毒を食らわば皿まで

 毒を食らわば皿まで、という古事成語がある。古くは「毒食べたんならどうせ死ぬことだし、盛られた皿をベロベロ舐めても今更だよね」と開き直って突っ走っちゃうことに基因する。(俺翻訳)


 RPG的には魔法攻撃力が爆上がりするけど最大HPが半分になる装備を着けてHP全損魔法を撃つような、そんな命を擲った漢らしい潔さにも似た生き様を連想することが出来る古事成語だ。実際は犯罪者が徹底的に罪を犯しまくるとかいう物騒な由来だが。


 さて、いらない前置きを挟んだが今一度状況を整理するとしよう。何もないところですっ転ぶという某神が作りたもうた伝説のラブコメ奥義を俺は発動させたわけだ。で、その拍子に理事長の娘で理事長代理で新入生で二番目に強いとされる生徒会長とその側仕えを押し倒したわけだ。


 超いいにおいする、とか近くに感じると美少女さが余計際立つ、とかそんな場合じゃない。


 ……触ってしまってるのだ。二人のおバストを。片手に片方ずつ。現在進行形で。


『きっさまー! よくも乙女の乳房に触れてくれたな! ここでぶっ殺してやる!』

『無礼者ですわ! 嫁入り前のこの私の体によくもやってくれましたわね! 決闘ですわ!』


 今は急展開に二人とも固まっているが数秒後にこんな展開になることは想像に難くないな。うん。


 ならば! どうせ決闘か死は免れないのだし! おバスト、揉んどこう。悔いがないように揉んどこう。


 必要なのはッ! 避けられない事故に対面したときにアクセルを踏み込む勇気ッ!! 


 そして俺の、いや俺のテクとスレイの手が織りなすゴールデンフィンガーが唸りを上げる!


「わひゃあああああああああ!!!?」

「えっ?なっ……!?」

「いよっしゃあああああああああああぁやぁわこぉおおおおぉいぃぃぃいいぃぃうああああははははははっははっははっっはっははは!!!」


 よいぞよいぞ! 羞恥に声を上げる乳も設定も盛り盛り生徒会長も、脳内で処理できる事態を越えた展開に茫然自失してる側仕え生徒会役員も、乳を揉んだら皆同じ! 大丈夫! 許される! だってスレイイケメン主人公だし!  イケメンなら! イケメンならきっといける! さぁもっと輝け俺の両手!


「き、きしゃまっ、いつまで揉んでいるか! この下郎!」

「ぐっふぉぉ!」


 どのくらい揉んでいたか。10秒、いや5秒程だったかもしれない。我に返ったエイジャに重たい蹴りを鳩尾にもらい吹っ飛ぶ。だが一片の悔いはない。あるいは俺はこのためにこの体に喚ばれたのかもしれない。スレイもがっつり乳揉めたんだ。同じく本望であろう。


「どどど、どういうつもりですのあなた! 乙女を押し倒した上に、その、む、き、胸部を揉みしだくなんて!」

「いぃやぁ、事故です。足を滑らせて起こってしまった悲しい事故です。このイケメンに免じて許してください」

「反省の色が全く見えない謝罪ですわ!?」


 突然の辱めに顔を真っ赤にして抗議してくる会長に俺は誠心誠意言い訳をする。


 しかし女子の恥ずかし顔は良いな! これが二次元から出てきた美少女なのだから破壊力も相当なモノだ。あぁ、メガネかけさせたい。鳩尾痛い。


「あれだけ叫びながら容赦なく揉んでおいてそれが通るとでも思っているのか貴様!」

「だって! 倒れたときにはもう触ってたんだもん! そしたら怒って殺しに来るでしょ! だったら死ぬ前に揉むでしょ男子なら! 男子なら! だって俺ってば男の子なんだもの!」


 どうだ言ってやったぞ! 会長もエイジャも俺のセリフに口をあんぐりと開けている。


 周りを見渡せばすっかり蚊帳の外となっている遅刻少女と遅刻男子と目が合う。


 遅刻女子は何が何だかという困惑の表情だが遅刻男子はアルカイックスマイルとサムズアップをセットでくれた。助かって良かったなお前! あとで飯にでも誘おう。………あとがあればな。(白目)


「何を意味のわからぬことを言っているか貴様!」

「そんな話、通るわけないでしょ!」

「ぐっふぇ!?」


 エイジャの当然の抗議のあとに、今までスタン状態にでもなってたのかフィーネが遅まきながらツッコミついでに鳩尾に鋭い拳をくれる。鳩尾好きだな女子諸君! 男の象徴を狙わない辺り良心的ではあるのか。鳩尾痛い。


「スレイ! あんたどうしちゃったの!? やっぱり今日のあんた変よ! とっても変! 変よ!」

「大丈夫。大丈夫だフィーネ。俺、イケメンだからきっとなんとかなるよ」

「変よ!」


 それは仕方ないことだ。外面こそスレイだが中身は鈴木康太郎だもの。その辺の草食系主人公とは話が違うってもんだぜ。


「スレイ……?コレがスレイ・ベルフォードですの?」


 コレとは失礼な。確かに今の俺はスレイだか鈴木 康太郎だか判別つかないがコレ呼ばわりとは失礼しちゃうぜ! この金ドリ! おっぱいお化け! 揉み心地抜群! ごちそうさまでした!


 あと俺のファミリーネームが判明した。ベルフォードとかいう中二心くすぐるとっても素敵なファミリーネームでした。


「この男が入学試験実技一位の!? どうして面接で落とされなかったのだ!?」


 驚愕の声を上げるエイジャ。


 そりゃ、校門くぐる前までは「スレイ」だったっぽいしな。スレイは内面も多分イケメンだし落ちる理由がないぜ。


 そのエイジャの声に会場もざわめき出す。そういえばスレイの実力は周知されているんだったか。過去のスレイが何をやったのか気になっちゃうね。


「そう……貴方が。“摂理破壊の使役者”スレイ……」


 会長はそう言うと俺の足下にたった今まで装着していた手袋を投げつけた。その表情は怒りやら悔しさのようなものが入り交じったものに見える。あっ、これは。


「決闘ですわ……。ぐちゃぐちゃにしてあげますわよ」


 ですよねー。

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