1251.レアな妖精族、キジムナー。
『ツリーハウスクラン』のシンボル的存在の四本の木……『デミトレント』たちのリーダーヒダリーのところにやって来た俺に、ヒダリーは、「クランを守るために、やりたいことがある」と訴えてきた。
そして、「僕たちを助けてくれるパートナーが来てくれたんだ!」とも言った。
その瞬間、ヒダリーの幹の中央あたりが、うっすら光りだしたのだ。
そしてそこから、ポンッと飛び出すように、真っ赤な綿毛が出てきた!
直径40センチ位で、ふわふわな感じだ。
『デミトレント』の前に着地すると、まるで『スライム』のように、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「あたし、キジムナーのカジュル。この子たちの強い想いが届いたから、来ちゃった! よろしくね」
毛玉というか綿毛というか、そんなボールのような存在が、相変わらずジャンピングしながら話しかけてきた。
目とか口は見えないが……言葉が話せるようだ。
「はじめまして、俺はグリム、こちらこそよろしく。
ヒダリーたちの呼びかけに応えてきてくれたようだね、ありがとう」
「いいのいいの。私は木が大好きだし、特に『カジュマル』や『ワイルドカジュマル』は、分身のような存在だもの。
そして、そんな子たちが『デミトレント』として覚醒したなんて、嬉しいもの! 出会えて嬉しいのよ。
それから……この子たちの眷属の長になっているあなたにも、興味あるしね」
相変わらずバウンドしながら、赤い毛玉は、少女のような口調で話している。
『キジムナー』というレアな妖精族の存在については、前に『ワンダートレント』のレントンが教えてくれていた。
それによれば…… 『キジムナー』とは、樹木の精霊とも言われるレアな妖精族らしい。
精霊と妖精の中間のような存在で、くくりとしては亜妖精に入るということだった。
『キジムナー』は、『ガジュマル』『ワイルドカジュマル』の木を家とすることが多く、関わり合いが深いらしい。
そして『ワイルドカジュマル』が『デミトレント』として覚醒したヒダリーたち四体には、全員に『固有スキル』として、『キジムナーとの絆』というスキルがある。
『固有スキル』と言いつつも……四体とも同じものを持っている。
どうも『ワイルドカジュマル』としての特性が、持たせているようだ。
もはや『種族固有スキル』ではないかという気もするが……『デミトレント』としての『種族固有スキル』ではないらしい。
理論的には、いろんな木が『デミトレント』として覚醒する可能性があるわけで、あくまで『キジムナーとの絆』というのは、元になった『ワイルドカジュマル』としての特性が持たせているということなのだろう。
そんな『キジムナーとの絆』というスキルは、縁がある『キジムナー』と、念話をすることができて、呼び出すことができると表示されていたスキルだった。
それを踏まえれば、今やって来た『キジムナー』のカジュルちゃんは、ヒダリーたちと縁がある『キジムナー』という事なんだろう。
俺は、そんなことを尋ねてみた。
「えっとねー、正確にはね、私のおばあちゃんと縁があるのよ。私のおばあちゃんが苗木を育てて、縁のあった人族にあげたみたい。
おばあちゃんはちょっと出かけられないから、私が代わりに来たってわけよ」
なるほど。
やはり縁があったわけね。
この子直接ではなかったけど。
「そういうことだったんだね。ところで、転移か何かでやって来たの?」
俺は気になったので、訊いてみた。
「そうなの。私たち『キジムナー』は、縁がある樹木のところに、転移で移動できるのよ」
「やっぱりそうだったんだね」
「うん。それにしても……ここって面白いわね! いろんな人がいる。付喪神もいるし、妖精族もいる……」
周囲を伺うように動きながらバウンドして、カジュルちゃんはそんなことを言った。
みんながここに集まって来ているわけではないが、何か気配のようなものを感じ取れるらしい。
付喪神でこのクランに参加している『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんや、『高速飛行艇 アルシャドウ号』の付喪神エメラルディアさんには、俺が偽装ステータスを貼り付けているので、普通はわからないはずだ。
それが分かるのだから、やはりそういう特別な気配を察知できる能力があるのだろう。
「私はニアよ、よろしく」
そんな話が出たところで、一緒にいたニアが挨拶した。
「ニアちゃんよろしく。すごーい、『クイーンピクシー』なの!? ほんとにすごーい!
……なんか……妖精族の長にもなれそうな……。
ここはしっかり挨拶しなくちゃ。『キジムナー』のカジュルです。よろしくです」
カジュルちゃんはニアに挨拶した後、バウンドを止め地面に落ち着いた。
ニアが『クイーンピクシー』であることも、もちろん偽装ステータスで隠してるので、仮に『鑑定』スキルを持っていたとしても、見破れないはずである。
やはり特別な力を持っているようだ。
もしかしたら……精霊と妖精の中間のようなレアな妖精族と言っていたから、精霊の力的なもので、ある程度のことがわかってしまうのかもしれない。
そんなことを思っている間に……赤い毛玉が……カジュルちゃんが地面に留まりながら、うっすら光っている。
「へーんーしーん、トォォォォ!」
突然、仮面のヒーローが変身するときのような言葉を発し、ジャンプした!
そしてその赤い毛玉は……縦に引き裂かれるように割れた。
え!?
そこから三十センチくらいの女の子が飛び出した!
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