まるごとバナナ 1.5点
「当然ですが──SOS団お楽しみクイズ!」
姿をあらわすなり、我らがSOS団団長である涼宮ハルヒが騒ぎ出した。場所はおなじみ北高旧館の文芸部室である。
「問題です。ヤマザキパンの3大秘宝といえば?」
最近のハルヒは、寝ても醒めてもヤマザキパンのことを考えているようだった。
ヤマザキパンの3大秘宝? 要するに「ヤマザキパンのうまい商品ベスト3」ってことか。おれが好きなのは──
「高級つぶあん。ランチパック(ツナマヨネーズ)、あとは──」
「──ふむふむ。キョンのくせに正解しそうな勢いね。じゃあ、もうひとつは?」
「……ケーキドーナツ! あれは最高にカラダに悪いけれど最高にうまい」
「ファイナル──アンサー???」
「ファ、ファイナルアンサー、ですぅ」
なぜか朝比奈さんがおれの代わりにGOサインを出した。たぶん緊張感に耐えられなくなったのだろう。蛭子能収が葬式でつい吹き出し笑いをする不可抗力のアレと同じ症状である。
「ブッブー! 時間切れ!! ボッシュート!!!──正解は、まるごとバナナでした」
なるほど。納得せざるをえない。
まるごとバナナ。ヤマザキの生洋菓子ラインナップにおいて最高位に位置する商品である。他の大手製パンメーカーは真似をしたくてもできない。
なぜか。
製造工程にまつわる特許などの参入障壁──否、そもそも「皮を剥いたバナナ」「生クリーム」という傷みやすい食材をかけあわせた生洋菓子を、大量生産して、バナナがちょうど食べごろの状態になるよう日本全国に安定的に計画輸送する──これが他社には真似できないのである。知らんけど。もしも山崎製パンが『まるごとバナナ』に関する情報すべてをオープンソースにしても再現するのは難しいはず。おなじ品質のコピー商品を製造販売できるとすればセブンイレブンジャパンくらいだろうね。たぶん。
「まるごとバナナ。尊い」
長門がつぶやいた。ハルヒ、朝比奈さんに加えて……おまえも好きなのか。まるごとバナナは女子高生と対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースに好評らしい。もしかして情報統合思念体の親分さんも好きだったりして。
「僕も好きですよ。まるごとバナナ」
そうか。古泉も好きか。そんなに好きなら、あとで『まるごとバナナ』の包装パッケージの内側についた生クリームを舐めさせてやろう。
高品質バナナの継続的な調達ルート、痛みやすく崩れやすいバナナと生クリームとスポンジを破綻なくパッケージングする製造ノウハウ、自社トラックによる盤石な流通網、どれかひとつが欠けても『まるごとバナナ』を365日にわたって安定供給することはできない。国民的スイーツは、まさに山崎製パン株式会社の「魔法」によって生み出されているといっても過言ではない。
「じゃあ、キョンよろしくね」
はいはい。買い出しに行けってことね。
およそ1時間後。コンビニを3軒もハシゴして、SOS団メンバーに行き渡るだけの『まるごとバナナ』を買ってきた。横展開の新商品として『まるごと苺』もあったが──パンまつりシールが貼ってなかったので見送った。『まるごとバナナ』本体のシールは1.5点である。ちなみに『まるごとバナナミニ』がいつのまにか発売されていた。シールは1点。
「さっそく食べましょ。みくるちゃん、ストレートティーの用意はいいかしら?」
「はい。ティーカップもほどよく温まっていますよ」
ふむ。熱い紅茶か。しかも無糖。ハルヒのやつ、なかなかセンスが良いな。その組み合わせには渋々ながら賛成せざるをえない。無糖ティーだけに。
まるごとバナナ。熟したバナナをスライスせずに生クリームとスポンジケーキで包んでいる。成人男性でもかぶりつくのに気合いがいるボリューム感。ずっしりとしたボート型スポンジケーキの両端からは、たっぷり純白の生クリームがはみだしている。
「ケチをつけるつもりはないんだけど──もうちょっと生クリームがほしいわよね。はしっこは多いけれど、中心部は生クリームが足りないもの」
なるほど。ハルヒの意見はもっともである。
バナナとスポンジケーキは共に水分含有率が低い。つまり喉に詰まりやすいのである。油脂である生クリームには潤滑効果がある。
これまでさんざん説明してきたとおり、まるごとバナナは「ヒトが造りし神の
・・・・・・・
きょうもSOS団はにぎやか。つづく。
商品名『まるごとバナナ』
今回の獲得シール 1.5点
累計 21点
「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと4点
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます