ミニスナックゴールド 1点 (朝倉涼子の警告)
北高。旧校舎。文芸部の部室。
きょうも今日とて。何をするわけでもなく、おれたちSOS団の面々はたむろしていた。
「──おめでとう! 50周年!!」
部室のドアが開いたと思ったら、ハルヒが奇声をあげて闖入してきた。両手に菓子パンらしきものを掲げていた。じっと見ると、ヤマザキ『ミニスナックゴールド』であることがわかった。おやつタイムの始まりである。
「みんな知ってた? ミニスナックゴールドって発売開始してから50年も経ってるのよ! すごくない!?」
おれたちの親が生まれる前ってことだよね。ミニスナックゴールド50歳。49歳くらいで死んだ織田信長とほぼ同じ。そりゃあハルヒも驚くわけだ。
「涼宮さん。きょうはお茶にしますか? それとも……」
「みくるちゃんは、ミニスナックゴールドにはどんな飲み物があうと思う?」
「えっと、わたしはミニスナックゴールドを食べたことがないので、ちょっとわからないですぅ」
ああ。なるほど。さすがに朝比奈さんの未来くらいには、ミニスナックゴールドは廃番商品になりましたか。
「正直でよろしい。ミニスナックゴールドには──やっぱり珈琲かカフェオレが良いんじゃないかしら?」
「わかりました。すぐにハンドドリップのご用意をしますね」
「僕もお手伝いしましょう」
あ! 古泉のやつに先を越されてしまった。紳士野郎め! ……おれは何をしようか。
「キョン、あんた暇そうね。あたしはカフェオレが飲みたいから牛乳買ってきてくれない? もちろん成分無調整乳だからねっ」
ということで、おれは牛乳を買うために最寄りのコンビニへと向かって歩いていた。二月中旬の曇天。マフラーを首元に巻いていても震えがくる。
「あら、もうお帰り?」
声と気配を感じて顔をあげると、すぐ隣に朝倉涼子が立っていた。
「いつのまに」
「お茶の間に」
こんなキャラだったっけ? たしか1年5組のクラス委員長でおれもちょっと憧れてしまうような正統派美少女だったような……。
「もしかして涼宮さんのおつかい?」
「ああ」
長門とガチの殴りあい(っていうか殺し合い)をしているのを目撃してからというもの、おれは朝倉涼子に怖れを抱くようになっていた。こいつを目の前にするとキャンタマが縮み上がらざるをえない。
「あなた達。ヤマザキ春のパンまつりのシールを集めてるんでしょ?」
「そうだが──」
「──パンまつりのシールを集めるのを今すぐ中止しなさい。これは警告よ」
おれはコンビニで牛乳パックを買ってから、また北高に引き返した。
道すがら、朝倉涼子に告げられた不可解な警告について考えていた。
口元は微笑んでいたが、朝倉涼子の瞳は冷えきっていた。怖かった。すこし「ちびった」かもしれない(あとで確認したがセフセフだった)。
「ミニスナックゴールド。20センチメートルにせまる直径のインパクトが大きいから、一見すると『スイートブール』と同ジャンル商品だと決めつけがちだけど──ぜんぜん違うのよね」
おれが旧校舎に帰り着いたとき、ハルヒがしたり顔で語っていた。
「両者の栄養成分表示を比べてみると──ミニスナックゴールドの熱量は591kcalに対してスイートブールは511kcalと記載してある。120円くらいで買える菓子パンとしてのコスパは互角。でも脂質には大きな違いがある。ミニスナックゴールドの脂質は32.2グラム、スイートブールは14.1グラム。どちらがジャンクなのかは明らかよね」
なるほど。ミニスナックゴールドはデニッシュっぽい生地が特徴的だが、あれはクロワッサン同様に油脂をたくさん使っていそうだからな。マーガリンやショートニングをたくさん使ったほうがうまいんだよなパンって。じゅわってにじみでる油分の快感がある。固体シロップ(ミスドにおけるグレーズ)も身体に悪そうだがうまいもんな。
「たんぱく質の含有量も、ミニスナックゴールド9.1グラムに対してスイートブールは15.4グラム。ロカボティックにお腹いっぱいになりたかったらスイートブールを選べばいいけれど、これから運動するつもりで少ない量で満腹にならないようにカロリー補給をしたいときにはミニスナックゴールドがオススメね。デニッシュっぽい生地は口当たりが軽いから食べやすい。スイートブールはちょっと重たいわね」
ミニスナックゴールドとハルヒの熱弁をお茶請けに、朝比奈さんが淹れてくれたホットコーヒーやカフェオレを満喫しながら、まったりとした放課後を過ごすことができた。
このときはまだ、朝倉涼子に告げられた「警告」のほんとうの意味を──おれはまだ知らなかった。
・・・・・・・
きょうもSOS団はにぎやか。つづく。
商品名『ミニスナックゴールド』
今回の獲得シール 1点
累計 13点
「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと12点
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