北海道チーズ蒸しケーキ 0.5点

 ぺろぺろ。ぺろぺろ。


 異様なシチュエーションである。


 ぺろぺろ。ぺろぺろ。


 若い男女たちがまるで犬猫のような舌づかいを恥ずかしげもなく披露していた。


 ぺろぺろ。ぺろぺろ。


 どうしてこんな事態に陥ってしまったのか?

 思い出したぞ。部室にやってくるなり、ハルヒの号令によって──


⌚ ⌚ 30 分 前 ⌚ ⌚


「今日のおやつは、団長みずから買ってきたわよ。特にキョン、ありがたく思いなさいよね!」

 まさに「有り難い」ことである。ハルヒが率先して差し入れをもってくるなんて珍しい。これで運を使い尽くしちゃって、きょうの帰り道に巨大カマドウマに襲われて死んじゃったりしてな。

「わぁ、わたしの大好きな菓子パンですう」

 いつもは慎ましい朝比奈さんがめずらしく自分から手を伸ばしたそれは、ヤマザキのロングセラー菓子パン『北海道チーズ蒸しケーキ』だった。

「……」

 いつのまにか長門の手にも渡ってしかもすでに封を切っていた。ガールズ人気が高いのだろうか。

「奇遇ですね。ぼくも好きなんですよ」

 知るか古泉。おまえの趣味嗜好には1ミリも興味がない。

 みんなに釣られて、おれも手を伸ばそうとしたら、ハルヒがこっちをみて「にやにや」した表情を浮かべていることに気がついた。

「150円頂戴いたします」

「え? おまえのおごりじゃないのか?」

「あたしが何であんたにおごらなきゃならないのよ。有希とみくるちゃんのぶんはおごるけど、あんたと古泉くんからは実費を徴収します」

「ぼくは喜んでお支払させていただきます。もし手持ちがないのであれば立て替えておきましょうか? そのかわり貸しをひとつとさせていただきますが……」

 古泉に貸しなんて作ったら、あとが恐ろしい。メイド姿で森さんが取り立てに来るならまだしも、もしも荒川さんだったら……ああいう声質の人はむかし傭兵とかやってた可能性あるがから怒らせると怖そうだからな。

「だが、断る。パン代くらい持ってるからな」

 ハルヒにカネを手渡すと、ようやくSOS団恒例の放課後ティータイムが始まった。朝比奈さんが緑茶を入れてくれたが、このまえ(ランチパックツナマヨネーズを参照)のようにハルヒが騒ぎ出す様子はなかった。

「なあ、ハルヒ。北海道チーズ蒸しケーキと一緒に飲むものにはこだわりは無いのか?」

「そんなの各人の好みでしょ。みくるちゃんがせっかく淹れてくれたものに文句言うなんて百年早いわよ」

 あれ? このまえと言ってるいることが違うんだが……。

「そんなことよりも──ねぇ、みくるちゃん?」

「なんですか? 涼宮さん」

「まだ食べられるところが残ってるわよ。あたしがせっかく買ってきた北海道チーズ蒸しケーキ」

 朝比奈さんの手元に視線をやると……すでに透明な包装プラスティックと白い敷紙が残っているだけだった。あとは捨てるだけの状態だ。

「敷 紙 に ま だ 残 っ て る」

「ひぇぇっ!?」


⌚  ⌚ 現 在 ⌚  ⌚


 ぺろぺろ。ぺろぺろ。


 ハルヒの命によって、おれたちは菓子パンの敷紙をひたすら舐めまわしていた。おれを筆頭に、長門も、朝比奈さんも、古泉も。屈辱的とも言えるが──まあ、うまいよね。敷紙にこびりついたやつも。


 ・・・・・・・


 きょうもSOS団はにぎやか。つづく。


 商品名『北海道チーズ蒸しケーキ』

 今回の獲得シール 0.5点

 累計 4.5点

「白いフローラルディッシュ」獲得まで、あと20.5点

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