ケーキドーナツ 1点
買い出しにやってきた。総合ショッピングモール「ラピタ」のパン売り場である。
きょうは火曜市なので、ヤマザキパンの特売セールがおこなわれていた。厳選された新商品パンや定番パンが98円均一で買える。
陳列されているラインナップは、北海道チーズ蒸しケーキ、ランチパックシリーズ、バナナスペシャル──など。すでに「実績解除済み」のパンが多かった。ハルヒの方針によって「期間中にいちど食べたパンのシールは無効」になるので、いままでSOS団に持ち帰ってないヤマザキパン商品を選ばなけれならない。
『ケーキドーナツ』。包装パッケージには「1点」のパンまつりシールが貼ってある。
これがいい。
おれは手を伸ばし──かけたが、思いとどまって、すぐに引っ込めた。
なぜか? 『ケーキドーナツ』を買ってしまったらトラブルが予想されるからだ。
SOS団のメンバーをあらためて数えてみる。
1.
2.
3.
4.
5.
SOS団は「5人」所帯。
ケーキドーナツは「4つ」入り。
4×1−5=−1
1個足りない。
5人のSOS団に4個入りの『ケーキドーナツ』を持ち帰ったら、かならず誰かが食いっぱぐれる。
2袋買ったらどうなるか?
4×2−5=3
全員に1つずつ行き渡るけれど、3個が余る。おみやげの奪い合いになる。
3袋買ったらどうなるか?
4×3−5=7
7-5=-2
全員に2つずつ与えられるが、2個が余る。おみやげの奪い合いになる。
4袋買ったらどうなるか?
4×4−5=11
11-5=6
6-5=-1
全員に3つずつ与えられるが、1個が余る。おみやげの奪い合いになる。
5袋買ったらどうなるか?──計算するまでもなく、団員それぞれに『ケーキドーナツ』1袋が支給される。全員に行き渡る。部室で食べきれなかったドーナツは、各人が責任をもって持ち帰ればいい。丸く収まる。
ということで、おれは『ケーキドーナツ』5袋を買い物カゴに入れた。きょうは98円セールなので。5袋買ったとしても500円である。ワンコインでハルヒのヒステリーを回避できるならば安いものだ。
ちなみに。名目上は5点分のパンまつりシールを獲得したわけだが──ハルヒが定めた独自ルールに基づき、今回の獲得シールは「1点」である。
北高の旧館文芸部室。レギュラーコーヒーの良いかおりが漂っている。
「ケーキドーナツは山崎製パンのマスターピースといっても過言じゃないわね!」
ハルヒの
「もぐもぐ。おいしい……おいしいですけど、1個あたり10グラムの脂肪分が気になります。ふぇぇ……でもやっぱり食べるのをやめられないですぅ」
朝比奈さんも気に入ってくれたようだ。涙を浮かべながらドーナツを頬張っていた。残り1個だった。少食ぎみの朝比奈さんですらこれだ。5袋を買ってきたのは英断だった。
「たしかに手が止まりませんね。プレーン味とココア味が交互にパッケージングされているのも巧みです。飽きが来ないのであっというまに4個を食べ終えてしまいます」
いつもは澄ました態度の古泉も、やはり食べざかりの高校生男子である。すでに4個目に取り掛かっていた。
ドーナツのお供といえばホットコーヒーである。朝比奈さんが淹れてくれたものを各人がマグカップで飲んでいる。うまいコーヒーやカフェオレがあれば、ヤマザキ『ケーキドーナツ』の2袋や3袋はあっというまに胃袋に消えてしまう。喉ごしが良いんだよな、これって。
「……」
長門の食も進んでいた。さすがに文庫本を読むのをやめてケーキドーナツを食うのに専念していた。ところで、ドーナツを手づかみで食べたあとの油汚れにどうやって対処するのだろうか。
「問題ない。きょうは抗菌クリアカバーを装着している」
確かに。よくみると文庫本は透明なフィルムによって包まれていた。黒っぽい装幀。『玩具修理者」という題名の文庫本だった。
「どちらにせよ、おまえの大切な本が汚れなくて良かったよ」
この物静かなメガネ女子は、見かけによらず情報統合思念体とかいうヤバイ知性体につながっているらしいから、もしかしておれがケーキドーナツを買って来ることを事前に知っていたとか?
「ようぐそうとほうとふ」
お、おぅ。よくわからないが。
・・・・・・・
きょうもSOS団はにぎやか。つづく。
商品名『ケーキドーナツ』
今回の獲得シール 1点
累計 18.5点
「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと6.5点
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