番外編 アップルカスタードデニッシュ(シール無し)
ハルヒに内緒で……シール無しのヤマザキパンを買ってしまった。
アップルカスタードデニッシュ。デニッシュ生地はなぜか食欲をそそる。ラピタのパン売り場にならんでいた『アップルカスタードデニッシュ』の包装パッケージを手に取ると「ずっしり」と重たい。おなじヤマザキの『アップルパイ』よりも身が詰まっている。これが購入の決め手になった。さぞや「アップルとカスタードがたっぷり詰まっているだろう」と期待したからだ。ひとつ買ったあと、シール有りのヤマザキパンとは分けてカバンに忍ばせておいた。
帰宅したあと、妹が寝静まってから、おれは自分の部屋でこっそりビニールの封をあけた。ビニ本ではない。ヤマザキ『アップルカスタードデニッシュ』の包装ビニールである。
商品名から連想できる「甘酢っぱいリンゴジャム」と「ねっとりしたカスタードクリーム」を期待して、おれはデニッシュ生地にかぶりついた。
期待ほどではなかった。
なぜなら、デニッシュ面積に比してアップルやカスタードクリームが少なすぎるから──じつは「デニッシュ系の菓子パン」に共通する特徴である。これから批判するのは、山崎製パンや敷島製パンやフジパンのような袋売りパンを販売しているナショナルブランドのデニッシュ系商品だ。ベーカリーショップのデニッシュは対象外である。
デニッシュ系の菓子パンにうまいもの無し。
鉄則を忘れて、無邪気にデニッシュ系の新製品を買い求めてはガッカリするルーチンをこれまで繰り返してきた。さんざん懲りているはずなのに、なぜデニッシュ系の菓子パンを買ってしまったのか?
山崎製パン『アップルパイ』が大好きだからである。しかし、ヤマザキのアップルパイの完成度に比べるとデニッシュ系のそれは月とスッポンである。
アップルカスタードデニッシュ。
アップルパイを平べったく延ばしたような外観だが、食べてみるとアップルパイほどパイ生地っぽくない。クロワッサンの表皮のごとく食欲をそそる外観でもあるけれど、クロワッサンのような油脂による「しっとり感」は再現されていない。デニッシュの舌ざわりは──食べられるダンボールとまで言わないが、お口に含んだときボソボソ感が際立つ。うまくない。
大手製パン各社は、チョコデニッシュやらハムデニッシュやらアップルデニッシュやらを発売している(新商品ラインナップに含まれていることが多い)けれど、どの製品もデニッシュ面積比率における具の割合がきわめて低い。具が少ないのは、せいぜい100円台で売るものだから原価率を抑えるためだろう。具が少ないからデニッシュのパサパサ感のほうが勝ってしまう。舌ざわりがよくない。デニッシュ系の菓子パンを買って食べるたびにガッカリする。
ところで。パイ生地というのは単体では価値が低い。パイ生地だけを食べてもうまくないからだ。デニッシュも同様である。そのまま食べてもうまくないのだから、せめて具材をおごるべきだ。
山崎製パン株式会社の開発者たちに告ぐ。御社の生産管理テクノロジーは世界トップクラスである。デニッシュ系パンの製法にどれだけ自信があるのか知らないが、はっきりいって自惚れだと思います。ヤマザキのデニッシュ生地はうまくないです。
クロワッサンはバターをたくさん使って焼き上げるので、なにもつけずに食べられる。
パイ生地はそれだけでは味気なく、フルーツやカボチャやニシンなどの旨味が強い材料がなければ成立しない。。
デニッシュは、パイとクロワッサンのあいだに位置する(本場のデニッシュはバターをたっぷり重ねて焼き上げるのでクロワッサン寄りであるとか)。中庸といえば耳障りは良いけれど、つまりデニッシュは中途半端なのである。イマイチ出来の良くない市販のデニッシュ系菓子パンを食べ続けてきたせいで、デニッシュに存在価値なんてあるのか? とさえ思ってしまう今日このごろである。このまま出来の悪い「デニッシュ系の袋パン」を売り続けるとすれば、本来の製法で作られるデニッシュの風評被害になりかねない。
アップルカスタードデニッシュ。
ふたくち、みくち──食べ続けるのがイヤになった。
結局、オーブントースターで炙った。こうするとデニッシュ生地が何倍もうまくなる。だからといって山崎製パンのデニッシュを再評価するわけにはいかない。袋売りパンというのは袋からあけてそのまま食べたときの食味こそを評価の基準にすべきだからだ。どんなパンだってトースターで炙ればそれなりに食えるものになる。トースターは免罪符ではない。
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