バナナスペシャル 1点
「ねえ、キョン。バナナスペシャルって、どこらへんがスペシャルなのかしら?」
時は放課後。場所はSOS団アジト(文芸部部室)。恒例のおやつタイムのさなか、ハルヒがなにげない問いを発したことによってその場が凍りついた。
「ハルヒ……それには触れないほうがいいと思うぞ。なぜなら、答えが存在しないからだ」
「それはわかっているけど──気になるんだから仕方ないでしょ」
ハルヒの手にはヤマザキ製パン『バナナスペシャル』があった。もうすぐ半分を食い終えようとしている。
「お気持ちはわかります。かくいう僕も小学三年生のころにヤマザキにおけるスペシャル問題に疑問を抱いたひとりです」
ヤマザキにおけるスペシャル問題──イチゴスペシャル、バナナスペシャルは何がスペシャルなのか? さらに、イチゴとバナナの両スペシャルと同じ形状であるにもかかわらず、なぜ『コーヒーサンドモカ』にはスベシャルがの記載がないのか? 長年の謎とされている。
「──山崎製パン株式会社の公式ウェブサイトにアクセスした。イチゴスペシャルは菓子パンのカテゴリページには掲載されていない。洋菓子のカテゴリページに掲載されている」
長門が高速タイピングしているノートパソコンのモニタをのぞいた。たしかに、『丸ごとバナナ』や『ロールちゃん』と同じ「洋菓子」カテゴリにイチゴスペシャルの画像があった。ところで長門。コマンドプロンプトを多重起動しているけれど、それって必要な作業なの?
「ふむふむ。有希、お手柄よ! これでイチゴスペシャルの真実に一歩近づいたような気がするわ」
ちなみに、イチゴスペシャルと同じ扱いをされている『菓子パンのようで菓子パンではない」ものとしては、『スイスロール』や『ダブルロール』なども洋菓子ページに掲載されている。ヤマザキ製パンでは、菓子パンと洋菓子のあいだに厳格な線引きをしているようだ。
「つまり、来客のお茶請けに菓子パンを出すのは失礼に当たるけど、ヤマザキが洋菓子と定義しているものならば無作法ではない──ってことになるわね」
ちなみに、洋菓子のカテゴリページには、他にも『ふわふわスフレ』『大きなツインシュー』『モンブラン』などの洋生菓子も掲載されている。これらを出されて文句をいう客は少ない。うーん。まあ確かに『スイスロール』や『ダブルロール』はその名のごとくロールケーキであるし、イチゴスペシャルも、丸ごと出せば菓子パンとして見くびられるが、切り分けて出せば、あるいは……。
「長門さんはどう思いますか? ヤマザキのバナナスペシャルにおける、スペシャル≠NOTスペシャル問題について」
おい古泉。数学の未解決予想「P≠NP(ぴーのっとえぬぴー)問題」みたいに言うな。ヤマザキのネーミングセンスについて考えることは、人類にとってそこまで重要ではないぞ。
「42」
そのとき、長門の口から発せられたのは2桁の数字だった。
「え、なんだって?」
「42。それこそがヤマザキのスペシャル問題の答え。生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」
「ふぇぇっ!?」
怖れと驚きが混じったような声を漏らしたのは朝比奈さんだった。勢いあまって尻もちをついていた。長門の提示した「答え」は、未来人にとって触れてはいけない核心だったのかもしれない。
・・・・・・・
きょうもSOS団はにぎやか。つづく。
商品名『バナナスペシャル』
今回の獲得シール 1点
累計 12点
「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと13点
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます