1298.釈放して、作戦開始。
濡れ衣を着せられた薬師たちと、今後の話がまとまった。
だが、大きな問題が残っている。
それは、この人たちの無実を証明し、釈放する方法だ。
すぐに釈放して作戦を開始したいのだが、釈放する無実の根拠が必要だ。
薬師ギルドの幹部たちをギャフンと言わせて、この人たちに手出しをさせないようにしないといけない。
「この人たちが無実だと証明する手段がないんだよねー」
ムーニーさんが、額を指で突きながらボヤいた。
「えーっと、この迷宮都市の役人の中に、看破系のスキルや尋問ができるスキルを持った人はいないのでしょうか?」
いくら小国の『アルテミナ公国』とは言え、何人かはいるはずだ。
そしてこの迷宮都市は、国の第二の都市である。
普通に考えれば、一人ぐらいいるはずだ。
「残念だけどー、この都市にはいないんだよー」
そんな予感はしたが、都合よくいてくれるという事はなかった。
ムーニーさんによれば、以前はいたが公都に召集され、そのまま向こうの所属に変えられたとのことだ。
どうするか……。
俺の『絆』メンバーなら『虚偽看破』なども使えるんだが、それを明かすわけにはいかないしなぁ……。
薬師ギルドの職員は皆圧力をかけられているだろうから、有利な証言をしてくれる人はいないだろうし……。
そうだ! 薬師ギルドが証拠捏造しているんだから、こっちも作っちゃえばいいか!
俺は、一つ思いついた。
それは、俺が捕らえたゴロツキたちが証言したということにして、薬師のみなさんを釈放するというものだ。
あのゴロツキたちに、『黒の賢者』と名乗る者が呪われた薬を渡したことは、既に証言されている。
それに追加して、その時に『黒の賢者』が薬師ギルドに出向いて、在庫にあった物に同じ加工をしてきたと言っていたと証言させるのだ。
この証言は真っ赤な嘘なのだが、そう証言したことにすれば、薬師たちを嫌疑なしとして釈放する理由になる。
まぁ薬師ギルドが揃えた納品したという証拠と、ゴロツキの証言のどっちを信じるかという問題はあるが、そこは衛兵隊の判断ということでいいだろう。
少なくとも相反する証拠がある中で、不当に拘束することができないという理由で釈放したとすれば良いのではないだろうか。
それに、よく考えてみれば納品したという証拠であって、作ったという証拠ではない。
納品した後に、『黒の賢者』が細工したという事なら、全く問題ないはずだ。
実際その通りなわけだし。
我ながら名案だ。
俺は、そんな話をムーニーさんにした。
「なるほどねー。現時点ではそれが良さそうだねー。
さすがシンオベロン卿だよー。
じゃあそういうことにするからさぁー、薬師の皆さん帰っていいよー」
ムーニーさんは、すんなり受け入れてくれた。
「本当かい!? それは良かったよ」
「隊長さん、ありがとな」
「グリムさん、ほんとにありがとう」
工房の代表たちが、お礼を言ってくれ、他の薬師の皆さんも頭を下げてくれた。
よし、これでこの件は大丈夫だ。
あとは、この薬師の皆さんが再び酷い目にあわないように、スライムたちを各工房の周辺に配置することにしよう。
それから、自警団『ニアーズハイ』のみんなにも、定期的な巡回をお願いすることにしよう。
◇
翌日の夕方、俺はクランに南区在住の薬師の皆さんを招待した。
薬師ギルドを抜けて『ツリーハウスクラン』に入りたいという希望がある人たちである。
昨日開放された三つの薬師工房の代表たちが、声をかけてくれたのだ。
作戦通りに行動してくれているのである。
薬師たちは、代表たちの話を信用してくれたようだが、正式に俺の話を聞きたいという意見が出たとのことだったので、招待したのだ。
実はこれに先立って、北区と中区にいる薬師たちにそれぞれ集まってもらって、俺の考えを説明しいる。
皆納得してくれて、クラン入りを希望してくれた。
北区は元宿屋だった屋敷で、今はクランメンバーと『ニアーズハイ』に協力してくれている『ゲッコウ自警団』の拠点となっている場所に集まってもらった。
ここはすでに『ツリーハウスクラン』の支所として機能しているのである。
中区については、以前に購入した大きなお屋敷を使った。
盗賊団が密かにアジトにしていた場所だ。
この物件も、今後『ツリーハウスクラン』の支所として、正式に使うことになっている。
薬師の皆さんは今現在工房を持っているので、そのまま工房で働いてもらって、薬師ギルドに納める代わりにクランに納めてもらえばいい。
だから支所で働いてもらう必要はない。
だが、今の工房が狭いとか、支所で働きたいという希望の人がいた場合には、迎え入れて専用の工房を作ってあげようと思っている。
それに作った薬の納品もそこで受け付けてあげれば、納品の手間と時間が改善されるから、喜んでくれるだろう。
説明会を終えている北区と中区の人たちには、当然この話をしたわけだが、予想通り皆喜んでくれた。
今日の時点では、今の工房でからクラン支所に引っ越したいという希望は出ていなかったが、納品を受け付ける場所が近くにできることについては、皆喜んでいた。
今までは、南区にある薬師ギルドまで月に何回かまとめて納品するということをしていたようだ。
その手間がなくなるのは、非常に大きいらしい。
そんな感じで北区と中区の薬師への説明は、すでに上手くいっているのだが、本番はこれからだ。
一番数が多い南区の薬師たちに対する説明を、頑張ってしないとね。
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