まるごとソーセージ 1点
『まるごとソーセージ』が宙に浮いていた。
なぜなら、おれと古泉が立ったまま『まるごとソーセージ』の長辺の両端を口にくわえているからだ。
「フゴモゴモガフガ(おい古泉、顔が近いぞ。もっと離れろ)」
「フガフゴモガフガモゴ(いま離れたら僕の負けになってしまいます。そうはいかんざきです)」
お互いひたすらフガフガとうめくことしかできないので何を喋っているのかわからない。
「さあ、見合ってみあって〜。はっけよーい、のこった!」
張り切るハルヒが木村庄之助のモノマネをしてはしゃいでいた。
このシュールすぎる状況を理解するためには、いまから15分ほど前まで
「まるごとソーセージゲーム! イェーイ!!」
SOS団のたまり場──北高旧校舎文芸部室にイタいやつが闖入して来たと思ったら、なんだハルヒか。やけに高いテンションで白いポリエチレン袋をブンブンと振り回している。さては──
「ヤマザキパン買ってきたわよ!いまから皆でまるごとソーセージゲームをします!」
「うふふ。涼宮さん楽しそうですね。ところで、まるごとソーセージゲームって何ですか?」
朝比奈さんが急須から湯呑みにお茶をそそぎながら訊いた。ハルヒが現れたら自動的に給仕スイッチが入るらしい。
「よくぞ訊いてくれたわね、みくるちゃん。まるごとソーセージゲームっていうのはね──」
回想おわり。つまり、丸ごとソーセージゲームっていうのは、おれと古泉がいまやっている理不尽な体勢を強いられるハルヒ考案の悪ふざけのことだった。ルールは以下のとおり。
1. まるごとソーセージをを口元から落とさないように食べ進める
2. 先にパンもしくはソーセージを落とした選手の「負け」
3. 互いに食べ進めた結果でキッスしちゃったら「引き分け」
ハルヒのやつ、女子高生でしかも美少女のくせに、キャバクラ通いのオッサンみたいなこと考えやがる。もしもハルヒの着ぐるみを脱いだら小さいオッサンが出てきても、おれは驚かないぞ。
「手始めに──キョンと古泉くんがみんなにお手本をみせて頂戴。べつにキッスしても良いんだからね」
おぞましいことをニヤニヤしながら言わんでくれ。朝比奈さんは顔を真っ赤にしていた──と、油断しているうちに、小泉が口元をモグモグさせていた。食べ進めているッ。一歩リードされたッ。くそっ、古泉のリードによるキッスはイヤだがお前には負けたくないからおれもこぼさないようにまるごとソーセージを食うッ!
──もぐもぐ。迫りくる古泉の顔面はともかく、まるごとソーセージはうまい。各社、縦長パンとロングソーセージを組み合わせた惣菜パンを用意している。コンビニのプライベートブランドを除いて、フジパンやパスコ(敷島製パン)に比べると、ヤマザキ『まるごとソーセージ』が1歩抜きん出ていると言わざるを得ない。各社のロングソーセージは所詮はクズ肉の寄せ集めなんだろうが、まるごとソーセージのソーセージがいちばんまともなクズ肉の寄せ集めに思える。食べ飽きない」
ちなみに、優等生っぽい『まるごとソーセージ』といえども欠点はある。寒い時期にはバターロールっぽいパン生地とソーセージ、どちらも硬くなってしまう。舌触りが良くない。
まるごとソーセージは、コンビニで買うときには軽くレンチンしてもらうのがベストだ。もちろんオーブントースターで炙ってもうまいけれど、まるごとソーセージに関してはレンチンしてふにゃふにゃになったパンとほどよく温まったソーセージと分離しかけのマヨネーズソースの組み合わせが絶妙なのだ──うわっ、気づいたら古泉の鼻先が目の前に、おえぇぇぇッッッ!!!!
くちびる貞操の死守と引き換えにおれは負けてしまった。でも全然悔しくないもんね。
2回戦。朝比奈みくるVS長門有希。ふたりともお口が小さいから食べるのが遅い。
「なあ、ハルヒ。1回戦は古泉が勝った。2回戦は長門が勝った。決勝戦もやるつもりなら、敗者復活の3位決定戦もやるべきだ。すなわち、1回戦の敗者であるおれ(キョン)と2回戦の敗者である朝比奈さんによるまるごとソーセージゲームを──」
どさくさにまぎれて、おれは大胆な提案をしてみせる。
「黙りなさい、エロキョン!あたしはトーナメント方式だなんて一言も云ってないわよ。これにて解散します。あたしの
・・・・・・・
きょうもSOS団はにぎやか。つづく。
商品名『まるごとソーセージ』
今回の獲得シール 1点
累計 16点
「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと9点
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