第164話 エレミヤ 哀歌Ⅱ
ハナス 「エレミヤさん、では私の好きな詩を教えちゃいますね。聞いていて下さい」
エレミヤ「分かりました。一章からどうぞ」
一章――「今や、彼女は一人で座っている。人で溢れる都市だったのに。やもめのようになってしまった。彼女は夜に激しく泣き、涙が頬を伝う。愛人は一人も慰めに来ない。友は裏切り、敵となった」
エルサレムを擬人化して、やもめとなった彼女に語らせます。
「神は高い所から私の骨の中に火を送り込み、全ての骨を服従させます。私を惨めな女にしました。神は私を敵の手に渡しました。私は彼らに抵抗出来ません。神はユダの処女である娘、私をブドウの搾り場で踏みつけました。神は正しい方です。私がその方の命令に逆らったのです。私は動揺し、心が乱れています。あなたにことごとく逆らったからです。私は何度も溜め息をつき、心が病んでいます」
この擬人法さすがです。では二章いきます。今度はエレミヤ視点で、神の怒りを書きます。
二章――「神は怒りに燃え、イスラエルの力を全て断った。神は敵のように弓を曲げ、右手を構え、好ましく見える人たちを皆殺していった。神はご自分が言ったことを、ずっと昔に命じた事を実行した。容赦なく打ち壊し、敵がエルサレムの事で喜ぶようにした」
そのあと、エレミヤは自分の気持ちを語ります。
「神よ、ご覧ください。あなたが非常に厳しく扱われた者を見て下さい。女性たちが、自分の産んだ健康な子供を食べることが続いて良いでしょうか?あなたは怒りの日に彼らを容赦なく殺しました。神の憤りの日に全ての人は敵に根絶やしにされました」
神に対する問いかけです。続けて三章でエレミヤは、自分の苦悩を語ります。
三章――「私は神の激怒の杖による苦悩を見た者である。神は私の肉と皮膚を衰えさせ、私の骨を折った。神は私を壁で囲み、逃げられないようにした。神は熊のように、隠れているライオンのように私を待ち伏せする」
やはり、預言者としての任務から逃げたい事もあったのでしょうね。プチクレームです。四章ではまた、エレミヤの民の様子を語ります。
四章――「以前、ごちそうを食べていた人たちが飢えて、通りに横たわっている。高価な服を着て育った人たちが灰にまみれている。剣で殺される人の方が、飢え死にする人よりもましだ!」
エレミヤは自分の愛したユダ国民が、餓死していくのを見たくなかったのでしょう。そして、母親の非情さを嘆きます。
「ジャッカルでさえ乳を与えて子を養うのに、私の民は荒野のダチョウのように冷酷になった。自分のものではないかのように」
母親をダチョウに喩えます。ダチョウの雌は危険に直面した時、ヒナを見捨てて逃げるからです。ジャッカルの母性愛に見倣えって事ですね。
私は今、豊かな国日本で生活していますから、エルサレムの女性達を非難することは出来ません。貧しい国に生まれたら、自分の子供を売るかもしれません。極限まで試されないと自分の本質は分からないのです。
エレミヤは最後の五章で希望を語ります。バビロン捕囚から帰還した民の信仰の祈りです。
五章――「神よ、私たちに起こった事を思い出して下さい……あなたは本当に私たちを退けられるのですか!極みまで私たちを怒られるのですか」
これは修辞疑問文ですから、エレミヤが神に尋ねているのではなく、自分の信仰を強調し、必ず神は、民を受け入れて下さるという確信から出た言葉です。
エレミヤはアルファベット歌にする事で、もう一つのメッセージを伝えました。神に逆らうなら、AからZ、つまりありとあらゆる神の裁きが下るんだという事です。しかし、エレミヤは、将来の新しい契約に希望を持ち、バビロンから帰還した民は、もう一度神に立ち返り、真の崇拝を復興させるという事も信じて、哀歌を書き上げました。
ハナス「エレミヤさん、お疲れ様でした。次回、あなたにポエムを捧げます。さようなら」
エレミヤはずっと泣いていました。手を振ってさよならしてくれました。
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