ホワイトデニッシュショコラ 1点
珍しいこともあるものだ。ハルヒが早退した。
2時限目の現代文を受けているとき「気分が悪くなった」とか何とか申し出ていた。不穏なやつだがズル休みはしないタイプなので体調不良にはちがいない。
ハルヒがいない教室。いつもどおりだ。なぜなら、アイツは同じ教室に親しい友人はいない(断じておれはハルヒの親しい友人ではない)から、休み時間にあいつが誰かと談笑する声が聞こえてくるなんてことは元々なかった。あえて言うならばおれの背中というか肩のあたりが軽くなったというか、ひさしぶりにおれはリラックスして授業を受けることができた。
ハルヒが早退したあと、おれはいつもどおり谷口たちと弁当を食って、いつもどおり午後の授業を受けて、いつもどおり放課後はSOS団があつまる旧校舎の文芸部室にドアノブに手をかけていた。
「──あっ!」
ドアの向こう側には思いがけぬ人物が待ちかまえていた。
「キョンくん、ひさしぶりですね」
デキる女っぽい服装──読者諸氏にはブルゾンちえみのような扮装をイメージしていただきた。ちえみを縦にひきのばしてグラマラスに整えたような成人女性──朝比奈みくるさんである。
「お、おひさしぶりです。もしかしてまた厄介事ですか……」
「ち、ちがうの。きょうは──キョンくんにプレゼントをもってきたのよ」
「プレゼント!? それって、まさか──」
「はい。ハッピー・バレンタインデー」
やったぜ! セクシーな大人の女性からおれが手渡されたのは……ヤマザキパンの菓子パンだった。『ホワイトショコラデニッシュ』。商品名のとおり、白いデニッシュ生地のなかにショコラすなわち板チョコをはさんだパンだ。ホワイトなのはデニッシュ生地であったショコラではない。板チョコは茶色いミルクチョコレートである。
「涼宮さんが集めてるっていうのを小耳にはさんだから……これなら一石二鳥でしょ?」
ハルヒのご機嫌取りとおれの義理チョコ。なるほど一石二鳥だ。
「あっ、はい」
助平心とそれが肩透かしをくったことを目の前にいる女性に知られたくないので、おれは無感情に努めた。取り乱したら負けだ。ラブ・アンド・ピース。
おれは習性によって「パンまつりシール」を剥がす。ホワイトショコラデニッシュのパッケージから顔をあげると──大人の朝比奈さんのすがたはなかった。ラベンダーの残り香だけがそこにあった。
・・・・・・・
きょうもSOS団はにぎやか。つづく。
商品名『ホワイトショコラデニッシュ』
今回の獲得シール 1点
累計 9.5点
「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと15.5点
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