1216.多発している、魔物の集団化。

「グリムさん、やっぱりこちらにいらしたんですね?」


 そう言って俺に声をかけてきたのは、俺担当の綺麗可愛い受付嬢、狐亜人のリホリンちゃんだ。

 何か用事があるらしい。

 ちょうど買取センターを出て、帰るところだったので、すれ違いにならなくてよかった。


「どうしました? 何かありました?」


「はい、死にかけていた冒険者パーティーを助けてくれたそうですね?」


 おっと、その件か……もうリホリンちゃんの耳にも入ったようだ。


 だが、この買取センターには当のそのパーティーがいるから……微妙に気まずそうな顔をしている。


 それにリホリンちゃんも気づいたようで、一瞬ハッとした表情になった後、笑顔で会釈していた。


「あちらの皆さんから報告を受けたんですけど、グリムさんにも確認したいことがいくつかあるんです。もしお時間があれば、詳しく聞かせてもらっていいですか?」


「はい、いいですよ」


「ありがとうございます。ではギルド長室にお願いします」


 リホリンちゃんはそう言って、俺たちを手で誘導した。


 この場で説明すればいいのかと思ったが、なぜかギルド長室に来て欲しいと言う。


 何か大事になっているのかな……?

 まぁとにかく行ってみるしかないね。



 ギルド長室に入ると……


「今帰って来たようじゃの。冒険者を救ってくれたと聞いた。礼を言う」


「たまたま近くにいたものですから」


「それで、カエル魔物が集団で襲っていたということじゃな?」


「はい、そうです。あんなに多くの集団で襲いかかってくることは、頻繁にあることなんでしょうか?」


「いや、正しく問題はそこなのじゃよ。頻繁に起こることではないのじゃ。それが今日確認されているだけで、四カ所で起きているのじゃ」


「四カ所もですか?」


「そうじゃ、『エリアマスター』討伐の為に今朝出発した『一撃クラン』の連中も、その道中で魔物の集団に襲われてのう。もちろん序盤だから、やられることはなかったのじゃが、時間を取られたし、物資も消耗してしまったようじゃ」


「そうだったんですか……」


「ナナヨくん達ギルドの調査部門のスタッフに、状況確認の為ついて行ってもらったのじゃが、そんな報告が上がってきたのじゃ」


「そうだったんですか……。じゃぁ残りの三カ所というのは『一撃クラン』の皆さんの行程に出たということですか?」


「そうじゃ。この頻発は、まさに異常な事態と言える。一歩間違えば……『連鎖暴走スタンピード』に発展するからのう」


「過去にも例はないんでしょうか?」


「それも改めてあたるところじゃ。ただここのところの、この迷宮の騒がしさ……やはり何か大きな時代の渦が影響してるのかもしれんのう」


「『一撃クラン』の皆さんは、大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫なようじゃが……この分だと、『エリアマスター』に到達するのは、予定よりも遅くなるじゃろう。物資も下手をすれば、不足する可能性もあるしのう」


「そうですか……」


「ところで……カエル魔物が集団で襲っていたフロアで、何か気になる事はなかったかね?」


「そうですね……我々は迷宮に入ったことが少ないので、普段と比べてみたいな話はできないですけど、特に変わった感じも、見受けられなかったですね……」


「そうか……何か嫌な感じがするのう……」


「迷宮で大規模な『連鎖暴走スタンピード』が起きる予兆とか……そんな可能性もあるんでしょうか?」


「ないとは言えんのう。まぁ迷宮の事は、わかっておらんことの方が多いからのう。

 対策の打ちようもないのじゃが……。

 今、ギルドスタッフに指示して、受付に来る冒険者に、いつもと変わったことがなかったか、聞き取りをしているところじゃよ」


「そうなんですか」


「気がかりなのは……『一撃クラン』の連中じゃな。この状況で……『エリアマスター』を無事に攻略できれば良いのじゃが……」


「実は、『一撃クラン』のレオニールさんに、三日後がおそらく『エリアマスター』戦だから、見に来ないかと誘われたんです。

 私も一度見ておきたいので、行こうかと思っていたところです。補給物資も一緒に持っていこうと思っています」


「おお、それは助かるのじゃ。お主が行ってくれるなら、不測の事態があっても安心できるわい」


 ギルド長が、安堵の表情になった。


「じゃが……おそらく、この感じでは四日後になるじゃろう。四日後の朝に、万全の態勢で『サブマスター』に戦いを挑むということになるじゃろうのう。

 『サブマスター』を倒せれば、そのフロアはしばらく魔物は発生しないから、場合によっては一日そこで休んで、翌日に『エリアマスター』に挑むことになるやもしれんのう」


「そうなんですね。それでは四日後の朝に着けるように、行ってこようと思います」


 俺がそう言うと、ギルド長は、笑顔で頷いた。



 ギルド長室を出る前に、摘発された私立の孤児院を『ツリーハウスクラン』のメンバーとして迎え入れ、事実上、俺が運営するという話をした。


 今朝ギルド長と話をしたときに、話し忘れちゃってたんだよね。


 なぜ話したのかと言えば、ギルド長の意見を聞くためだ。


 冒険者を引退して、孤児院を開きたいというような人たちがいるかどうか、聞きたかったのだ。


「うむ、それはいるかもしれんのう。引退して飲食店でもやろうかという冒険者は多いが、孤児の面倒を見て残りの人生を過ごしたいという者もおるじゃろう。

 独身の冒険者も多いし、子供好きな冒険者もおるからのう。ギルドの掲示板に、募集の張り紙をしてやろう」


 ギルド長が、協力してくれるようだ。


「よろしいのですか?」


「クランのメンバーを募集するのと一緒じゃろう。別に問題はないのじゃ」


「それはありがたいです。ぜひお願いします」


 リホリンちゃんが、すぐに張り出しの手配をしてくれることになった。


 助かった。ほんとにありがたい。



 ギルド長室を出て、一階のギルド酒場に降りると、なぜかそこにいた冒険者たちから、「ごちそうさまです」という声をかけられた。


 特にご馳走した覚えはないんだけど……。


 話を聞くと……迷宮で助けた冒険者たちが、俺のおごりだと言って、ここにいる人たちに酒を振る舞ったらしい。


 俺が魔物を売却した代金を受け取らなかったので、その分をここの人たちに奢ったみたいだ。


 律儀な人たちだ。


 知らない間に、俺たちがめちゃめちゃ感謝されている状態になっている。


 彼らに礼を言おうと思ったが、既にここにはいなかった。

 最初は一緒に飲んでいたみたいだが、用があると言って出て行ったらしい。


 上機嫌の冒険者たちに、一緒に一杯やらないかと誘われたが、この後寄りたいところがあったので、また今度ということにして、帰らせてもらった。


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