こだわりソースの焼きそばパン 1点

 寒い。身体の芯から冷える。

 なぜか。

 おれが地べたに正座しているからだ。助けてくれー。

 場所は、おなじみ北高旧館の文芸部室。床はいわゆるスクールパケットと呼ばれる木目のフローリングである。当然のごとく硬くて冷たい。

 ハルヒに正座を命じられてから何分が経過したのだろうか。おれが買ってきた、ヤマザキ『こだわりソースの焼きそばパン』に激おこぷんぷん丸の様子だった。もういやだ。

「焼きそばパンって違法だと思うのよ。炭水化物であるコッペパンに炭水化物である焼きそばをサンドするなんて──ともすれば生活習慣病を誘発しかねず、ひいては社会保障費の指数的増大を招くわけで、納税者すなわち国民に対する大罪であるわけで、ゆえに焼きそばパンの違法性はあきらかでしょ? キョン、答えなさい!」

 あっ、はい。よくわからないっす。

「仄聞するとこによれば、とある未開地では焼きそばをおかずに白ごはんを食べる習慣がいまだに根づよく残っているとか……正気の沙汰ではありませんね。食人に匹敵する禁忌ですよ。パンに焼きそばを挟むなんていう発想は」

 古泉、おまえは相変わらず適応能力が高いなー。おぼえてろよ。

「ふぇぇ──お願いです涼宮さん。キョンくんを許してあげてください。きっと魔が差したんです。出来心で買ってしまったんです、ふぇぇ」

 朝比奈さんまで……。あなたに罪人扱いされるほどつらいことはないです。うぐぅ(男泣き)。

「……ギルティ」

 長門。有罪判決、どうもありがとよ。長門有希の「有」は、有罪の「有」ってか? ちくしょう。みんなで焼きそばパンのことを馬鹿にしやがって。こうなったらヤケクソだ。おれが今からヤマザキ謹製による焼きそばパンの良さをおまえらに全力でレクチャーしてやろうじゃないか!

「耳の穴かっぽじってよく聞けよ。おまえらが焼きそばパンにどれだけの偏見をもっているかは知らんが、ヤマザキパンの焼きそばパンはそんじょそこらの不出来な焼きそばパンとはまったく異なる。いちばんの違いは焼きそばの仕上がりだ。きっと、おそらく、焼きそばパン専用の製麺工程を経ているぞ、この焼きそばのクオリティは。食感は焼きそば麺の形状を保ちながら噛めばモチモチしてまるでグルテンでつくった肉のような心地よい歯ごたえを実現している。たいていの焼きそばパンの焼きそばは炒めすぎてボソボソしているものだが、ヤマザキの焼きそばパンの焼きそばは瑞々しくてシズリーなので舌ざわりが良い。加えて、ウスターソースが麺芯までしみこんでいるからコッペパンの具としての役割を十二分に果たしている。紅しょうがも完備。原材料表示によれば隠し味としてわずかにマヨネーズも含まれているので風味絶佳。パンに焼きそばをはさむだけでは焼きそばパンを名乗る資格はない。そんなもんは単に焼きそばをパンにはさんだものにすぎないからだ。山崎製パン株式会社の焼きそばパンこそは我が国の焼きそばパンにおけるメルクマールである。わかったか!」

「「「「「わかった!」」」」

 このあと。おれが買ってきた焼きそばパンをみんなでおいしくいただきました。


 ・・・・・・・


 きょうもSOS団はにぎやか。つづく。


 商品名『こだわりソースの焼きそばパン』

 今回の獲得シール 1点

 累計 24点

「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと1点

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る