第3話 葬送
棺の中のその人は美しかった。
今にも呼びかけてくれそうな生前と同じ穏やかな表情で棺の中に横たわっていた。
冷たくなってしまった頬に触れ、上から覗き込む。
何も答えてはくれなくなったその人の美しい顔に幾粒もの涙が落ちる。
手にした今を咲き誇るカサブランカの大輪を一輪そっと、その美しい顔の横に添えた。
同じ光景が続く…。
今までその列の中に居たのに、今はまるで傍観者…。
列から離れ近づいて来た影が何か話しかけてくる…。影が次々に集まり始める…。
手を握ってくる。握り返した。
腕を絡ませ肩に項垂れてくる。
腕を支える。
肩に預けられた頭に頭を重ねる。
磨りガラスの向こうで流される映像の様な光景がもう、見えない…。
そして、思う。
わたしのせい。
わたしがアノ夢ヲミタカラ。
わたしのせい?
わたしがアノ夢ヲミタカラ?
そして、厳かなクラクションと共に黒い車が
ゆっくりと去って行った。
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