第10話

登場人物とあとがき


・朝若 祐太郎

信用できない語り手。彼の一人称のせいで本作は混迷を極め切った。

禅寺の次男坊で、CDショップの雇われ店長。まだ幼い頃に「一切皆苦(仏教用語。生きていて自分の認識に左右される意識と認知と肉体の中では何もかもが苦しみとなりうる)」とか浄土思想とか不立文字とか叩き込まれたらそりゃ厭世的かつ衆生の救済の夢も見るようになるよね、という認知の歪みその1。

そしてその上から呪われちゃったので厭世的かつ救済したがりかつ誰かのための死にたがりになったという認知の歪みその2。作中で歪み1に歪み2が上書き保存というかヴァージョンアップされていった。だから最初の風呂場ではまだ死にたくないという意識があったのに、羽束ちゃんの呪い講座を受けたあたりからおかしくなり、最終的にああなった。

どうしてCDショップで働いてるのか。元々あの店は親戚のおじさんが経営しており、高校時代の朝若くんはそこでバイトしていた。しかし持病の悪化により店をたたむか、となったときに冗談で朝若くんに「雇われ店長しない?」と提案したところ彼はオッケーした。「この世は残らず無常かつ一切皆苦で、でもそう考えてしまう自分も嫌いで、だからせめて自分に求められたことをやり尽くそう」が基本の行動指針だったので。そして大学進学を蹴ったことを依さん(別に付き合ってない)に伝えてなかったので彼女のメンタルがヘラった。そしてその様を見ておそらく無自覚ながら朝若くんも若干メンヘラ(医療保険のきくやつ)になった。依さんへの過剰な後ろめたさと献身はこのため。メンヘラ式負の拡大再生産とはまさにこのこと。

ちなみにこの後は、羽束ちゃんとふたりでこの街のゴーストバスターにいそしむことになる。本業より忙しい。


・折井 羽束

ヒロイン。爆竹大好きパイロキネシス女子高生。押しに弱くて責任感に厚くて引くほど不運。

古くから呪いを祓うことを家業とする家の末子。なんとひとりで除霊をするのは今回が初めてである。そのためとても張り切っていたし、過剰にかっこつけていた。でも依頼人ガチャで大爆死した。友人の兄のボディーガードとなってしまったが、本人はドルヲタ(元々あのお店にもツーショット会の抽選券の追い課金CDを買いに来た。だから2日連続での来店)なのでCD店に入り浸れるのは普通に嬉しい。

あの妙なキャラづくりは、若い女子に神秘性を感じる日本人のだめな風土を利用するためのもの。セーラー服という高校の制服姿なのに超然とした雰囲気を出すことで違和感を醸し出して、相手を無駄に警戒させながらも社会的身分が明示されているので手を出しにくくさせる。そもそも一族郎党自体が元をたどれば巫女の系譜だったりする。

ちなみに羽束のスペックは一族中でもほぼ最下位レベル。普通(普通?)は掌くらいの火の玉は出せるが、その炎は悪いものしか燃やせない(つまり爆竹に着火とかできない)。そのことで散々身内からいびられてきたので、手柄をじゃんじゃん挙げてあいつら全員見返してやらあ!と思っていた。結果は推して知るべし。朝若のそばにいれば舞い込む事件が多いので手柄は立てられる。ちなみに母親の弟あたりから愛という名の執着を受けている。

あの爆竹は何かといえば、とり憑かれている側の人間に対しての揺さぶり。呪いや幽霊はあくまで精神汚染からの身体制御しかできないので、大きな音や光、煙で燻されたときには反射としての生体反応が引き起こされる。反射行動(目をとじたり、くしゃみしたり)は体への最速最強の命令なので、どうしてもその瞬間の体の主導権は生きている人間へ戻る。その隙をついてさらに体のほうへ追撃をかけることで除霊できるのだった。物理的。


・吉木 依

イメージしとしては「毒親」。見た目だけならきらきらのメンヘラ女子大生。

肥大した自己愛が彼女を博愛主義者に見せかけている。相手が自分の思い通りにならないと、その人の価値観や自我の一切を破壊してから愛してあげる性質を持つ。そこに悪意は一切なく、また性格は温和かつ善良なので周囲から疎まれることはない。あくまで善意によって人を自分の思い通りに制御、矯正していき、それによって壊された人の屍累々には気づかない人間だった。おそらく裕福な家に生まれ、正しく導かれるという名目の厳しい虐待まがいのしつけの結果。

いつも面倒事を押しつけられているクラスメイトの朝若くんを助けるうちに恋に落ちた、というのが依の自認。実際は朝若が扱いやすく、いくらでも自分好みに動いてくれるため。しかし彼は何でも言うことを聞くようで、その実他人の言うことを聞くのは彼自身の強固な行動指針によるものだった。つまりしんから吉木依に従うことはない。そう気づいたときから迫害や洗脳にも似た彼女の愛はヒートアップしたけれど、結果はお察し。そして自分と同じ大学に行くと思っていた彼が大学進学すらやめたことを知り、お寺に裁ちばさみを携え乗り込んだ(手芸部部長)。

その件については本人が多感なお年頃かつ実家パワーかつ被害者の希望で表沙汰にはならなかったがメンタルは確実にヘラった。そして新歓コンパ後のある夜、ついに朝若と再会した彼女は彼を衝動的に川に突き落とした。


・朝若 空

くう、と読む。正統派妹系女子高生。ブラコンたることギャルゲの如し。

兄が急に大学進学を止めたので、浮いたお金で予備校に通えるようになった空は朝若に恩義というか後ろめたさを感じている。そのためちょっと過剰に懐いていみせている。依の一件もあり朝若は彼女との接触を避けていたが、それこそが空のブラコンぶりをより高めた原因となった。羽束とは普通に友達で仲良し。ふたりでお店に遊びに来る日も近い。

ちなみに長男は作中の通り、本寺へ修行に行っているお坊さん見習い。いずれ実家の寺を継ぐ予定。その寺で自分の弟の彼女が暴行未遂なんか起こしちゃったので大人げなくぶちギレた。その結果として、妹から蛇蝎のごとく嫌われたということを彼だけは知らない。暫く帰ってこないだろう、と思われていたが当然そんな認識はフラグでしかない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花が散る散る春の夜 絢木硝 @monyouglass

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ