1250.テロ対策は、難しい。

 『ツリーハウスクラン』に戻ると、正門の周辺が大きく破壊し、地面がえぐれていた。


 近くに人がいたら、大変なことになっていただろう。


 人造迷宮『セイチョウ迷宮』の迷宮管理システムであるイチョウちゃんが、検知機能で気づいてくれたお陰で、事なきを得た。

 クランメンバーや周辺の通行人を避難させることができたのだ。

 本当に良かった。


 それにしても……こんな危険な兵器を使うなんて、ドラッグン子爵、絶対に許せない。


 すぐにでも倒してしまいたいところだが……奴が『黒の賢者』に繋がる唯一の存在なので、しばらくは泳がせるしかない。


 ただ、だからといって、このまま放置する気はさらさらない。

 今夜にでも奴の屋敷に潜入し、他に危険な兵器がないか確認し、没収してこようと思っている。


 表立ってグリムとして喧嘩を売る事はもちろん自重するし、『闇の掃除人』としても、捕縛して突き出すなどのいつもの行動は、現時点では控える。


 密かに潜入し、危険な物を回収して、これ以上悪さができないようにするのだ。

 ついでに、奴が隠し持っているであろう金銀財宝も押収して、金の力も奪ってやることにしよう。


 あくまで『闇の掃除人』ではなく、普通の泥棒に入られたようにするのがいいだろう。

 ただあまり極端に資金を回収して、奴が全く動けなくなってしてしまうと、『黒の賢者』との接触が滞る可能性があるので、ある程度の金は残しておかなければならないと思っている。

 密かな貯蓄というか、隠し財産を没収するのがベストだ。



 俺は、出迎えてくれたニアに、改めて状況を確認した。


 使われたのは、『マシマグナ第四帝国』時代の『魔導爆弾』という特別な武器だったらしい。


 失われた古代文明の遺物なので、ドラッグン子爵が大量に持っているとも考えにくいが、今後のことも考えて、警戒体制を厳重にしたほうが良いだろう。


 イチョウちゃんの話では、おそらくどこかの遺跡から発掘したものではないかとのことだ。

 もしそうなら……遺跡の情報も得られるかもしれない。

 そういう意味でも、すぐにドラッグン子爵邸に潜入しようと思っている。


 クランの冒険者たちは、ほとんどが出払っていて、まともな戦力として残っていたのは、『魔盾 千手盾』の付喪神のフミナさん、『高速飛行艇 アルシャドウ号』の付喪神のエメラルディアさん、『ホムンクルス』のニコちゃん、そして、たまたま残っていたニア、リリイ、チャッピーだった。


 まぁこれだけの戦力があれば、はっきり言って、騎士団クラスの戦力よりも強いんだけどね。


 だが今回のように、密かに爆弾を置かれるというのは、対処が難しいんだよね。

 正面から攻めてきてくれれば、充分対処できる戦力でも、知らない間に爆弾を置かれるみたいなのは、対処のしようがないんだよね。


 それは、俺がいてもそうなのだ。

 怪しい物を、事前に検知できればいいんだけど、いつもできるとは限らない。


 超魔法AIと言える迷宮管理システムの優秀な検知機能を、アバターボディーを通しても使えたお陰で、今回事前に気づけたわけだ。

 だが、そのイチョウちゃんだって、毎回検知できるかどうかはわからない。


 そう考えると、この『ツリーハウスクラン』内部だけでなく、外部周辺に対しても警戒を広げていかなければいけない。


 まぁその要員としては、ニアの下僕とも言える『飛猿』のヤシチがいるんだけどね。

 常時上空を旋回しながら、警戒してくれているのだ。


 実際、今回も正門前の道に置かれた怪しい荷車を見つけ、ニアに報告をあげてくれたようだからね。


 ヤシチくんは、かなり有能なのだ。


 『ツリーハウスクラン』の敷地の中については、ボタニカルゴーレムがたちが巡回しているので、不法侵入者が来ても、ある程度対処できる。

 だが、今回のように敷地の外に爆弾が設置されると、気づけないのだ。

 だからと言って、ボタニカルゴーレムに敷地の外の道を巡回させるのは、悪目立ちしちゃうのでやりたくないんだよね。


 それに、武器をもって襲ってくるならまだしも、誰かが来て何かを置いて帰るみたいなことに対しては、ボタニカルゴーレムも、対処ができないと思う。


 まぁそういう訓練というか、事態を想定して、イメージして指示を出せば、できるのかもしれないけどね。

 いずれにしろ、かなり複雑なので、すぐにはできそうにない。


 そんなことを考えていると、『ツリーハウスクラン』のシンボルとも言える四体の『デミトレント』たちから、念話が入った。


 大事な話があるので来てほしいと言うのだ。

 そこで、屋敷の正面から見て一番左側……子供たちの『養育館』のある方に生えている『デミトレント』のヒダリーのところに向かった。


 ヒダリーが、一番最初に『デミトレント』に覚醒したこともあり、四体の中でリーダー的なポジションにもなっているのだ。


「マスター、僕たちがこのクランを守るために、やりたいことがあるんだ。そして、僕たちを助けてくれるパートナーが来てくれたんだ!」


 ヒダリーが、突然そんなことを言った。


 そしてその直後……ヒダリーの体というか、幹の真ん中あたりが、うっすらと光りだした。


 助けてくれるパートナーって……?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る