ロイヤルブレッド 8枚スライス 2点
例によって、おれの放課後はヤマザキパンを買ってくることに費やされていた。
いつものコンビニには『ロイヤルブレッド』そのものは売っているが、たいてい「6枚スライス」だけ。だからすこし離れた総合スーパー「ザスコ」の食品売り場まで探しにいってようやく手に入れた。税抜128円。火曜市セールだからいつもより安い。これで「2点シール」がもらえるのだからコストパフォーマンスが高い。
「買ってきたぞ」
ザスコの買い物袋をぶらさげて部室に戻ると、ハルヒ、朝比奈さん、古泉が待ち構えていた。長門は……まだ来てないようだ。
「消費期限は?」
「2月14日だ」
きょうは2月10日だ。消費期限までずいぶん余裕がある。ハルヒはパンの鮮度=柔らかさにこだわりがある。
「売り場に並んでいる一番新しいやつを選んできた」
「よしよし。キョンもようやくパンまつりの楽しみ方がわかってきたようね」
ハルヒはしたり顔だ。それを忌々しく思っていると……目の前に湯呑みが置かれた。天使の分け前である。
「温かいお茶を召し上がれ。外は寒かったでしょう?」
「いえ、おれは風の子なのでへっちゃらでした」
おれが軽口を叩くと、朝比奈さんが微笑んでくれた。あー、ホット緑茶がうまい!
「──ご、ごめんください」
珍しいこともある。文芸部部室(SOS団の溜まり場)に誰かがたずねてきた。朝比奈さんがいそいそとドアノブに手をかけた。
「……」
ドアをあけると、長門有希と──コンピュータ研の部長氏が佇んでいた。
「あ、遅かったわね。さっそく運びこんで頂戴」
長門は、おれと同じように買い物袋(ポリ袋)をぶらさげていた。なぜか目があったので声をかける。
「なに持ってきたんだ?」
「植物油脂と増粘剤入りの果糖」
「ああ、なるほど。マーガリンとジャムか」
食パンのお供だな。ハルヒが事前に用意させたのだろう。
長門を盾にするよう隠れていた部長氏とその仲間たちは、コンセントがついた家電製品を持ち寄っていた。小型のオーブントースターだった。紙皿やバターナイフ、ストロー付きの牛乳パック(200ml)なども持参していた。
「ご苦労さま。もう帰っていいわよ」
「あの、使い終わったらコンピ研に返してくださいね……」
部員A氏がおそるおそる申し出た。
「ハイハイ。一両日中にうちのキョンが返却しに行くから、安心しなさい」
えっ、また労役を課せられるの!? もう慣れた。
「で、ハルヒ。きょうは食パンをトーストして食うのか?」
「うーん、最初はそのつもりだったけど……あんたが新しい食パンを買ってきたから焼かないで食べましょ!」
いまの話。立ち去ったばかりのコンピ研の面々に聞こえなければいいんだが……。
「せっかくトースターがあるんだから焼いたらどうだ?」
「もうっ、キョンはわかってないわねー。せっかく食パンが柔らかいんだから、これにマーガリンとジャムを塗って折りたたんで食べるのよ」
長門がポリ袋からマーガリンとジャムを取り出していた。明治『コーンソフト』とアオハタ『55イチゴジャム』だった。
「あたしの研究によれば、普及しているマーガリンのなかでは明治コーンソフトがいちばん伸びが良いのよ。ふつうのマーガリンは熱々になったトーストの表面でなければうまく溶けてくれないけれど、コーンソフトは冷蔵庫から取り出した直後でも軟らかいので焼いてない食パンに塗るときも便利に使えるってわけ」
おれたちは半信半疑に思いながら、ハルヒの推奨レシピに従って、焼いていないロイヤルブレッド食パン(8枚スライス)に明治コーンソフトを塗りたくり、さらにアオハタ55イチゴジャムをごってり載せたものを縦半分に折り畳んだものにかぶりついてみた。
「うまい。ジャンクな旨さだが」
製造日からなるべく時間を経ていない薄い食パンでなければ成立しない食い方だけど、たしかに癖になる。この食いもんには牛乳がいちばん合う。
「マーガリンが口のなかでとろけますね。イチゴジャムの芳しい甘さとの相性もベリーグッド。デリシャスな逸品です」
おべんちゃらが過ぎるぞ古泉。
「……」
長門は相変わらず無表情で食っている。
「ふぇぇ……おいしいですぅ。でも体重が心配ですぅ」
朝比奈さんも涙ぐみながらマーガリンイチゴジャムサンドを満喫していた。
後日談。オーブントースタはまだ部室に置いたままだ。たまにコンピュータ研に顔を出しているらしい長門に尋ねたところ、コンピ研の部長氏からは返却を催促されたことは──記憶にないそうだ。
・・・・・・・
きょうもSOS団はにぎやか。つづく。
商品名『ロイヤルブレッド 8枚スライス』
今回の獲得シール 2点
累計 6.5点
「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと18.5点
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