1243.地上げに来た、チンピラ。
望まぬ来客……ドラッグン子爵とオベッカ男爵が帰った後、クランの諜報部員とも言える『影の包囲網』のハッパさんを呼んで、ドラッグン子爵の周辺と彼が牛耳る『薬師ギルド』についての調査を依頼した。
それに関連して、もう一つ気になることがある。
それは……『冒険者ギルド』の近くにある『ミトー孤児院』だ。
立地の良さをドラッグン子爵に目をつけられ、手下のチンピラに地上げのようなことをされているのだ。
今からお邪魔して、改めて状況を確認しようと思う。
◇
「まぁグリムさん、いらっしゃい」
いつものように、おばちゃん院長先生が優しく出迎えてくれた。
子供たちも集まって来た。
俺がお土産のカステラを取り出すと、子供たちから歓声が上がった。
お礼にバナナ餅をいただきながら、庭のテーブルで話をさせてもらった。
「確かに、ここを売れとしつこく言われています。でも大丈夫ですよ、売る気はないから。よく冒険者の人たちも来てくれるから、大した乱暴はされてないし、この前なんかスライムちゃんが助けてくれたんですよ。グリムさんのお仲間でしょ?」
「はい。無事で、よかったです」
地上げの話を聞いてから、スライムたちの巡回も強化しているし、ニアの残念親衛隊にも声をかけて、なるべく顔を出すようにしてもらっているのが、功を奏しているようだ。
でも今の感じからして……迷惑行為を受けているのは、確実だ。
これ以上は、ほっとけないな。
まずはチンピラ組織を壊滅させてしまうか。
ただどうせなら……大きな悪事の証拠をつかんで、ドラッグン子爵との繋がりも押さえて、根こそぎ退治したいんだが。
まぁいつものように、『闇の掃除人』としてチンピラたちの拠点に侵入すれば、何かしらの証拠がつかめるだろう。
ただチンピラたちは、字の読み書きができない可能性が高いから、書類的な証拠は少ないかもしれないけどね。
「また変な人たち来た……」
女の子が泣きながら走って来た。
振り返ると……孤児院の門のところに、ガラの悪い男たちがいた。
また地上げに来たのか?
子供たちが怖がっている……こいつら、やっぱり許せない。
ここにいる奴らだけでも、捕まえてしまおう。
「私に任せてください」
俺はそう言って席を立ち、チンピラたちのところに向かった。
「何しに来たんだ!? ここはお前らの来る所じゃない! 帰れ!」
おっと、俺より先にチンピラに立ち向かったのは、ゴヤくんだ。
迷宮入口のギルド受付で、掲示板の読み上げ係りをしている少年だ。
ちょうど今、迷宮から帰ってきたところみたいだ。
「なんだ! クソガキが! 邪魔だ、どけ!」
——ドズ
なんと、いきなりゴヤくんを蹴り飛ばした!
コノヤロウ!
怒りの感情が湧いた次の瞬間、俺は駆け寄りゴヤくんを蹴り飛ばしたチンピラの膝を蹴っていた。
チンピラは、くるっと空中で一回転し、地面に倒れている。
左膝が反対方向に曲がっている。
ちぎれそうな感じだ。
怒りで、力の調整が少し甘くなってしまった。
怒りの感情ですぐ動いてしまったが、攻撃を加える瞬間、冷静さを取り戻し、加減したつもりだったんだけどね。
『限界突破ステータス』の俺は、感情的になりつつも、同時に冷静さも取り戻せるので、殺さない程度の攻撃にしたはずだったのだが……。
まぁでも、死なない程度の攻撃には違いないからいいだろう。足もギリギリちぎれていないし。
チンピラは、悶絶している。
「なんだお前は!」
残りの男たちが、怒鳴り声をあげ、俺を取り囲んだ。
「待て、やばい、あいつは『キング殺し』だ!」
チンピラの一人が、俺に気づき、襲いかかろうとする仲間たちを止めた。
だがもう遅い。
ほとんどのチンピラが動き出しているし、俺も止める気はない。
「先に手を出したのは、そっちだからな。悪く思うな!」
俺は、その場にいた全員の膝を折った。
回復薬をかければ、すぐに治るが、あえて放置している。
子供に手を出した奴の罰には、これでもぬるいくらいだ。
全員悶絶しているが……しばらくは、痛みを味わった方がいいだろう。
回復薬を使って直すかどうかは、衛兵の判断に任せることにする。
「ゴヤくん、大丈夫かい?」
お腹を蹴られ、うずくまっているゴヤ君に声をかける。
「……うん、グリムさん、ありがとう」
俺は、ゴヤくんに回復薬を飲ませてあげた。
内臓損傷にまでは至っていないと思うが……念のため飲んでもらったのだ。
ちょうど近くに来ていたニアの残念親衛隊の冒険者に、衛兵を呼びに行ってもらった。
そしてバナナ餅を買うために来ていた人たちに、証人になってもらうために、残ってもらうことにした。
残ってもらうお礼に、カステラをあげたので、みんな大喜びで残ってくれたのだ。
……少しして、衛兵がやって来た。
俺は、ことの顛末を説明し、子供たちを守るために制圧したことを告げた。
チンピラたちは、俺に一方的にやられたみたいなことを言っていたが、先に手を出したのはチンピラたちで、それを目撃していた人たちが、ちゃんと証言してくれたので、大丈夫だった。
チンピラたちは、衛兵が持ってきた荷馬車に乗せられ連行されていった。
俺は、衛兵が来るまでの間に、悶絶しているチンピラから、アジトの場所を聞き出していたので、『闇の掃除人』として出動しようと思っている。
ちなみに誰の差金かと問い正したら、あっさりドラッグン子爵と答えていた。
まぁ正式にここを買い取って、商館を作るつもりでいるんだろうから、隠すつもりはないようだ。
ただおそらくこのチンピラの迷惑行為については、勝手にやったことだと突っぱねるだろうけどね。
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