第4話 登山妖精、語る。

   ☆


 女子大以来となる旧友の、直々の誘い。

 それは本来、何かしら裏を疑うべき状況のはずだ。


 「ミヤ……お誘いはありがたいけど」


 言質を避けて、私。


 「あなたの腕なら、引く手はいくらでもでしょ」


 それでも。

 詐欺めいた何かを疑わないのは、相手がミヤだからとの一点に尽きる。

 手練手管を駆使できるほど、魚に表裏の別はない。


「うん、誘ってくれてる人はいっぱいいるよ」


 わずかな落胆。

 ……落胆?

 時ならぬ感情に、遅れて戸惑う。

 私はいったい、何を期待していたのだろう。

 心中ひそかに、私は首を振る。

 誰かに貢ぐ人間の気持ちが、ほんの少しだけ分かった気がする。


「――でもさ、ちょっと違ったんだよね」


 わずかな沈黙。


「エベレスト」


 「え?」


「あれにさ、この前また、登ってみたんだけど」


 言われて、私は思い出す。

 女性登山家クライマーの何度目かの登頂。

 そんなニュースが、TVで流れていた気もする。


 「……おめでと」


「――うーん」


 珍しい思案顔。

 こんな時にミヤの考える事は、正直よく分からない。


「――あ、ありがと! でもあんまり、おめでたくはなかったかな――」


 もっと意味が分からない。

 山から帰ってきたこと。

 無事登れて、陸地まで帰ってきたこと。

 その貴重が分からないほど、ミヤは無謀でないはずだ。

 たとえその登山が、常に天候までを味方につけた百発百中であっても。


「――てっぺん」


 そうミヤは切り出す。


「てっぺんがね、混んでたんだ」


 「……混雑? エベレストで?」


「うん。いろんな人が、いっぺんに行くからね――登るの、順番なんだよ。誰かが降りて、やっと誰かが登れる――あそこ、狭いんだ。ちょうど――」


 辺りを見渡し、何かを探る。


「――この辺り、テーブルと椅子を合わせた位だったよ」


 再びの沈黙。


「なんて言えばいいのかな、またそれ見たとき、あ、やっぱりなって――」

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