1303.全ては、お見通し。

 翌日、昼近くになっても俺はクランにとどまっている。


 俺たちのクランを攻撃しに来るドラッグン子爵たちを、待っているのだ。


 奴らの動きは予想できるので、監視していた。

 だから、俺たちを襲撃する動きは、既に把握している。


 それに、昨夜奴の屋敷に『黒の賢者』が現れたことも把握済みだ。


 もちろん『黒の賢者』に悟られないように、距離をとって監視した。

 『視力強化』スキルを使って、俺自身がしっかり確認した。


 『黒の賢者』は、最強の潜入工作員が尾行している。

 『エンペラースライム』のリンちゃんが、いつものように姿も気配も消して、追跡しているのだ。


 奴が悪魔と何らかの関係があるのは間違いないので、できれば悪魔に辿り着きたい。


 そんなわけで『黒の賢者』も泳がせている。


 ただ、俺がマーキングをした『セイチョウ迷宮』を襲った悪魔は相変わらず検知できないので、この近くにはいない可能性が高い。

 それを考えると、また別の悪魔と関係しているのかもしれない。


 まぁ仮に悪魔までたどり着けなくても、当面のターゲットであった『黒の賢者』は直接確認することができた。

 『黒の賢者』は、もうロックオン済みだ。


 こうなると、もはやドラッグン子爵には何の価値もない。


 そして、タイミングよく日中に正々堂々と攻めて来ようとしている。


 奴らは、クランに所属する冒険者が不在の日中を狙っているわけだが、俺たちにはそんなことは関係ない。


 武力で堂々と攻めてきてくれるなら、防衛という名目で堂々と返り討ちにできるしね。


 ドラッグン子爵邸は中区にあって、そこから南区の俺たちのクラン本部に向かって来ているので、それなりに目立っている。


 クランの諜報部員のハッパさんから、報告が入っている。


 もちろん衛兵隊独立部隊のムーニーさんも、把握していると思うがあえて手を出していない。


 俺に対処を任せてくれるつもりなのだ。


 『黒の賢者』が絡んでいる以上、厄介な魔法道具や魔物を使うことも充分予想できるが、対策も立てているから大丈夫だろう。


 もちろん多少の危険はあるが、クランのメンバーだけで迎撃しようと思っている。


 養育部門の子供たちですら、ほとんどレベル20になって強くなっている。

 魔物が来ても、ある程度は戦えるだろう。

 もちろん、戦わせる予定は無いけどね。


 まぁほんとに弱い魔物なら、実戦経験を積ませるために戦わせてあげてもいいかもしれないが。


 危険がないように万全の態勢で臨める状況なら、それもありだと思っている。


 これから始まる戦いは、突然襲われるのではなく襲ってくることがかわかっていて、迎え撃つ戦いだから、余程のことがない限り危険な状況になる事はないだろう。


 逆にこの戦いを上手く利用して、クランメンバーの戦力アップができるのが最善の展開ではある。


 ん、……周囲の騒然とした感じが伝わってきた。


 ドラッグン子爵御一行が到着したようだ。


 本当に、堂々と正門から攻めてくるようだ。


 ある意味貴族然としているが……ただの馬鹿なのかもしれないとも思う。


 この街では、俺はすでに『キング殺し』として有名なのに、本当に勝てると思って襲ってきているのだろうか……?


 それはともかく、完全に姿が見えてきた。


 ドラッグン子爵とそれに従う貴族たち合わせて十名ほどが、馬に騎乗して先頭にいる。


 そして、その子弟縁戚と思われる者たちも馬に騎乗して続いていて、先頭集団にいる。


 ある意味、ちょっとした騎馬軍団的な感じにはなっている。


 これでここまで来たのなら、確かに目立つね。


 騎馬の集団の後ろには、各貴族の私兵と新たに集めたゴロツキたちが隊列を組んでいる。


 ゴロツキに隊列を組む協調性があるのは意外だ。

 そんな協調性があるなら、ちゃんと仕事をすればいいのにと思ったが、そんな事はどうでもいい。


 総勢二百名近いの集団だ。

 よく短期間に、こんなに集めたものだ。

 まぁほとんどが各貴族の私兵だから、各貴族家に十名から二十名いただけで、百人以上にはなっちゃうんだけどね。


 白昼堂々攻めてくる以上、防衛のため返り討ちにしても問題にはならないと思うが、念のため、貴族だけは俺とニアで対処しようと思っている。


 というか、正確には俺とニアと『デミトレント』達で対処する予定だ。


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