1336.元攻略者仲間、全員集結。

 シュキさんが迷宮都市を訪れ、俺たちの戦いに加勢した後、すぐに迷宮都市を離れ、再びやって来たというこの三日間に、いろいろあったようだ。


 改めて詳しく聞いた話によれば……


 公都から近い位置にある『コザイミナの街』に対し、公都の軍が攻めて来て、住民を皆殺しにしようという動きがあったのだそうだ。


 それを察知したレジスタンス組織の人間が、国軍の先発部隊の進軍を妨害し、城壁内に入らせずに押し返したらしい。


 その街の衛兵隊も、防衛するために戦ったそうだ。


 その街は、上層部全員が公都に懐柔されていたわけではなかったらしい。


 一部の貴族が公王家に反旗を翻し、人々を守るために行動したとの事だった。


 そんな報告が入り、シュキさんはレジスタンスを集結して全面的に国軍を迎え撃つかどうか、今後の方針を確認するために、ハートリエルさんに相談したようだ。


 ハートリエルさんは、無謀な戦いをするべきではないとし、住民の避難を優先させるという指示を出したらしい。


 住民の避難と言っても、人数が多く普通は難しいことだが、俺が貸し出している『箱庭ファーム』の魔法道具を使えば可能なんだよね。


 そんなこともあり、ハートリエルさんは避難を優先させたんだろう。


 犠牲を最小限にする良い決断だと思う。


 それに納得したシュキさんとブルールさんは、すぐにその街まで戻ったのだそうだ。


 状況が切迫した場合には、ブルールさんが念話で俺に救援を求めるつもりでもあったそうだ。


 その時点で俺に相談してくれてもよかったのだが、ハートリエルさんとブルールさんで、気を遣ってくれたらしい。


 まぁクランが襲われたり、公都が副宰相が来たりして、騒がしかったから気を使ってくれたのも、わからなくはない。


 俺に対して救援要請がなかったのは、シュキさんたちが『コザイミナの街』に戻ったときには、なぜか国軍が撤退していていなくなっていたからだそうだ。


 そして住民の切迫した危険は、なくなっていたのだそうだ。


 ただ何があるか分からないので、レジスタンス組織の者がかなり残っていて、いざというときには『箱庭ファーム』の魔法道具で脱出させるという段取りだけはしてきたとのことだ。


 突然撤退したというのは不可解だが、もしかしたら迷宮都市に進軍するために、呼び戻したのかもしれない。


 いつでも潰せるような街は後回しにして、今まさに反旗を翻そうとしている国の第二都市である迷宮都市を最重要ターゲットにしたからではないだろうか。


 そんな思考が頭に浮かんだ。


 シュキとの話が一段落したタイミングで、元『怪盗イルジメ』のオカリナさんが転移でやって来た。


 示し合わせたかのように、ハートリエルさんも訪ねてきた。


 オカリナさんは、シュキさんとの久しぶりの再会であり、会うなり抱きついて、喜びを体で表現していた。


 これでようやく元攻略者仲間だったメンバーが全員揃ったね。


「グリムさんやお仲間のことは、ブルールから聞かせていただいてます。

 あの……私でよろしければ、末席に加えていただけないでしょうか?」


 再会の喜びを分かち合ったシュキさんは、神妙な顔でそう言うと俺に跪いた。


 まるで部下にしてくれと言っているような感じだが……この発言の真意は『絆』メンバーになりたいってことだよね?


 そんな確認の気持ちも乗せてブルールさんに視線を送ると、コクリと頷いた。


「あの……私の『絆』メンバーという特殊な仲間になっていただけるという事でよろしいんですね?」


「はい。……女としての務めを充分果たせるかは分かりませんが、戦士としての務めは必ず果たしてみせます!」


 シュキさんは少し頬を赤らめながら、決意を込めた強い眼差しを俺に向けた。


 言っていることが微妙にちょっとおかしいと気がするが……気にしたら負けな気がするので、スルーすることにしよう。


 てか……『絆』メンバーのことを説明してくれたであろうブルールさん、どんな説明したわけ?


 少し気になるが、やっぱり気にしたら負けだな。


 俺は「ありがとうございます」と言って、跪いているシュキさんを立たせ、握手をするとともに軽いハグをした。


 すると、うっすら赤いシュキさんの肌が、更に赤くなった。


 握手の時にガチガチだったので、それをほぐす意味で軽く肩に触れ、勢いでちょっとしたハグみたいな感じになってしまったのが……まずかったかもしれない。


 女侍みたいな雰囲気の生真面目そうな人だから、男の耐性がないのかもしれない。


 まぁ普通に考えれば、こんなナイスバディーでそれなりの露出の服装だし、男の視線はかなり浴びているとは思うんだけどね。


 いずれにしろ、この生真面目な感じと、ウブな感じは男心をくすぐるかもしれないね。


 いや、そんなことはどうでもよかった。

 というか、こんなことを思ってしまうと……


(相変わらずセクハラです! セクハラには死を!)

(先輩最低です!)

(チッ)


 やはり脳内のナビー、レタ、タイディに、非難された。


 もちろんほぼ同時に、ニアさんに『頭ポカポカ攻撃』による制裁を受けた……トホホ。


 赤くなったままのシュキさんと、ニアによる制裁を受けた俺を見て少し呆れ顔をしているブルールさん、ハートリエルさん、オカリナさんをスルーして、俺は早速『絆』メンバーの登録を行った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る