大きなツインシュー 1点
買い出しはいつも行き当たりばったりだが、きょうはお目当ての品がはっきりしていた。ザスコ系のスーパーマーケット「ハックスバリュ」に立ち寄ったおれは、迷わず乳製品コーナーに向かい、目当てのパンまつりシール対象商品を見つけた。
パンではなくてスイーツである。
『大きなツインシュー』。ハックスバリュにおける税抜価格は98円。消費期限があさって以降のものだけを選んで買い物かごに入れた。
ハックスバリュにはセルフレジがある。バーコード読み取り装置とデジタルスケールを組み合わせた設備にむかって、おれはツインシュー5個をレジに通した。
忘れてはいけないことがある。ツインシューの温度管理である。セルフレジコーナーに常駐している店員さんに声をかけた。
「ドライアイスをください」
やがてメダルをもらえる。これでドライアイス射出機を1回分使えるようになる。
ツインシューはその名があわらすとおり2種類のクリー厶がシュー皮に充填されている商品である。カスタードクリームとホイップクリーム。ドライアイスによる温度管理を要するのはホイップクリームのほうだ。温まると溶ける。ホイップするまえに先祖返りしてしまう。だからドライアイスで冷やすことによってホイップクリームをふわふわの状態のまま北高に持って帰ることができる、という寸法だ。
「待たせたな。買ってきたぞ」
おれが帰還のあいさつをしたのに、誰ひとりとして返事がなかった。
なぜなら──ハルヒと古泉はボードゲームに熱中していたからだ。『枯山水』というマニアックなやつ。朝比奈さんは、なぜか目隠しをされて亀甲縛りのままパイプ椅子に座っていた。長門は読書中。
「あ、おかえりなさい。遅かったですね」
いつもの愛想笑いを浮かべながら古泉が顔をあげた。
「わざわざ遠くのハックスバリュに行かなくても──僕は北高近くにあるローソンで売っている互換品でも良かったのですが」
うるせえ。だが、その意見は正しいと言えなくもない。ローソンにもほぼ同じ商品が売っているからだ。山崎製パン株式会社によるOEM商品『大きなツインシュー』は、しかしながらローソンPB扱いなのである。パンまつりシールを貼っていない。おれたちは(ハルヒが始めたことだが)パンまつりシールを25点分あつめて皿をゲットするためにヤマザキパンを短期集中的に買い漁っている。せっかく買うならば、シールが貼ってあるヤマザキ純正『ツインシュー』を買うのが筋である。
「さあ食べましょ! みんな、飲みものは何にする?」
ハルヒはアゲアゲのテンションだった。ボードゲームで勝利したらしい
「たいていのものはご用意できますよ」
朝比奈さんはメイド服に着替えていた。さっきまで目隠し猿ぐつわ亀甲縛りによって拘束されていたとは思えない、天真爛漫なほほほえみを浮かべている。
「キョン、あんたは何を飲むわけ?」
買い出しに行ってずいぶん身体が冷えたから……ホットカフェオレにしておくか。
「僕はストレートティーをいたただきます。きょうはフォートナムアンドメイソンの気分ですから」
くけーっ。気取りやがって。
「……プアール茶」
渋いな、長門。ヤムチャの唯一のお友だち。そういえば、あの子ってオスなのかメスなのか。
「ハルヒは何を飲むんだ?」
「あたしは──何も飲まないわ。ノー・ドリンク。なぜならヤマザキのツインシューは飲み物に手を伸ばすヒマなんて与えてくれないからよ。あえていうならシュークリームそれ自体をむさぼり飲むことになるんだからねっ」
カスタードクリームは小麦粉と牛乳と砂糖とバニラエッセンスを混ぜて作るものだ。カスタードクリームは独特のねっとり、とろーり感がうまい。一方のホイップクリームの原材料は生乳である。動物性脂肪をほどよく冷却しながら攪拌することによって固化するが、ホイップクリームの温度変化によってふたたび生乳に戻ろうとする液状化現象が生じる。
「液状化したホイップクリームこそがツインシューが飲み物であるゆえんよ! カスタードクリームもトロトロしているから、いちど噛みしめることによってシュー皮を破いたが最期、洪水のごとくあふれでるカスタードクリームとホイップクリームの脱落を防ぐためには片手では足りず、思わず両手をつかってまるで野生の果実をむさぼる猿のごとくならざるを得ないってわけ!!」
このあと、おれたちは滅茶苦茶シュークリームをむさぼり食った。
ガブッ、じゅるるるっ、はむっはむっ、ぺろぺろ、ぶちゅるるうっ、はむっ、べろりんちょっ、はむっはむっ、べとぉぉぉっ、じゅぶばるぅぅっ!!!!
・・・・・・・
きょうもSOS団はにぎやか。つづく。
商品名『大きなツインシュー』
今回の獲得シール 1点
累計 25点
「白いフローラルディッシュ」獲得!!!
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