ふわふわスフレ(ホイップカスタード) 0.5点

 日曜日。ハルヒの号令によってSOS団の面々が集まっていた。

「コンビニコーヒーの飲み比べするわよ!」

 ハルヒのいつもの思いつきである。

 昼の1時すぎに駅前に集まって、主要コンビニ──セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップに立ち寄っては「ホットコーヒーSサイズ」に相当するものをひたすら飲み比べる。

 いちばんはじめに行ったファミマでハルヒに「ぜんぶ飲まなくてもいいよな?」と訊いたところ──

「──捨てるなんてとんでもない。コロンビアやブラジルのコーヒー農園の人に申し分けが立たないんだから」

 という団長方針によって、おれたちSOS団はひたすら無言のまま熱いコーヒーを飲み干すという苦行を強いられた。朝比奈さんはカフェインの副作用なのか手先の震えが止まらないようだ。古泉はあいかわらずの余裕の表情を浮かべていたが痩せ我慢に違いない。長門とハルヒは平気っぽいが。

 ちなみに、おれは集計係を兼ねていた。ホットコーヒーを飲んだあとの古泉、朝比奈さん、長門に味や香りの感想をヒアリングしては手元の用紙に記録していく。

「書き終わった?」

「OKだ」

 腹の中身がチャプチャプと波打っているがな。もしかすると昼飯に食ったひょうたん島が浮いているかも。

「予定どおりね。次は、ローソンに行きましょ!」

 これで4軒目。おれたちの生活圏内にあるコンビニンスストは、セブンイレブン、ファミマ、ミニストップ、ローソンの四軒だった。つまり、次のローソンで打ち止め。ようやく珈琲地獄から解放される。

 自動ドアをくぐってレジカウンターへ向かう。おれが皆を代表して「ホットコーヒーのSサイズを5つください!」とオーダーする。おれは思わず声が大きくなってしまった。カフェインの覚醒作用のせいかもしれない。ギンギンである。

 午後3時すぎ。コーヒーばかり飲んでいたので、おれは甘いものが欲しくなった。

「……」

 スイーツコーナーに佇んでいた長門が、陳列棚をじっと見つめていた。

「どうした長門?」

「これ」

 長門が指し示したさきには『ふわふわスフレ』が並んでいた。山崎製パンの洋生菓子である。春のパンまつりシールが貼ってあった。

「あ、パンまつりシール! なるほど。菓子パンや惣菜パンだけじゃないのね。有希、お手柄よ。買ってみんなで食べましょ」

 ローソンのカップコーヒーはセルフサービスではない。他社とは異なり、店員がカウンター内のドリップマシーンで一杯ずつ淹れてくれる。

 ローソンから出たあと、利き手にはローソンのホットコーヒーSサイズ、もう片方の手にはヤマザキ『ふわふわスフレ』を携えて、おれたちは近所の公園まで歩いてった。



「うまい」

 おれは思わずつぶやいた。

「高級なケーキみたいな柔らかさのスポンジですね」

 朝比奈さんは顔をほころばせている。気に入ったのだろう。唇の端っこにスポンジカスをつけていた。プリティ。

「まさに山崎製パンにおける製造技術の集大成──というクオリティですね」

 古泉の大げさな解説には、今回ばかりは同意せざるを得ない。『ふわふわスフレ』はヤマザキ商品のオーバースペックによって持たされる高いコストパフォーマンスを象徴するような逸品だ。スポンジの「ふわふわ」感は看板に偽りがないものであり、中心部のホイップカスタードクリームは実売価格100円前後とは思えない旨さである。

「……」

 長門がベンチから立ち上がった。

「どうした?」

「おかわり」

「ふわふわスフレか?」

「……(コクリ)」

 珍しいこともあるものだ。いつもは無欲と無感動の極みともいえる長門の「欲」をはじめて見たような気がする。

「よし、 やっちまえ」

 ──それから10分ほど経って、長門が戻ってきた。両手に買い物袋をぶらさげて。中身はすべて『ふわふわスフレ』だった。

 やりすぎだ、長門。


 ・・・・・・・


 きょうもSOS団はにぎやか。つづく。


 商品名『ふわふわスフレ(ホイップカスタード)』

 今回の獲得シール 0.5点

 累計 13.5点

「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと11.5点

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