小倉ぱん 0.5点

「ハルヒ。ヤマザキパンを買ってきたぞ」

 北高の旧館文芸部室のドアをあけると、いつもメンバーが顔をそろえていた。ハルヒと朝比奈さんはあやとりをしていた。いまどき珍しいな。古泉と長門はトランプをつかって神経衰弱(おなじ数字の札を合わせるゲーム)をしていた。

 ハルヒは顔をこちらに向けず、手元のあやとりに集中している。こまかい網目状の──ハンモックかな?

「ちがうわよ。映画バイオハザードの本編でアンブレラ社に雇われた特殊部隊の黒人隊長をサイコロ肉にしちゃった超人工知能レッド・クイーンによる網状レーザー攻撃を再現──ところで、きょうは何買ってきたの?」

「こくらぱん、だ」

「──えっ? キョン、いま何て言った?」

「こくらぱん」

「ちがう! おぐら──って読むのよ、それは」

 そうだったのか。初めて知った。なぜ「こくら」じゃなくて「おぐら」なんだろうか。あとでウィキペディアで調べてみよう。

「あんぱんのお供──牛乳も買ってきたぞ。ストロー付きの飲みきりサイズのやつ。銘柄は、明治おいしい牛乳だ」

「よし! きょうは及第点をあげるわ。さあ、みんな食べるわよ!」

 平日の放課後。6時限目を終えたおれは早足でパシリをまっとうすべく出掛けた。きょうの成果は、あんぱんとパック牛乳がそれぞれ5人前。ザスコ系列のハックスバリュで買い出しを終えたあと、1kgを超える買い物袋を片手にバスを乗り継いで北高まで運んできた。

「僕はトースターを使わせてもらいます。皮がパリパリになってまるで焼き饅頭みたいになって美味ですよ」

 古泉のくせにイカした食い方を知ってやがる。しゃくさわるが……おれも真似させてもらおう。

 『小倉ぱん』は地味だ。おなじヤマザキ製品である『高級つぶあん栗入りあんぱん』に比べると「小ぶり」である。しかも、スーパーマーケットの特売日やドラッグストアでは60〜70円台で特売しているのをよく見かけるので「チープ」な印象がある。

 小倉ぱん。使っている材料が一段落ちるのかといえば、そうとも限らない。ひとくち食べてみればわかるはずだ。つぶあんはしっとり。パン生地はやらわかい。『小倉ぱん』が『高級つぶあん栗入りあんぱん』に品質で劣っているわけではなかった。

 小倉ぱん。ヤマザキ製品でコストパフォーマンスが高い一群に含まれる菓子パンである。実売価格は98円を下回る。1個あたりの熱量は330キロカロリー、たんぱく質は9グラム、脂質3.5グラム。味良し・値段良し・健康に悪くなし。菓子パンのイメージを覆すヘルシーフードである。食事を手早く済ませたいからといってカロリーメイトをポロポロさせて食べるくらいなら、ヤマザキ『小倉ぱん』を1個買ってきて食べたほうが費用と健康においてはるかに実利がある。

 と、このように熱弁していると、おれが山崎製パン株式会社のステークホルダー或いは『小倉ぱん』狂信者のように映るかもしれないが──本日に限っていえば、おれが『小倉ぱん』を選んだわけではなかった。

 じつをいうと、買い出しで赴いたハックスバリュの売り場に残っていたパンまつりシール付きのヤマザキ製品が『小倉ぱん』だけであったにすぎない。

 つまり──それを買うしかなかった。おれは『小倉ぱん』をのだった。


 ・・・・・・・


 きょうもSOS団はにぎやか。つづく。


 商品名『小倉ぱん』

 今回の獲得シール 0.5点

 累計 16.5点

「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと8.5点

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