1302.ドラッグン子爵と、『黒の賢者』。
迷宮都市『ゲッコウ市』中区にあるドラッグン子爵邸
「おのれぇぇぇ、シンオベロン、許さぬ、許さぬぞぉ!」
館の主ドラッグン子爵は、怨嗟の声を上げる。
「ドラッグン子爵閣下、あのいい気になったシンオベロンをこのままにはできませぬ! 我らの力を結集して成敗しましょう!」
常に行動を共にしている腰巾着オベッカ男爵が激昂する。
「そうです、やりましょう!」
「我らの力、目に物見せてやりましょう!」
「あんな下郎など、ねじ伏せましょうぞ!」
「「「そうだ!」」」
それに同調するように、他の取り巻き貴族たちも声を荒げる。
「もちろん、あいつを許すつもりはない。これは我々貴族に対する挑戦でもある。皆で奴のクランを討ち滅ぼすぞ!」
「そうしましょう! 我らそれぞれの私兵を総動員します。
金で雇える者も手配しましょう。
明日の夜にでも、夜襲をかけましょう!」
オベッカ男爵が、鼻息を荒くする。
「いや、夜中ではなく昼に成敗に行ったほうがいいだろう。
あのクランに所属している冒険者たちがいる時では、向こうも戦力が豊富だ。
冒険者が出払っている日中に、攻撃をかけるのが得策だ。
明日の昼に、決行する!
今からできるだけ人をかき集めろ!」
「分りました。我ら一丸となって、準備します!」
オベッカ男爵が中心となり、他の貴族たちと打ち合わせをし、皆手配のために散って行った。
「あのクラン、跡形もなくしてくれようぞ。
この前の贈り物では犠牲者が出なかったようだが、今度は確実に仕留めてやる!」
ドラッグン子爵は、一人声をあげながら隠し部屋の扉を開けた。
「何なんだ、これは!」
驚きの声を上げるドラッグン子爵。
この隠し部屋には、遺跡で手に入れた魔導爆弾や呪われた
だが、そこには何も無かった。
『闇の掃除人』となったグリムによって奪われていたのだ。
毎日隠し部屋を確認しているわけではないので、今気づいたというわけである。
そして、グリムの『状態異常付与』スキルの『催眠』により尋問されて、自ら隠し部屋の場所を白状したことなども全く覚えていないのであった。
グリムが『催眠』を解除するときに、全て忘れるように指示したからだ。
それゆえに、突然空になったら隠し部屋を見て絶句しているのである。
「おのれぇぇぇ! これもシンオベロンの仕業に違いない、くそぉぉぉ!」
ドラッグン子爵は、やけくそでグリムの仕業だと断定する。
単に怒りに任せてグリムのせいだと思い込んだだけなのだが……皮肉にもそれが正解なのであった。
「くそくそくそくそくそがぁぁぁ!」
クラン攻撃に使おうと思っていた武器が知らぬ間に失われたことも悔しいが、金の亡者とも言えるドラッグン子爵にとっては、生涯をかけて手にした隠し資産が全てなくなっていることが許せなかった。
「おのれ、おのれ、おのれぇぇぇ! シンオベロン、シンオベロン、シンオベロン、許さん!」
ドラッグン子爵が、体を震わせ絶叫した。
その後のつかの間の静寂の時、彼は急に人の気配を感じた。
慌てて振り向くと……そこには黒ずくめの男が立っていた。
「あなた様は……『黒の賢者』様! いつの間に……」
「ヒョッヒョッヒョッヒョ、そう驚くことはないのだよ。
私が突然現れるのは、いつものことではないか」
「……はい。それはそうですが……」
「ヒョッヒョッヒョッヒョ、だいぶ憤っているみたいだねぇ。
シンオベロンにしてやられたようだねぇ?」
「そ、そうなんです。奴は放っておけません!
奴のクラン共々亡き者にします!
どうかお力添えを!」
「わかっていますよ。
ヒョッヒョッヒョッヒョ、私はいつもいいタイミングで現れるでしょう?
あなたに力を貸しましょう。
並の兵力では敵わないでしょうから、特別な力を貸しましょう」
そう言うと、『黒の賢者』は小さな円盤状の装置を二つ渡したのだった。
「それから、戦う者たちにはこれを飲ませなさい」
今度は、呪いの力で強化した回復薬のケースを渡した。
ドラッグン子爵は、その薬の効果と呪いによる副作用を知っているので、当然自分で使うつもりはない。
だが、私兵やゴロツキたちに使わせるつもりで、笑みを浮かべながら受け取った。
「感謝します、『黒の賢者』様。必ず奴らを潰してご覧に入れましょう」
先ほどまで激昂していたドラッグン子爵は、冷静さを取り戻し大仰に頭を下げた。
『黒の賢者』は満足そうに頷くと、いつものように突然その場から消えたのだった。
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