1242.高圧的な、営業。

「そうなのですか。……大変申し訳ないのですが、ご希望には添えないかと思います」


 俺は、今後自分から魔法薬を購入しないかと持ちかけてきたドラッグン子爵に対し、即答で断りを入れた。


「なに! 貴様、ドラッグン子爵閣下が好意で申し出ているのに、断ると言うのか!?」


 取り巻きのオベッカ男爵が、顔を真っ赤にして怒っている。


「男爵、まぁ良い。すでに仕入れている先があると言うことなのか?」


 ドラッグン子爵は、騒いでいるオベッカ男爵を制し、冷静に、だが威圧を込めて尋ねてきた。


「はい、お付き合いさせていただいてる魔法道具店もありますし、内部に薬師がおりますので、自分たちが使う分は、基本的には作っています」


 クランメンバーの薬師娘三人組には、冒険者活動の合間に魔法薬を作ってもらっているのだ。


「なに!? 薬師がいるだと。それは『薬師ギルド』には入っているのか?」


 ドラッグン子爵が、渋い顔をしている。

 なんとなく……地雷を踏んだ気もするが……隠してもいずれわかることだから、ここはオープンにしよう。


「いいえ、『薬師ギルド』に入ろうとしたところ、断られたそうです。冒険者活動もしていて、その合間にクランメンバー用の魔法薬を作ってもらっているのです」


「貴様、『薬師ギルド』に入ってない者が、魔法薬を作ってもいいと思っているのか!?」


 オベッカ男爵が、また顔を真っ赤にして騒ぎ立てている。

 この腰巾着め!


「この都市では『薬師ギルド』に入らない者は、魔法薬を販売することができないという話は耳にしています。我々は自分たちで使う分を作っているだけで、外部に販売しているわけではありません。問題はありませんよね?」


「何を言っておるか! 貴様、屁理屈を言いおって!」


 俺が少しイヤミなトーンを乗せてしまったこともあり、オベッカ男爵がまたも激昂している。


「……むぅ……それでは私から購入するつもりは、全くないということだな? それが意味することもわかって、言っているのだな?」


 今度は、ドラッグン子爵が低いトーンで、威圧的に言った。


 こいつ……俺を脅しているのか?


「何かまずいのでしょうか?」


 俺は、敢えて明るく爽やかな顔をつくって、問い返した。


 ドラッグン子爵は、一瞬イラッとした感情を表情に乗せたが、すぐに冷静を取り繕った。


 隣の腰巾着……オベッカ男爵は、相変わらずうるさいけどね。


「ふん、『キング殺し』の評判に免じて、今日のところは黙って帰ろう。だがあまり調子に乗らないことだな。いくら評判になっているからといって、貴公は一介の冒険者で、新参者に過ぎないのだからな」


 ドラッグン子爵は、そんな捨て台詞を吐いて、部屋を出て行った。


 めっちゃ感じ悪いんですけど……。


 ならず者たちを抱えていて、影で悪事を働いているという事だったが、納得の人間性だ。


 またもや『闇の掃除人』出動案件だな。


 本音としては、あまり関わりたくないんだけどね。


 ただ、降りかかる火の粉は、払わないとね。




 ◇




 不愉快な来客ドラッグン子爵と腰巾着のオベッカ男爵が去った後、俺はクランメンバーのハッパさんを呼んだ。


 彼は、セイバーン公爵領で俺が奴隷から救い出した人で、今はクランの情報収集担当になってくれている人だ。


 ハッパさんがリーダーとなって、同じく俺が奴隷から救った人たちと、『影の包囲網』という冒険者パーティーを作っているのだ。

 その九人は、冒険者活動もするが、迷宮都市での情報収集もしてくれる諜報部員的な人たちでもあるのだ。

 今も『黒の賢者』の情報を必死に集めてくれている。


「グリムさん、この前話したドラッグン子爵が来たみたいですね?」


「そうなんです。用件は、回復薬を購入しろという強引な営業だったんですけどね」


「ほほう……このクランの冒険者もかなりの数ですし、賛助会員も含めれば冒険者全体への影響も大きいですからね。

 さっきオークションで紹介した、回復薬をセットして発射する『竹筒水鉄砲』を開発したことも、影響しているかもしれませんね。

 それで、どうされたんですか?」


「もちろん断りました。ただ脅しのようなことを言って帰りましたけどね」


「グリムさんに脅しをかけたんですか!? 

 上級貴族だか何だか知りませんが……ほんとに身の程をわかってない奴ですね。

 ……ぷっ、あ、すみません。ついおかしくなって、笑っちゃいました」


 珍しくいつも真面目なハッパさんが、笑いを堪えられずにそんなことを言った。


 ハッパさんにとっては、それほど滑稽に思えることらしい。


「もちろん脅されても、全く気にしてないんですが……彼らの今後の動向は、少し気になります。申し訳ないんですが、より詳しく調べてもらえませんか?」


「分りました。周辺をもう少し詳細に調べるようにします」


「ありがとうございます。それから……『薬師ギルド』に入っている薬師たちが、どういう状況なのか、『薬師ギルド』に対してどう思っているのか、についても知りたいと思っています」


「わかりました。任せてください。すぐに調べます」


「『影の包囲網』のメンバー九人で足りますか?」


「ええ、大丈夫です。それぞれ伝手もありますから。グリムさんやニア様……クランの評判が良いおかげで、協力者も多いんですよ」


「そうですか、ではお願いします」


 俺は、ドラッグン子爵が牛耳っているという『薬師ギルド』について、詳しい状況を確認したいのだ。

 特にそこに所属している一般の薬師たちが、どんな状況なのかには興味がある。

 というか、あいつが牛耳っている組織に属しているというだけで……結構大変な思いをしているんじゃないかと思うんだよね。

 『薬師ギルド』の幹部スタッフや一部の力のある薬師はいいかもしれないが、末端の薬師は結構嫌な思いをしているんじゃないかと思う。


 見えないSOSが出ているような……まぁ気のせいかもしれないが。


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