1297.薬師ギルドに、さよならしよう!
ムーニーさんが既に動いて、太守で父親のムーンリバー伯爵と話をしてくれていた。
その事を予想して話を振った俺に、彼は苦笑いを浮かべた。
そして話を続けた。
「薬師ギルドでさぁー、薬師のみんなを縛り付けているのはー、あくまでギルド内の規則なんだよー。
薬師ギルドに所属していなければー、関係ないんだよねー。
薬を作っちゃいけないとかー、勝手に薬を売っちゃいけないとかー、太守が決めたわけじゃないんだよー。
あくまでー、薬師ギルド内の規則だからー、ギルドを退会しちゃえばー、関係ないんだよねー。
だからこそ今までー、薬師ギルド以外の者で勝手に薬を売った者はー、衛兵隊に通報しないでー、闇討ちというかたちで制裁していたんだと思うんだよねー。
シンオベロン卿が言うようにー、彼のクランで薬を売っても本来問題ないんだよー。
薬師ギルドが反発したりー、ドラッグン子爵が文句を言うことはあってもー、衛兵隊が捕まえるとかいうことはないよー。
それからー、呪いの回復薬の騒ぎも太守に報告は上がっているからー、ドラッグン子爵や薬師ギルドの問題も把握してくれているよー。
まぁここだけの話ー、ドラッグン子爵や薬師ギルドを太守が擁護することはないよー」
ムーニーさんのちょっと間の抜けた話し方の話を聞いていた薬師の皆さんは、コクコクと頷きホッとした表情になっている。
「あーあー、言っちゃったー。
この件でー、シンオベロン卿が尋ねてくるのを太守は楽しみにしてたのにー、もう行く必要なくなっちゃったよねー。
後で怒られちゃうなぁー。
まぁいいけどさぁー」
ムーニーさんは、ニヤニヤしながらそう言って肩をすぼめた。
俺の思ってた通りだが、改めてムーニーさんから話を聞けた事は大きい。
直接ムーンリバー伯爵から言質を取ったわけではないが、俺も安心できるし、薬師のみんなも安心できるだろう。
ムーンリバー伯爵なら、報告を受ける中で俺の動きを予想して、支援してくれるだろうと思っていたが、充分伝わっていたようで嬉しい限りだ。
俺の考えている制裁というか成敗をやってもいいというお墨付きがあるようなものだし、改めて話をする必要がなくなったとは言え、やっぱり訪ねて礼を尽くしたほうがいいかな。
「なるほど、よくわかりましたよ。グリムさん、あんたの話、乗ろうじゃないか」
おばあさん薬師が、男前に宣言してくれた。
「そうだな。あんたを信じるよ。グリムさん」
「そうね。今のままじゃ、どうしようもない閉塞感があったし。
お世話になります。
協力できる事は何でもするから、言って下さい」
「ありがとうございます。
それでは皆さんにお願いしたいことがあります。
薬師ギルドに所属している薬師の中で、協力してくれる方を密かにまとめて欲しいのです」
「ははは、任しときな。私らがみんなをまとめるから」
おばあさん薬師が、またも男前な感じで胸を叩いた。
「ありがとうございます。
それから……もう一つ確認したいのは、薬師ギルドを退会する手続きのようなものがあるのかということです」
「退会申出書があるから、それを書いて出すだけだよ。
出せば普通に受理されるはずだよ」
「そうなんですね。
ただ……あまりにも退会者が多いと、何か対抗手段を講じてくるかも知れませんね……」
「そりゃそうだね。あのギルド長も変なことには鼻が効くからね」
「あの……師匠、私の友達がギルドの受付窓口にいるんですけど、その子に密かに協力してもらったらどうでしょう?
退会申出書を事前にもらっておいて、希望者に配って書類を作って、人がいないときにまとめて出して、一気に印をもらうっていうのはどうですか?
そうすれば、ギルドの幹部が気づいたときには、もう退会処理が終わっているという状態にできるんじゃないでしょうか」
おばあさん薬師の一番弟子的な女性が、そんな意見を出してくれた。
ナイスアイディアだ!
俺もそんな感じの作戦を考えていたんだけど、ギルド側の協力者の確保が問題だったのだ。
だけど、この子の友人が協力してくれれば、万事解決だ。
「素晴らしいですね。是非、その作戦でお願いしたいんですが」
「そうだね。じゃあその作戦でいこうじゃないか」
おばあさん薬師が愉快そうに弟子の女性を見ると、彼女は笑顔で頷いた。
「それからですね……皆さんの安全のために、私のクランの冒険者に巡回してもらいます。
あと、仲間の『スライム』も巡回させます。
何かあれば、守ってくれますから安心してください」
「そこまでしてくれるのかい?
それは安心だね。心強いよ」
おばあさん薬師が感心顔で頷いて、俺の背を叩いた。
他の皆さんも、礼を言いながら頭を下げてくれた。
俺は、一人ひとりと握手を交わし、作戦を成功を誓い合った。
衛兵隊の詰所での作戦会議で、ムーニーさんも聞いていたし、何かあったときの協力は惜しまないと言ってくれた。
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