第6話 登山妖精のあの人に会いたい
☆
何かの間違いだ。そう私は思う。
ミヤにはなぜ、エラとウロコがないのだろう。
存分に水を得た、山の魚には。
「――やだなあ、熱なんてないよ!」
言われて気づく。
私が右手を、ミヤの頬に伸ばしていたことに。
肌ごしに伝わる、冷たくさらさらとした皮膚。
エラとウロコは、おそらく無い。
……いや、問題はそこではない。
「ご、ごめん」
おそるおそる手を離しながら、私。
「ううん、本当に誘ってるの、信じられないかも知れないもんね。でも、これで分かったでしょ?」
その笑みに。
訂正する気は根こそぎにされる。
言えるはずもない。
あなたが魚かどうか確かめていた、などとは。
「……人混みがいやなら、単独登頂すればいいじゃない」
代わりに私は、そんな言葉を口にする。
我ながら冷たい声だったと思う。
後ろめたさを隠すための、過剰な冷たさ。
「ミヤの腕なら、その選択も出来るでしょ」
「うーん――前やってみたんだけどね、それも違ったんだ」
そのやってみたには、聞き覚えがない。
「……どこに」
「マッシューブルム北東。まだ登りきった訳じゃないけど――あっ、これ秘密にね! いろいろ、下準備も計画してるから――」
・
お魚様は私の、どこがお気に召したのだろう。
腕でないことは確かだ。
声をかけられ付き合ってしまう人の良さか、それともあり余る愛嬌か。
……思い当たる節はない。
それでも、分かることはある。
安易な餌付けはダメだ。
たとえそれが、どれだけ綺麗な魚であっても。
人の言葉を話す魚など、セイレーンに他ならないのだから。
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