ランチパック(ミートソースパスタ) 0.5点
おれはいま正座をしている──いや、正座をさせられていた。目のまえには腕組みしたハルヒが仁王立ちしていた。
「さあ、覚悟はいいかしら? SOS団特別法廷──通称ランチパック裁判をはじめるわよ! では検察官みくるちゃん、起訴状の朗読ならびに冒頭陳述いってみよー!」
おい、ハルヒ。長介もしくは欽ちゃんみたいなノリはやめてくれ。
「──き、起訴事実。本件において、被告キョンくんはヤマザキ春のパンまつりシールが貼ってあるヤマザキ製パン商品を買ってきましたが、よりにもよってランチパック(ミートソースパスタ)のようなウケ狙いでおいしくなさそうものを選びました。これはSOS団規則の第三十一条二項に抵触するものであり、その罪は──ば、万死に値する罪である──す、涼宮さん!? これは罪が重すぎると思いますけど……」
「みくるちゃんの出番はこれでお終い。次は──弁護人の古泉くん。反論の意見陳述があったら申し出なさい!」
現代日本もこれくらいスピーディーならば救われる人がもっと増えるかもな。おれの場合は、スピーディーに冤罪にされそうだが。
「無罪を主張します。なぜなら、被告人であるキョン氏はランチパック(ミートソースパスタ)を購入時に……寝ぼけていたからです。当時の氏には責任能力が無かったことが推定されます」
古泉が弁護士役を引き受けた(ハルヒに強制指名されたのだが)。いまいち信用できないものの、こんな状況なので背に腹はかえられない。頼むぞ、怪人ニヤケ男!
「なるほど。じゃあ被告人質問に移るわね。キョン、あんたなんでランチパック(ミートソースパスタ)なんて買ってきたのよ。ランチパックシリーズを買うにしたって他にあったでしょ? この犯罪者め!」
「なあハルヒ。これが裁判だというならば、判決前のおれは犯罪者ではなく、あくまでも被疑者である被告人のはずだぞ。推定無罪の原則を知らないとは言わせないぞ、ハルヒ」
「うるさいわね。裁判長はわたしよ。有希、書記としてキョンの発言をもらさずに記録してね。いまは完全否認しているけど、うっかり口をすべらせるかもしれないから」
「……」
長門は手元にあるノートパソコンを超高速タイピングしながら、いつもの感情を伴わない視線をおれに向けてきた。え? おまえも怒ってるの? みんなミートソースパスタが嫌いなの?」
ハルヒがふたたび口をひらく。
「──これは裁判員裁判だから、アメリカの陪審員に相当する皆さん(裁判員)に意見を述べてもらうわね。じゃあ、右の端っこの人からどうぞ!」
「パンに麺類をはさんだもの──たとえば焼きそばパンっておいしいよね! ミートソースパスタも似たようなものじゃん。だから、キョンくんは無罪!」
鶴屋さん。ありがとうございます。
「もちろん焼きそばパンはうまいよ。でもね、キョン。このランチパック(ミートソースパスタ)は惣菜パンとしての完成度がイマイチと言わざるをえない。理由? ひとくち食べれば誰だってわかることさ。トマトケチャップベースのミートソースの味は悪くない。しっかり塩味が効いてコクがもある。さすがヤマザキ製パンって感心したよ。でも麺がダメだ。あろうことに麺すなわちパスタを細かく刻んでしまってる。焼きそばパンは焼きそばのアイデンティティを保ったままコッペパンにはさまっているから食べごたえある。同じくパスタは長いからパスタなのであって、それを細かく刻んでしまっては単なる小麦粉をこねて茹でたカタマリに堕する。舌触りが悪くなる。パンとミートソースパスタを食べたとき味覚の伝達に齟齬が発生している。新商品としては失敗していると言わざるをえない。こんなものを買ってきたキョン、きみは有罪だ」
国木田。おまえの食べログレビューはしかと拝聴させてもらった。だが、いちおう友人として擁護してもらわないと困るんだが……。
「僕は、おたくらに貸し出したオーブントースターを返しに来てもらっただけなんだが──ま、まあ意見を求められたので言わせてもらおうか。焼きそばパンは冷めてもうまいけれど、このランチパック(ミートソースパスタ)は今日のような真冬の室温下で食べるには適していない。しかし僕はデータと検証を重視するフェアな男のつもりだ。我がコンピ研が誇るオーブントースターでランチパック(ミートソースパスタ)を軽く炙ってあらためて食べてみた。食味はずいぶんと改善されるのだが、さきほど国木田くんが述べていたとおり細切れになったパスタの食感がやはり気になる。せめてパスタを刻んでいなければ……と思った。以上だ。オーブントースターをはやく返してください。キョン氏は有罪」
「ここまで無罪1、有罪2。さあ盛り上がって参りました。最後の裁判員は──この作品を書いている人よ。いわゆる司馬遼太郎方式を採用します」
超監督に指名されては仕方がない。意見を述べさせていただく。
「作者でございます。キョンは魔が差したのでしょうね。こんなもの見るからにハズレでしょう。でも怖いもの見たさってあるじゃないですか。カップ焼きそばにおけるよっちゃんイカ味やチョコレート味みたいな。当該商品がハズレであることは手にとってみればすぐに気づきます。パンに対して具材が少ないというか軽いんですよ。ツナマヨネーズやたまごのような重量感がない。味は悪くないんです。ランチパック(ミートソースパスタ)のミートソースパスタに該当する原材料表示を読めばわかります。すなわち、ミートパスタ(めん、トマトケチャップ、たまねぎ、にんじん、トマトペースト、粉あめ、豚肉、砂糖、植物油脂、水あめ、コンソメ、エキス調味料k,おろしにんにく、食塩、こしょう、オレガノ、酵母エキスパウダー、パン粉、ローレル粉末……と書いてある。オレガノやローレルが含まれているだけあって味付けにつかわれているソースの味はコクがあって旨いんです。ヤマザキの失策は、ほかの裁判員の皆さんも指摘しているとおりパスタを刻んでしまったことです。台無しです。まあ、しかし。キョン氏が明確な悪意をもってハルヒ氏にまずいランチパックの新商品を買ってきたとも思えません。わたしはキョン氏の無罪を主張します」
「──チッ。有罪2。無罪2。しょーがないわね。キョンは無罪! これにてSOS団特別法廷を解散します」
なんだこれ。
・・・・・・・
きょうもSOS団はにぎやか。つづく。
商品名『ランチパック(ミートソースパスタ)』
今回の獲得シール 0.5点
累計 10点
「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと15点
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