1241.予期せぬ、来客。

 公開オークションが終わり、俺は落札品を受け取って、『ツリーハウスクラン』に戻って来た。


 早速、落札した呪われた武器『炎獄の鉈』の呪いの除去を、『水使い』のアクアリアさんに頼んだ。


 呪いを解くことによって、『魔法の武器マジックウェポン』としての機能までなくなってしまうかどうかがポイントであるが、アクアリアさんには明確な判断はできないとのことだ。


 まぁそりゃそうだよね。

 ただなんとなく感覚的に、大丈夫ではないかという意見だったので、思い切って解呪してもらうことにした。


 アクアリアさんの前に鉈を置くと、彼女は目を閉じて精神を集中した。


「……清めの雨!」


 彼女がそう言って、天を指差し円を描くと、そこから鉈に向けて、光る水滴が雨のように降り注いだ。


 なんとなくだが……うまくいったような感じがする。


 『波動鑑定』をしてみると……よし! うまくいったようだ。

 呪い状態が消えている。

 そして『魔法の武器マジックウェポン』としての機能も、維持したままだ。

 火傷の呪いと鉈の炎を纏う機能は、密接に繋がっていたわけではなかったらしい。


 この武器は、チャッピーに使わせてあげようと思っているので、実際にチャッピーに炎を出してもらうことにした。


「ありがとなの〜。チャッピー頑張るなの〜。やってみるなの〜。……燃え上がれ、炎獄!」


 チャッピーが発動真言コマンドワードを唱えると、握られた鉈が炎に包まれれた。

 刀身に赤い炎が絡み付いている感じだ。


 チャッピーが空に向かって、鉈を一閃した。

 すると、炎の斬撃が天高く放たれた。


 なんと炎の斬撃波が出せるようだ。


 これはかなりいい武器だ。

 鉈としては少し大きめだが、ショートソードくらいのサイズしかないので、接近戦が得意でかつ体術が得意なチャッピーの武器としては、相性が良いはずだ。

 一番いいのは、武闘家が使うような攻撃用の小手やグローブかもしれないけどね。


 それからもう一つ競り落とした『魔法の武器マジックウェポン』の『魔鎌 鎌斬カマキリ』は、リリイに使わせることにした。

 リリイが使うにはかなり大きな武器になるが、ジャックランタンとの大鎌コンビが見たいという思いを優先させてしまったのだ。

 リリイなら十分使いこなせるだろうしね。


 この鎌は、魔力を流すことによって長く大きくすることができるので、巨大な魔物と戦う時にも便利だと思うんだよね。


 これも実際にリリイに渡して、使わせてみた。


「ありがとなのだ! これでおっきい魔物もチョッキンできるのだ!」


 リリイはそう言いながら、嬉しそうに鎌を受け取った。

 今までは、ハンマーで魔物をゴッチンしていたわけだが、今後は、鎌でチョッキンするつもりらしい……。

 微妙に怖い発言な気がするが……まぁいいだろう。


 リリイは、早速魔力を流し、長く伸ばした。

 柄が長く伸びるだけでなく、鎌の部分も巨大にできるようだ。


 大きくしても重くなるわけでは無いらしく、リリイは普通に持てている。


 まぁリリイのレベルがあるから、難なく持てるのかもしれないけどね。


 そしてリリイは……やはり天才だった。


 なんと大きな鎌を、リリイが使いやすい程度に逆に縮めてしまったのだ。

 魔力を通すと伸ばすことができるという機能だったと思うんだけど、縮めることもできたらしい。


 というか、俺が使っていたら縮めようとは思わなかったと思うので、リリイの自由な発想のなせる技だったと思う。



 それからオークションでの告知が有効だったらしく、『竹筒水鉄砲』を買い求める冒険者が、かなり来ている。


 さっきオークションで告知したばかりで、まだ販売窓口をちゃんと作っていなかった。

 ちょっとした混乱状態だ。


 そんな慌ただしい中、クランの正門に豪華な馬車が止まった。


 見覚えのない馬車だ。


 降りてきたのは……貴族っぽい服装の男性二人だ。


 なんとなく嫌な予感がする。


 俺は、自分から近づいていった。


「いらっしゃいませ。何か御用でしょうか?」


「君はシンオベロン卿だな。私は、この迷宮都市で『健康衛生市政官』をしているドラッグン子爵と申す。貴公と少し話があって来たのだ」


 背の高い方の男性が、俺を見据えながらそんな挨拶をした。


 ドラッグン子爵……?

 なんとなく聞き覚えが……そうだ! 確か『薬師ギルド』を牛耳っているという貴族だ。

 手下を使って、『ミトー孤児院』に地上げのようなことをしているという報告を受けた貴族だ。


 関わりたくない貴族であることは間違いないが、向こうから来たのはどうしてだろう?

 面倒くさい予感しかしないが……。


 俺は作り笑顔で、『クラン本館』の応接室に案内した。


 ちなみにもう一人の小太りの男性は、ドラッグン子爵の腰巾着のような貴族だった。

 オベッカ男爵と名乗っていた。

 名前とポジションが絶妙に合っていて……笑いをこらえるのが大変だった。


「貴公のクランは、かなりの冒険者を抱えているようだなぁ」


 ドラッグン子爵が、話を切り出した。


「はい。おかげさまで……」


「かなりの回復薬が必要であろう。今後、回復薬の調達を私のところに任せるなら、値引きなどの便宜を図ろうと思っているのだが……どうだ?」


 単刀直入に切り出された話に、俺は少し驚いた。

 なんと営業だった。


「あの……閣下は健康衛生市政官をされているとのことでしたが、魔法薬の販売も直接行っているのですか?」


「ああ、ちょうど商会を作ったところだ。これから本格的に販売をするつもりだ。

 最近は冒険者の数も減り、薬師たちが困っておるからのう。

 販売は、『薬師ギルド』が一括で行っているのだが、既存販売店である魔法道具屋なども数が減っておる。大きな店を作って、まとめて売れる体制を作ってやるつもりなのだ」


 言ってることだけ聞くと、薬師たちのためにやっているって感じだけど……評判を聞く限り、自分が儲けたいだけだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る