テンプレラノベにおける初手決闘は基本

 というかなんだ? “摂理破壊の使役者”とかいう二つ名。スレイの過去に何があったらそんな名前で有名になるの? 単に摂理破壊の精霊を従えてるだけで付くんだろうか。


「会長! このような下郎の相手などして何かあったらどうするのです! ここは私が…」

「エイジャ。わたくしが、殺ります」

「は、はいぃぃ!」


 殺意の波動に目覚めちゃってる会長を目の当たりにしてちょっと現実逃避をしてしまった。しかし結局こうなってしまったか。できれば決闘は避けたかったがこれが主人公の運命力というやつか。導かれてるな俺。


 しかしそんなことよりも、だ。俺は表情と気を引き締めて会長に向き直る。


「二つ、いや三つほど聞きたいことがある」

「な、なんですの」


 雰囲気の変わった俺に少し狼狽える会長。いやそんなことよりも。


「たしか決闘は申し込む際に相手の足下に自分の手袋を片方放りつける。放りつけられた方は学園側と決闘をする生徒が正当な異議を申し立てない限り決闘を拒否できない。また、決闘に至るまでの過程にどちらか片方に明確な非があると学園側に判断された場合も拒否できない。そうだな?」

「ええ。そうですわ」


 ここまではアニメで予習済みだ。今回は後者が大きく条件を満たしていると考えられる。そしてここからはアニメで描写されなかった点を確認する。とても重要なことだ。


「じゃあ、その放りつけられた手袋はどうするんだ? これは、俺が貰っちゃっても良いのか!?」

「えっ」

「どうなんだ!」


 俺は不退転の気合いを入れてすごむ。今日一番すごむ。だってそうだろ! 学園の生徒会長で理事長代理で理事長の娘で美少女で金髪ドリルで巨乳でメガネが似合いそうな美少女でいいにおいがして揉み心地抜群のおバストを持つ柔っこい美少女なお嬢様の手袋だぞ!? 


 捨ててあったら拾うだろ! 片手でも! 男なら絶対拾う。だから重要だ。コレは俺のモノに出来るのか否か。アニメでは描写されてなかった。頼む! くれ!


「そ、それは投げられた側が決闘を受ける意思として自分の手袋を投げて交換という形になりますが」

「はい手袋投げたー! この手袋は俺のモノだ! ふひひ」


 っしゃオラァ! もろたで工藤! ふふん……これは真空パックで保存ですね。真空パックとか存在するのかしら。しかしこれに会長の御手が入っていたかと思うと捗りますな! あ、なんかエイジャがうらやましそうにこっちを見ている。だめだよ! コレは俺んだからね! 欲しかったら会長と決闘しなさい。


 ちなみに俺を含め学園の生徒達はいつでも決闘できるように手袋をはめている。


 しかし、ならば頻繁に決闘が起こるのかと問われればそんなことはない。


 学園から支給される手袋は三年間で三着。つまり入学当初から二年生になるまでは二回しか決闘を行えないということだ。投げた手袋は着用を禁じられているため、二回決闘してすでに手袋がない生徒へは決闘が出来ないし、学園が認可するに限りなんでも一つ言うことを聞かせることが出来る可能性がある券である。入学早々に易々とは使えない。だから今回は異例のケースなのだ!(アニメ一話より引用)


 しかし、ふふ。いい匂いのする手袋だ。何か鮮度が落ちないようにする方法はないだろうか。


「それで? もう一つ確認したいことがあるのでしょう?」


 急激にキモくなってる俺に水を向ける会長。こういう司会進行力が会長たる所以だったりするんだろうか。


「ごほん。決闘の取り決め、すなわち勝った方が相手に出せる条件について聞きたい」


 咳払い一つでさっきまでの俺を吹き飛ばしてまた裂帛の気合いを込める。これも重要なことだ。


「それも学園側が異議を申し立てないならばどんな条件でものまなくてはならない。そしてその条件は決闘をする生徒は拒否できない、だったね会長」

「そ、そうですわ」


 そう。つまり学園が許可する限りなんでも、なんでも言うことを一つ聞かせられるのだ! 摂理破壊の精霊使い最高すぎんだろ!


 ちなみに勝利条件は「相手を気絶させるまで」である。降参コマンドはない。試合前に逃げてしまうと学園側からもペナルティを科せられるとかいうちょっとばかしハードな仕様である。敵が魔物だからねぇ。前線において基本命乞いが無意味な状況が常だからそんな感じのルールになったらしい。(祐司談)


「なら会長。今決めてしまおう。お互い賞品があった方が張りあいが出るだろう?」


 俺のその言葉に若干勢いに呑まれ気味だった会長は不適に笑い扇を俺に向ける。


「その余裕いつまでもつか見物ですわね」


 その表情はアニメで見た会長よりもイキイキしていた。


「いいぜ。じゃあ会長、君が勝ったら俺に何を望む?」

「わたくしが勝ったら全校生徒の前でエイジャと私に全裸で土下座して誠心誠意謝罪してていただきます。謝罪の際には私とエイジャの、その、も、揉まれた回数分私お手製の鞭で打たせていただきますわ!」


 土下座文化あるのかよ。全校生徒の前で全裸土下座させられながら鞭打ちとかえげつないな。つーか、


「42回もぶたれちゃうんですか俺!?」

「そんなに揉んだんですの!?」


 しまった墓穴った。片手で21揉み×2とかきっちり計算してる場面じゃなかった。


「それはさておき」

「さておかないでくださいます!?」

「さておき俺からの条件だが……ふふふ」


 こう、許可されれば何やってもいいよって言われると例え勝算が低くても口元が緩むよな。会長は何を要求されるのかと自分の体を抱くようにして身構えている。しかしそれでは却って自身のデカメロンを強調して本末転倒ですぜ会長!


「俺の要求は、そうだな。俺が勝ったら会長にはメガネをかけてもらう」

「メガ……え?」

「メガネをかけていただこう。そして可能ならメガネを着用した状態で毎日一度は俺に挨拶をしに来ていただこう」

「は、はぁ?」


 くくく。なんのことかわからないって顔してんなぁ。周りを見回してみれば誰も彼も意味不明って顔して……お?遅刻男子と目が合うと神妙にうなずいてきた。こいつ…あとで学食で一番高いもん食わせてやろう。スレイの金で。


「いいか? こちらが指定したメガネをかけるんだぜ。勝手に変えたりしてはいけない。人前でつけなくてもいいが俺の前では必ず着用してもらう。そして俺が指示したら別のメガネをかけるんだ。その際それまでつけていたメガネはこちらが頂く。なんならかけるメガネはこちらが自費で用意してもいい。期限は俺かあんたが卒業するまでだ」

「エイジャ! エイジャ! どうしましょう、この方なんかすっごく怖い!」

「会長がんばって! もう手袋投げちゃってますから後戻りはできません! がんばって!」

「な、なんだかとっても嫌ですわー!」


 うはは。どうせ九分九厘負けるのだ。条件くらい好き勝手させていただくぜ。


「スレイ、あんたそんなにメガネ好きだったの?」


 俺と会長との舌戦? にフィーネが合いの手を入れてくる。そしてその問いの答えは決まっている。


「大好物ですが」

「ふ、ふーん? あたしもかけた方がいい?」

「是非」

「そ、そっか。じゃあ今度着けてきてあげるよ」

「是非」


 なんだそのご褒美。すごい。主人公のモテ効果すごい。元の世界での交際は大体ここで躓くんだよなぁ。いいじゃんよメガネかけるくらい。伊達でいいからかけてくれよ。俺はちょっと常人よりメガネに対する造詣が深いだけだっつーの。


『話は聞かせてもらった!』


 大画面モニターにいつの間にか壇上に上がっていた白髪髭面、右目に眼帯を装着したナイスミドルが顔面ドアップでそう言い放った。あいつはアニメにも出てたな。確か決闘科筆頭教師兼学園決闘指南役教師だったか。肩書き長すぎない? アニメで肩書きのテロップ出た時は漢字多すぎて中国語かと思ったわ。


「あなたはダルムール決闘指南役! お噂はかねがね」


 俺は訳知り顔でそう叫ぶ。いや一話でちょろっと見ただけだけど。でもこう、存在感のある爺さんってすっごい記憶に残るよな。


『ほう、ワシを知っておるか。流石はベルフォードの小せがれ、というやつかの!』


 そう言うと爺さんは壇上からふわっと飛び上がると文字通り一足飛びで俺たちの元へぶっ飛んできた。すげぇインパクトだな! あとスレイってばちょっと有名人過ぎやしませんかね。


「ワシが決闘科筆頭教師兼学園決闘指南役教師、ダルムール・エヴェンギッサじゃ。入学初日から決闘とは前例がないが気骨があって大いに結構。先ほどの条件で決闘を受理しよう。入学式が終わり次第、コロッセオに来い。ワシがこの勝負の行方を見届けてやるとしよう」


 ダルムール決闘指南役は仁王立ちの格好で豪快に着地してそう言い放った。


 こうしてこの俺、鈴木康太郎ことスレイ・ベルフォードと生徒会長キャサリン・リリアーノとの決闘が決まったのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る