1295.濡れ衣を着せられた、薬師たち。

 俺は、薬師ギルドのギルド長が濡れ衣を着せて連れてきた人たちに、話を聞くことにした。


 その前に、ムーニーさんが、縄を解いて安心するように話をしてくれた。


 無実であることはわかっているが、保護するために引き取ったということを説明してくれていたのだ。


 薬師の人たちは、皆安堵していた。


 俺は、回復薬をあげて傷を治してあげた。


「あらま、この薬はすごいわね。

 下級の回復薬だと思うけど、上品質に違いないわ。

 素晴らしい!

 これはどこで?」


 場違いなほど、明るくハイテンションな声を上げたのは、おばあさんだった。


 生粋の薬師らしく、回復薬の品質が気になったらしい。


「それは、私の知ってる商会で作ったものです」


「それは……なんていう商会?」


「えーっと……『フェアリー商会』です」


「……『フェアリー商会』ねえ。

 噂は聞いているわよ。

 『コウリュウド王国』のピグシード辺境伯領で凄い人気らしいわね。

 『マグネの街』には、ここの冒険者たちも結構出向いているようね。

 回復薬や武具なんかを、大量に買ってきている者がいるっていう話も聞いたことがあるわ。

 まぁ私らにとっては、ライバルみたいなもんだけど、この薬の品質は素直に賞賛したいわね。

 いい薬師がいるようね」


 おばあさんは、そんなことを言いながら感心するように頷いていた。


 それを見ていた弟子と思われる女性たちは、少し強張った表情をしている。


「師匠、そんなことに感心している場合じゃないですよ。

 私たち濡れ衣を着せられたんですよ!」

「そうです! 私まだ結婚もしていないのに、犯罪奴隷になるなんて嫌です」

「私は立派な薬師になりたいんです」

「この街一番の工房になるっていう夢を叶えましょう」


 女性たちが涙ながらに訴えて、師匠と呼ばれたおばあさんも現実を思い出したようだ。


「忘れてたわ、あのギルド長、許せない。

 私の大事な弟子たちに暴力を振るうなんて、どうしてくれようかしら。

 あいつを呪い殺す薬を作っちゃいたいくらいだわ」


 現実を思い出したおばあさんは、怒りの感情も思い出したようだ。


「師匠、そんなこと言ったらダメですよ。

 私たち衛兵隊の詰所にいるんですから」


「大丈夫よ、衛兵隊の隊長さんだって、冤罪だとわかっているって言ってくれたじゃないの」


 そう言っておばあさんは、呑気に笑った。


「しかしヒリング婆さん、笑い事じゃないぜ。

 衛兵隊の人が濡れ衣だとわかってくれた事はありがたいが、なんとかしないと俺たち生きていけねーぞ」


 男三人の工房の代表と思われる人が、渋い顔で言った。


「ヒリングさん、そうですよ。私たち夫婦も、子供たちが心配です」


 今度は、夫婦の工房の奥さんが不安を口にした。


 旦那さんがおとなしい感じだから、奥さんがリーダー的な感じになっているのかもしれない。

 まぁそんなことはどうでもいいが。


「皆さんのお力になれるかもしれません。

 私は、冒険者のグリムと申します」


 俺は、改めてこの人たちに挨拶をした。


「あんた……『キング殺し』だろ?」

「『キング殺し』のシンオベロン卿かい?

 近くで見るといい男だねぇ」


 男三人の工房の代表とおばあさん薬師が、そんな言葉をかけてくれた。


「あの……力になってくれるって、どういうことですか?」


 夫婦工房の奥さんが、真剣な表情で食いついてきた。


「実は、ドラッグン子爵と薬師ギルドに思うところがありまして……はっきり言いますと、薬師ギルドを潰そうかと思っているんです」


 俺は、思いっきりぶっちゃけた。


 もちろん意図的にだ。

 そのほうが効果的だと思ったのだ。


「薬師ギルドを潰す……?

 そんなことできるのかい?」


 俺の思わぬ発言に皆呆然としていたが、おばあさんだけは少し面白そうな感じで頬を緩めながら尋ねてきた。


「もちろん表立って喧嘩を売るつもりはありません。

 ただ、今の薬師ギルドは、百害あって一理なしだと思います。

 一部の癒着した大手工房以外の善良な薬師の皆さんは、相当お困りだという話を聞いています。

 真面目に働いても、生活が苦しいと。

 本来、薬師ギルドは、薬師の皆さんの生活が成り立つように支援する組織でなければなりません。

 薬師の皆さんが薬を作ることに専念して、販売はギルドが受けもつ、そんな役割分担であるべきです。

 ですが、今の薬師ギルドは薬師の皆さんを食いものにしています。

 搾取の対象にしているのです。

 そんなギルドに、存在価値はありません」


 俺にしては珍しく、結構力説してしまった。


「はは、あんた、いいこと言うね!

 その通りだよ。

 私が言いたかったことを言葉にするとそうなるね。

 こりゃ愉快だ!」


 おばあさんが、嬉しそうに笑う。


「おお、その通りだ!

 俺も口下手だが、思ってた事はあんたと同じだ!」

「あたしもそう思う。さすが『キング殺し』、いい男だ!」


 男三人工房の代表と夫婦工房の奥さんも、嬉しそうに声を弾ませた。


 なんかみんなから認められた感じで……掴みはオーケーのようだ。


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