ランチパック(ハム&マヨネーズ) 1点
「けっして悪くない。だけど物足りない」
ハルヒは悩ましげな表情を浮かべていた。おれが買ってきたランチパック(ハム&マヨネーズ)がお気に召さないらしい。
「誤解しないで。べつに、あんたを責めてるわけじゃないんだからねっ。ランチパック(ハム&マヨネーズ)って……味はおいしいけれどハムが1枚しかサンドしてないから食い足りないっていうか」
考えたこともなかった。もぐもぐ……まあ確かに、おれのようなわんぱく男子にはランチパック(ハム&マヨネーズ)のボリューム感は物足りない。ハルヒのように思いつめるほどではないが。
「ハ厶を1枚にするなら、さらにスライスチーズの1枚でも追加してくれれば、ずいぶん食べごたえがあるランチパックになると思うのよね」
「トーストにしたらどうだ? おれのうちではトーストした食パンにバターを塗ったあとそのうえからハムを1枚のせて食パンを折りたたんで食うぞ。うまいぞ」
さっそくやってみた。チーン! 古泉が試食役を務めることになった。
「もぐもぐ……なるほどですね! ランチパック(ハム&マヨネーズ)をトーストすることによってパンの部分にサクサクした歯ごたえが生まれます。そのおかげでハムが1枚だけしかなくても食が進みますね」
ランチパックシリーズは一括りにはできない。甘いのもあれば塩っぱいのもある。具材もさまざまだ。
おれが好きなランチパック──ツナマヨネーズ、タマゴ、メンチカツは具材にパンチ或いはボリュームがある。いわば「具材が主。パンが従」にカテゴライズされるランチパックだ。
一方のハム&マヨネーズは、いわば「パンが主。具材が従」にカテゴライズされるランチパックである。
うーむ。わかりにくいな。米飯に置き換えて考えてみるか。
白飯に納豆。これがランチパックにおけるハム&マヨネーズである。あくまでも納豆は白飯をおいしく食べるための引き立て役。ハムもパンの引き立て役なので1枚でじゅうぶん。
白飯にトンカツに玉子とじ(すなわちカツ丼)。これがランチパックシリーズにおける──まさにメンチカツでありツナマヨネーズでありタマゴである。
トンカツだけならば白飯の添え物にすぎないけれど、出汁と溶き卵を組み合わせることによって白飯の添え物には留まらないポテンシャルを発揮する。白飯本来の風味をすこし殺してしまうのだが、白飯とおかずだけの単純な組み合わせよりも総合的な満足度は高くなる。いわゆる「口内調味」によってイリュージョンを発揮するからだ。
カツ丼に置き換えるとわかりやすいが、白ごはんが好きな人だからといって皆がカツ丼を好きなわけではない。おなじトンカツを食べるにしても、カツ丼よりも画然としてシンブルに白飯を味わえるトンカツ定食のほうがうまいと感じる人も少なくないわけだ。
同様に、ランチパックのような形式の惣菜パンを望む人すべてが、ツナマヨネーズやメンチカツのような「カツ丼タイプ」の味覚体験を好むとはかぎらない。パンをなるべく素の風味で味わいたい人にとっては具材が出しゃってくるのは望ましくない。ランチパック(ハム&マヨネーズ)程度の量や味付けくらいがちょうど良いんだっていう消費者が少ないくないからこそ、ランチパック(ハム&マヨネーズ)はロングセラーとして現在もなお店頭に並んでいるのではないだろうか。
おれとハルヒの議論は白熱した。古泉をファシリテーターとして、さらに朝比奈さんと長門有希も加わって、見回りに来た夜警に怒られるまでおれたちはランチパック(ハム&マヨネーズ)について語り尽くしたのだった。なんだこれ。
・・・・・・・
きょうもSOS団はにぎやか。つづく。
商品名『ランチパック(ハム&マヨネーズ)』
今回の獲得シール 1点
累計 17.5点
「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと7.5点
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