くなって消えた。そして角の名残なのか、特徴的なアホ毛が左右にぴょこんと立った。服も、白いシャツに黒のジャケットといった人間らしいものに変えた。

 どこからどう見ても、都会っ子と言われるようなオシャレな人間である。

(変装はばっちりだな。うん、なかなか悪くない。んじゃ行くか)




 *****




 時刻は午後3時。間食にはちょうどいい頃である。

 ルキは街に入って喫茶店を見つけた。中は人で賑わっていて、偶然にもルキで満席状態となった。店員にテーブルへ案内され、さっそく紅茶とプリンを注文する。

 しばらくすると、店員は先に紅茶だけを持ってきた。


「申し訳ございませんお客様。ただいま行列が出来ていまして、他のお客様との相席でも宜しいでしょうか?」

「構わねぇよ。いいからプリンを持って来い」

「ありがとうございます。ただいまお持ちしますね」


 魔物とはいえ、これでもルキは王子として育ってきた。困っている者には手を差し伸べる優しさはある。おまけに今のルキは、完全にプライベートである。単純にプリンを食べにやって来ただけなので、わざわざ人間と争う必要がない。


「あの、相席ありがとうございます! 失礼しますね!」


 突然、ルキに可愛らしい女性の声が向けられる。


「ああ、別に気にしな……。んっ……!?」


 目の前に座る相手を見たルキは、思わず品もなく紅茶を吹き出しそうになる。


 それもそのはず。テーブル越しにルキの前に座ったのは、3日前に殺し損ねた、勇者の生まれ変わりである、あの少女だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る