1217.素朴な味の、バナナ餅。

 ギルドの帰りに、近くの『ミトー孤児院』に立ち寄った。


 迷宮に入ったので、魔物肉のおすそ分けをする為だ。


 と言っても、今日狩った魔物は食べやすい感じではないので、『波動収納』にしまってある猪魔物の肉をあげようと思っている。


 朝、クエスト情報を教えてくれたゴヤくんが戻っていた。


「グリムさん。おかえりなさーい。今日はどうだった?」


「君に教えてもらった魔物を見つけることができたよ」


「ほんとに! また見つけたの! やっぱグリムさんすごいや! どうやったら、そんなに狙った魔物を見つけられるの?」


「……頑張って探したんだよ」


 俺は、笑って誤魔化した。


「あらまぁ、グリムさん、いらっしゃい」


 おばあちゃん院長先生がそう言いながら、歩み寄って来た。


「どうも、こんにちは。迷宮に行った帰りなんです。よろしければ、魔物肉を差し入れしたいんですけど……」


「まぁまぁ、それはどうもありがとうございます。でもいいんですよ、そんなに気遣っていただかなくても」


「いえ、迷惑でなければ、もらってください」


「じゃぁせっかくですから、いただきますね。でも最近は、お肉を持ってきてくれる冒険者さんが増えて、大忙しなんですよ。腐らせないために、干し肉にしてるの。そのぐらいいっぱいなんですよ」


 院長先生がそう言って、ニッコリと微笑んだ。


「そうだったんですか」


「ニア様の指示を受けたという冒険者の皆さんが、時々この周りを巡回してくれているんです。その時、お肉や食べ物なんかを差し入れしてくれるんですよ。ニア様、ありがとうございます」


 院長先生はそう言いながら、ニアに頭を下げた。


「あぁいいの、いいの。あいつらも毎日迷宮に行ってるわけじゃないから、暇なときでいいから、怪しい人がいないか見回りしてって言っておいたのよ。差し入れは強要してないけど……あいつら、なかなか気が利くわね」


 ニアは、少し照れ臭そうに、少し誇らしそうに言った。


 ニアの『残念親衛隊』に対して、密かな指令を出していたらしい。


「グリムさん、これ持っていってください」


 走りながら若い女性のスタッフが、折箱を持ってきた。


 この前『ポテトチップス』をあげたときに渡した竹プラスチックの折箱だ。


 ……中に何か入っている。


「あぁそうね。この前いただいた『三日月バナナ』で『バナナ餅』を作ったの。よかったら食べて。いっぱいあるから、持って帰って」


 院長先生がそう言って、折箱に入っているお餅を指差した。


 せっかくなので、いただくことにした。


 ……うん、甘くて美味しい!


 お餅というほどのモチモチ感はないが……焼いてあって、香ばしさと甘さがたまらない。

 たぶん……ペースト状にしたものに砂糖を混ぜて、油で焼いただけだと思うけど、素朴な味で、すごく美味しいのだ。


「美味しいですね。この味すごく好きです」


「それはよかったわ。昔はよく食べていたのよ」


 院長先生が、優しいいい笑顔をしている。


 リリイとチャッピーも気に入ったようで、バクバク食べている。

 もちろんニアさんもだ。

 顔が油でべとべとになっているけど……残念。


「これ……販売したら、結構売れるんじゃないですか?」


 俺は、思わずそんな提案をしてしまった。

 美味しさに感動し、つい言葉が出てしまったんだよね。


「そうかしらねぇ……。売れるかしら……?」


 院長先生が、楽しそうに微笑んだ。


 まぁ実際販売するとなったら、人手の問題が大変かもしれないけどね。


 ……作る人手さえ何とかなれば、販売は年嵩の子供たちで、できると思うんだよね。


「例えば……毎日午前中一時間だけとか、百個限定とかで販売するっていうのはどうですか? 孤児院の入口のそばに販売用の屋台を置いて、年嵩の子供たちで運営するというのはどうでしょう?」


 俺は、さらに突っ込んだ提案をしてみた。


「そうねぇ……百ぐらいなら、私たちで作れるわね……ただ材料が……」


「それは大丈夫です。『三日月バナナ』を定期的にお届けしますよ」


「ほんとですか。貴重なものを、ありがとうございます。じゃぁ試しにやってみようかしら」


 院長先生が、また楽しそうに微笑んだ。


「じゃぁ販売用の屋台は、今作っちゃいますよ」


 俺も乗ってきちゃって、そんな申し出をした。


 調理自体は、孤児院の調理場でやれば良いので、商品を並べる台と日よけの屋根があればいい。


 板材も『波動収納』に入っているから、簡単に作れてしまうのだ。


 まぁもっと言えば……『波動収納』には『フェアリー商会』で使っている本格的な屋台も入っているが……それをプレゼントすると恐縮されそうなので、この場で作ることにした。


 ものづくりって楽しいしね。


「まぁ屋台を作ってくれるの? そこまでしてもらって……」


「やりたくてやるので、遠慮しないでください」


 俺はそう言って、屋台を作りつつ、大きな板を出して、子供たちに看板作りを任せた。


 年嵩の子が中心となって、デザインを決めている。

 色塗りもやってもらおう。



 少しして、屋台と看板が出来上がった。


 子供たちの協議の結果、イメージカラーは黄色になり、屋台は黄色で塗り上げた。

 もちろん、子供たちにも手伝ってもらった。


 そして屋台の屋根の部分には、バナナをデザインしたオブジェをつけた。


 子供たちが作った看板は、『懐かしの味 バナナ餅 おいしいよ! 〜ミトー直売店〜』となっていた。

 なんか子供らしい看板で、ほのぼのとしていい感じだ。


 そんなこんなで楽しい時間を過ごした俺たちは、何度もお礼をいう院長先生たちに恐縮しながら、『ミトー孤児院』を後にした。


 『バナナ餅』をお土産にもらったので、クランに戻ったら、最初に『三日月バナナ』の情報を教えてくれた農家のおじいさんバナボさんに食べさせてあげよう。

 きっと懐かしいと言って、喜ぶに違いない。


 クランメンバーになったバナボさんは、引っ越してきて『ツリーハウス屋敷』に住んでいるのだが、知り合いのおじいさんがよく訪ねて来ている。

 子供たちとも遊んでくれるし、バナボさんと一緒に木工細工を教えてくれたりして、助かっているのだ。

 なんとなく……お年寄りの憩いの場にもなりつつある感じだ。


 それからバナボさんの知り合いで、『三日月バナナ』が欲しいと言う人たちが、何人か来たようだ。

 事前に言われていたので、販売用の『三日月バナナ』をクランの倉庫に置いてあるのだ。

 その中から販売してくれている。


 みんな昔やっていたバナナボートレース大会をやりたいと言っていたそうなので、ムーンリバー伯爵が計画してくれる復活ボートレース大会の情報がリリースされたら、きっと大喜びするに違いない。


 そうだ!

 『ミトー孤児院』で、『バナナ餅』を販売するという話をしたら、バナボさんの知り合いの人たちは、みんな買いに行くんじゃないだろうか!


 それだけで、毎日完売かもしれない。


 クランに戻ったらば、バナボさんに言って、宣伝してもらおう。


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