第31話 疾きこと風のごとく
二年の桐嶋は中学時代、陸上部でスプリンターだった。高校からサッカーを始めたが、100メートルをなんと10秒1で走る。
「用意はいいかメシヤ」
「いつでもどうぞ」
「よし」
部員たちが見守る中、北伊勢高校サッカー部で一番速い男を決する戦いが始まる。
大空はパントキックで高く蹴り上げた。
メシヤ・桐嶋が一斉に走り出す。
桐嶋が一歩二歩と前へ出た。それもそのはず。桐嶋は100メートル10秒1。メシヤは11秒0。物理的に当たり前の現象が起きただけだった。
普段は顔に出さない桐嶋も口の左側をつり上げ笑った。
「なんだよ、口だけかよ。藤原」
「だっせ~」
部員たちは軽口をたたいた。しかし、メシヤが両腕を広げると、加速度に背中を押され、ぐんぐんその差が縮まっていった。余裕の表情だった桐嶋も顔に動揺が走った。
(馬鹿野郎! ボール追っかけてる時の俺はなあ、ウサイン・ボルトよか速えんだ!)
メシヤは気分が乗ると少々口が悪くなるようだ。
またたく間に桐嶋を追い抜き、反対側ペナルティエリアに到達していたボールにメシヤは追いついた。
「そんな・・・俺が・・・」
ショックを隠せない桐嶋。蹴球界、いや、陸上界にも同じ歳では敵がいなかったからだ。
「いいものを見せてもらったぞ、桐嶋、メシヤ」
大空が二人にねぎらいの言葉をかける。
「メシヤよ、どこであんな走り方を学んだんだ?」
「子供の頃にやってた忍者ハッタリくんですよ。忍者はああやって走るみたいですね」
「漫画も馬鹿にはできないな。さしずめメシヤのあれは忍者走りだな」
「桐嶋さんも忍者走りをすればたぶん僕より速くなりますよ」
敗者にも気遣いを見せるメシヤ。
「ははは、俺も真似してみるよ」
「ただ、ボールを持っていない時の走法ですね、あれは。ドリブルの時は切り返しもありますから、手の動きは固定できません」
「ああ、そうだな。またお前のアイデアを聞かせてくれよ、藤原」
「はい、喜んで!」
メシヤはもともと色んな発想が湧いてくるタイプではあったのだが、聖剣と聖杯を手に入れてからというもの、その頻度が増してきた。そして周りを巻き込んでいく。まがうかたなき、インフルエンサーであった。
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