1245.見た目は回復薬、中身は違う?

「お前は誰だ!?」

「あ、こいつは……キング殺し!」

「なに!」

「キング殺し!?」


 ドラッグン子爵子飼いのゴロツキたちのアジトに正面から入った俺に、驚きつつも何か予想していたような雰囲気を見せたゴロツキたちが、改めて俺に誰何してきた。

 そしてこの中にも、やはり俺の存在を知っている者がいた。

 この反応からして……何者かが来ることは予想していたみたいだが、俺が来るとは思っていなかったようだ。

 詳しいことはわからないが、そんな事は俺にとってはどうでもいい。


「『ミトー孤児院』に嫌がらせしていたお前たちの仲間は、俺が拘束して衛兵に突き出した」


「な、なに!?」

「捕まえた?」

「ふ、ふざけんな!」


「ふざけてるのお前たち方だろう。二度と『ミトー孤児院』に手出しはさせない! 俺と『ツリーハウスクラン』が全力で守ることにした。さぁお前たちどうする? お前たちも捕まりたいか?」


「なんだと!」

「ふざけんな!」

「ふん、お前一人で来たのか?」

「俺たちをなめてるのか!?」

「捕まるのはお前の方だ! いや、命を落とすのがな!」

「そうだ! お前は馬鹿だ! いくら『キング殺し』と言えども、この人数相手にして、勝てると思ってんのか!?」

「おおっと、残念だったなぁ。ほんとはもっといるぞ! みんな出てこい!」


 そんな言葉の後には……バタバタと音がして、二階からさらに十数人のゴロツキたちが降りてきた。


 一階のたまり場になっているところに、三十人近いゴロツキが集合してしまったのだ。

 ……本当にむさ苦しい。


 そんな俺のゲンナリした気持ちにお構いなく、皆武器を持って戦闘態勢を取っている。


 まぁ俺としては、ここにまとまってくれて、逆にありがたいけどね。

 片付けるのが楽だからね。


 あっという間に、『状態異常付与』スキルで、眠らせ終わってしまいそうだ。


 普通なら……特に『闇の掃除人』仕様だったら、そうしてしまうところだが……こいつらには、少し痛い目に会ってもらいたい。

 俺の怒りが、まだ収まっていないのだ。

 子供を平気で蹴り飛ばすような奴らには、しっかりお灸をすえてやらないとね。


 ということで、俺はそのまま後ずさり、入り口のドアから外に出た。

 それに釣られるように、奴らも外に出てきた。

 うまく誘き出されてくれた。


 『状態異常付与』スキルを使って無力化するだけなら、狭い室内の方が俺にとってはやりやすかったが、一人ひとりに制裁を加えつつ無力化するには、ある程度の広いほうがやりやすいからね。

 そして、一応正当防衛も演出したいしね。


 実は、このアジトに入る前に、一般の通行人たちを屋敷の前に集めていたのだ。

 目撃者用である。

 『カステラ』の試食をしてほしいと言って、門の前で食べてもらっていたのだ。


 証人の仕込みは済んであるので、後はこいつらが襲ってくるのを、俺が避けながら反撃し、結果として傷を負わせたという形にするだけだ。


 まぁ普通なら、こんな手の込んだことをしなくても、襲ってきた奴を拘束したと言って衛兵に突き出せばいい。

 だが、ここは『コウリュウド王国』ではなく、俺にとってはアウェイの『アルテミナ公国』だ。

 念には念を入れたと言うわけだ。


 もっともアウェイといっても、最近ではアウェイ感はあまり感じなくなってきているけどね。


 だがこいつらは、上級貴族であるドラッグン子爵子飼いの者たちなので、安全策をとるに越した事はないだろう。


 ……よし!

 狙い通り、武器を持って一斉に俺に攻撃を仕掛けてきた。


 俺はその攻撃を避けつつ、肘鉄を食らわせて手にしている武器を奪う。

 返す刀でそいつの膝に蹴りをお見舞いする——


 ——グシャッ


「ギャァァァァ」


 肘鉄で息も絶え絶えなのに、派手な悲鳴をあげた。


 『ミトー孤児院』にいたゴロツキたちと同じように、こいつらも全員膝を砕いてやることにした。


 膝を砕いてしまえば、動くことができなくなるし、相当痛いから制裁にもなる。

 今まで人に与えた痛みをこれで償えるとは思えないが、これぐらいの罰は受けてもらいたい。

 まぁ実際の罰は、衛兵隊で十分に与えてくれると思うが。


 少し面倒くさいが、俺に向かって来るゴロツキたちを、同じような手順で、一人一人倒し、その場に転がしていった。


 用意した目撃者もいるので、チートなスピードで倒すことは控え、普通に乱闘しているような感じで倒していったのだ。

 三十人近くいたから、俺としては面倒くさかったが、見ている人たちにとっては、それでもあっという間に倒してしまったように映っただろう。


 ん、……膝を砕かれた痛みでのたうち回っていたゴロツキたちが、回復薬を飲みだした。

 みんな常備していたようだ。


 もう少し苦痛を味わわせてやりたいところだが……まぁそこまでの意地悪はやめておこう。

 武器は全て没収したし、回復薬を飲んで膝を治したところで、どうすることもできないだろう。

 これから、こいつら全員縄でぐるぐる巻きにする予定だしね。


「ぐあぁぁぁ——」

「ひぃぃぃぃ——」

「うおっ——」

「あぁぁぁぁ——」

「「「おぉぉぉぉ——」」」


 なんだ!?

 ……のん気に構えてしまっていたのが悪かったのか……少し予想外の事態が起きた。


 どうも奴らが飲んだのは、ただの回復薬ではなかったらしい……。

 全員高揚し、顔を真っ赤にして、狂ったような雄叫びを上げた。


 膝が回復しただけではなく、明らかに身体強化されている感じだ。

 パンパンになった四肢から、筋肉量が増えているのがわかる。


 『波動鑑定』をかけてみると……


 ……なんだこれ?


 『状態』表示に、『呪いによる強化状態(狂乱)』と表示されている。


 さっき飲んでいたのは……どう見ても一般に出回っている回復薬の瓶だったが……中身は、特殊な薬だったのか……?



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