1304.生垣防衛戦士、『デミトレント』大活躍!

 ドラッグン子爵の一団が、クラン本部の正門に現れた。


 何か口上があるかと思ったが、突然襲いかかってきた。


 正門を破壊されるのが嫌だから、あえて開放していたのだが、それをチャンスだと思ったようだ。


 先頭の騎馬軍団が、一気に突撃して来る。


 だが、そうはいかないよ!


 ——ズサッ


 ——ドゴッ


 先頭にいたドラッグン子爵を始めとした貴族たちが、一瞬で落馬した。


 『デミトレント』による攻撃で落馬したのだ。


 生垣になっている木の枝が鞭のように伸びて、叩き落としたのである。


 これは『デミトレント』の『種族固有スキル』の『形骸土木けいがいどぼく』よる攻撃だ。


 これをやったのは、屋敷の真ん中の二本並んで生えているうちの右側のウキだ。

 接続している全面の生け垣から攻撃を加えたのである。


 そしてそのまま落馬した貴族たちを、蔓状に伸びた木の枝で拘束し生け垣まで引き寄せ縫い止めるように固定した。


 まさか初手でこんなに上手くいくとは……。

 『デミトレント』のウキが頑張ってくれて、一斉に何本もの枝を伸ばして拘束してくれたのだが、誰も避けることができずに騎乗していた貴族全員を拘束してしまった。


 正直あまりにも呆気なくて、拍子抜けだ。


「な、なんだこれは!? おのれ、離せ!」


 ドラッグン子爵や取り巻きの貴族たちが喚き散らしているが、聞いてやらん!


 初手で、勝負あったという感じになってしまった。


 だが、さすがにこれで全て終わりにはならなかった。

 後方で、別の動きがあった。


 ドラッグン子爵たちの突入と同時に、私兵とゴロツキたちが強化薬を飲んだようだ。


 事前に打ち合わせていたのだろう。

 そして強化薬については、呪いの事は触れずに強くなる薬とでも言って渡していたのだろう。


 飲んだ者たちは、筋肉が盛り上がって、狂乱した状態になっている。


 そして猛り狂って、我先にと襲いかかって来る。


 こいつらも『デミトレント』の力で拘束できるが、ここはメンバーの経験のために使わせてもらおう。


 こいつらは、強化されているとは言え人間だから、できれば殺したくない。

 もちろん、相手は殺すつもりで襲ってきているので、反撃して命を奪っても問題は無い。


 だが殺さずに無力化する対人制圧戦の経験は、なかなかできない。

 殺してしまうよりも難しいのである。


 だからメンバーの貴重な訓練の機会とさせてもらうのだ。


 対処にあたるメンバーは、迷宮の付喪神となったイチョウちゃんと『デミトレント』たち、そしてキジムナーのカジュルちゃんだ。


 『デミトレント』は四体で、ドラッグン子爵たちを拘束したのはウキだけなので、残りのヒダリー、ミギー、サキにも対人制圧戦の経験を積んでもらうことにした。


 ウキも、枝を蔓のよう巻きつけて拘束するという戦法は問題なくできたが、毎回拘束できるかは分からないので、打撃で気絶させるとか、殺さない程度に戦闘力を奪うという練習もしたほうがいいだろう。


 そんなこともあり、俺は四体の『デミトレント』たちが平等に練習できるように、狂乱状態の私兵やゴロツキたちを分散させることにした。


 分散させると言っても、難しい事はしない。

 俺が捕まえて、四体が攻撃できる位置にどんどん放り投げるだけだ。


 普通なら、この放り投げる行為自体でほぼ無力化になってしまうだろうが、相手は強化されているので、この程度で戦闘不能になる事はない。


 まぁそういう意味では、対人制圧戦者の練習と言っても、普通の人よりはかなり強くなっちゃっているけどね。


 でも、強化されていることをレベルが高い状態に置き換えて、レベルの高い敵を制圧する練習だと思えばいいだろう。


 四体の『デミトレント』たちは、枝を鞭のように伸ばしてうまく攻撃を加えている。


 それぞれにそれなりの数になるように放り投げたが、問題ないようだ。

 複数に対して同時に対処ができているし、ここは任せておいていいだろう。


 ちなみに、対人制圧戦で一番役立つのは、『共有スキル』にもセットしてある『状態異常付与』スキルである。


 ただ狂乱状態であるがために、『状態異常付与』スキルは効き目が良くないと思われる。

 ゴロツキのアジトで俺が使った時でも、少し抵抗のようなものを感じたからね。


 もちろん『共有スキル』にセットされているスキルは、皆スキルレベル10だから、上手くいく可能性もあるし、二回三回で繰り返せば抵抗しきれず効果を出せる可能性が高い。


 だがそれよりは、通常の戦闘で制圧してしまう練習にしたほうがいいと考えた。


 それ故に、事前に俺の『絆』メンバーに対しては、『状態異常付与』スキルを使わずに、他のやり方で無力化する練習にするように話をしてあったのである。


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