1296.クランへの、勧誘開始。
俺は、濡れ衣を着せられた薬師の皆さんを助けたいという気持ちを伝えた後に、薬師ギルドを潰すつもりだという話をした。
そんな俺の力説に、この場にいる薬師の人たちは感動してくれたようで、目を輝かせて俺を見てくれている。
そして俺は、本題を切り出す。
「そこでなんですが……薬師の皆さんが薬師ギルドを抜けるというのはどうでしょう?」
「そんなこと……。簡単に言うけど、ギルドを抜けたらこの街では薬を作っても売れないんだよ」
夫婦工房の奥さんが困惑顔をする。
「売れるとしたらどうでしょう?
もしくはそんなこと関係なく生活が成り立つように私が保証すると言ったらどうしますか?」
「それはどういうことだい……?」
「端的にいます。もしよろしければ……希望する薬師の皆さんを、私のクラン『ツリーハウスクラン』のメンバーとして受け入れようと思います。
もちろん悪事を働く薬師にはご遠慮いただきますが、真面目に薬を作っている薬師の方は、全員『ツリーハウスクラン』のメンバーとして受け入れます。
そして、今まで通りに薬を作ってもらいます。
その作った薬は、クランで買い上げる形になります。
つまり出来高で報酬をきっちり払います。
しかも今薬師ギルドで払ってる報酬よりも、はるかに多い金額です。
私が経営している『フェアリー商会』の薬師たちに払っているのと同額を支払います」
「え、『フェアリー商会』を経営してる……?
この街でも有名な『フェアリー商会』を、あんたが経営してるのかい!?」
おばあさん薬師が驚きの声を上げた。
周りの人たちも驚いている。
『コウリュウド王国』のピグシード辺境伯領やヘルシング伯爵領、セイバーン公爵領では、『フェアリー商会』はグリム・シンオベロン名誉騎士爵が経営しているというのは、それなりに知られていると思うが、さすがに『アルテミナ公国』の一般の人々までには伝わっていないようだ。
「はい、そうです。
私は、迷宮都市にはあくまで武者修行に来ているので、ここに『フェアリー商会』を進出させるつもりはないのです。
ですが、『コウリュウド王国』では『フェアリー商会』を拡大していますので、皆さんが作ってくれた薬を『コウリュウド王国』で販売することもできます。
もちろん、この迷宮都市で販売できるようにしようとは思っていますけどね」
「ホントかよ!?
そりゃ凄いじゃないか。
今まで通り一生懸命薬を作れば、ちゃんと稼げるわけだな?」
男三人工房の代表が、目を輝かせた。
「ええ、その通りです。
皆さんは、今まで通り独立した工房の主、そしてそのメンバーとして薬を作っていただいて、『ツリーハウスクラン』が買い上げるというかたちです」
「それはほんとに今まで通りだね。
納め先が、薬師ギルドから『ツリーハウスクラン』に変わると思っておけばいいのかな?」
笑顔を向けながら尋ねてくる夫婦工房の奥さんに、俺も笑顔を作って首肯する。
「その通りです。
『ツリーハウスクラン』のメンバーになると言っても、使用人になるというわけではありません。
『ツリーハウスクラン』のメンバーの冒険者たちもそうですが、皆独立した存在で、自由な存在です。
一部のクラン内の仕事を担当してもらってる人には、給金を払っていますが。
まぁいろんな形態が可能です。
もしクランから給金をもらうかたちで働きたいという人がいれば、それも可能です。
とにかく、今の機能していない薬師ギルドに代わって、薬師の皆さんを支える活動をしようと思っています」
「本当かい?
それはありがたいね。
でも……上限なしに作っただけ買い取ってくれるのかい?」
おばあさん薬師が、少し試すような目つきで訊いてくる。
「当面は問題ないと思います。
先ほども言ったように『コウリュウド王国』での販売も考えれば、販路はいくらでもあります。
ただ求められている薬とあまり需要がない薬は存在しますから、そういう意味での調整はする可能性がありますが」
「ほほう、なるほど。さすが大商会の会頭さんだね。
信用しても良さそうだね」
おばあさん薬師は、満足そうに微笑んだ。
「それに、薬師ギルドに所属するほとんどの薬師たちがギルドを辞めて私のクランに入ったら、薬師ギルドでは魔法薬の数が足りなくて困るでしょう。
おそらく、この迷宮都市で我々のクランが薬を販売することも可能なはずです……」
俺はそう言って、ムーニーさんに視線を流した。
「まったく……シンオベロン卿はすごいねー。僕が父……太守から確約をもらっているのもー、お見通しなんだろうー?」
俺は、苦笑いで返した。
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