1208.迷宮、中層へ。
俺たちはスターティングサークルを出て、『南エリア』へ向かう通路に入った。
今回は、中層へ向かう道にたどり着くために、最短ルートを行く予定だ。
地図売りのイグジーくんから買い上げた『南エリア』の前半・中盤・後半の地図を総合し、最短ルートを割り出したのだ。
これは、『エリアマスター』にたどり着く最短ルートでもある。
『エリアマスター』……正確には『サブマスター』のフロアに入る手前に、中層に通じる道があるのだ。
最初の三又の分岐に来た。
前回は左側のルートを進んで、帰りに中央のルートで戻ってきたわけだが、今回は初めから中央のルートで進む。
最短ルートだからだ。
地図が正確ならば、このルートを進み三十二個のフロアを抜けると、中層に行く分岐の道が現れる。
すごい数のフロアを通らなければいけないので、まともに進んだのでは、夕方までに中層への分岐にたどり着く事は不可能だろう。
普通の冒険者なら、三日程度かかる行程だからね。
だから、各フロアを最短で駆け抜けて、目的を達成してしまおうと思っている。
当然襲ってくる魔物は、倒さないといけないわけだが、できるだけ魔物を避けながら、通り抜けようと思っているのだ。
帰りの行程で、レア魔物を倒すとか、レアな薬草を探すとか、できる範囲でやればいいだろう。
メンバーは、俺とニア、リリイ、チャッピーなので、『共有スキル』にセットしてある『飛行』スキルを使って、最短で各フロアを抜けるつもりだ。
まぁニアは、もともと飛べるけどね。
人気のない『南エリア』なので、序盤のいくつかのフロアを過ぎれば、ほぼ冒険者に会う事はないだろう。
序盤の五フロアくらいを抜けたら、飛行して移動しようと思っている。
序盤の三つ目のフロアですでに、他の冒険者はいなかったが……念のため四つ目のフロアにも、普通に入ることにした。
そしてそれは、正解だった。
なんと先に来ている冒険者がいたのだ。
しかも一人だ。
そして見覚えがある。
あの子は……前にギルドの受付で、おかっぱのカッパードに絡まれていた新人冒険者の女の子だ。
衛兵隊の収監施設で『ドクロベルクラン』の幹部トヤッキーとボンズラーが『
出会ったのは三回目だ。
迷宮内で冒険者同士が交流するのは、慎重を期すべきだが……彼女も俺たちの事は、覚えているだろう。
それに比較的入り口付近にいたので、俺たちが入って来たことにも気づいたようだ。
こっちを見ている。
「やぁ、また会いましたね」
俺は自然な感じで声をかける。
「どうも」
少しそっけない感じだが、会釈をしてくれた。
やはり彼女は、おとなしい感じの子のようだ。
「一人で迷宮に挑んでるんですか? すごいですね」
「はい、一人の方が気が楽なので……」
彼女は微妙に苦笑いしている。
そういえば前にニアがクランに勧誘したけど、しばらくは一人で活動したいと言われ、断られちゃったんだよね。
それにしても、序盤とは言え一人で四フロアも進むなんて、すごいな。
「回復薬は足りてる?」
「はい、大丈夫です。お気遣いなく」
「それじゃあ、俺たちは先を急ぐから」
「はい、お気をつけて」
あまり長く話しても迷惑だと思ったので、俺たちは先に進ませてもらった。
チラッと見たが、魔法銃を持っていた。
彼女は、ソロで魔法銃を使って戦っているようだ。
確かに魔法銃なら、ある程度のレベルまでは、単独で戦っていけるかもね。
敵が近づく前に、倒してしまえばいいから。
まぁ魔法銃の威力と腕前によるだろうけど。
大きなお世話ではあるが……やはり一人で戦っているのは、心配だけどね。
五つ目のフロアに入って、冒険者がいないことを確認したので、ここからは『飛行』スキルを使って、高速で目的地まで移動することにする。
三十二個目のフロアを通過し、目的の場所へと着いた。
『飛行』スキルで飛んで移動したので、ほぼ戦闘なしでここまで来ることができた。
たまに飛行型の魔物が襲ってきたが、瞬殺で片付け『波動収納』に回収した。
道が三又に分かれている。
地図では、サブマスターが待ち受けるフロアに行くメインの道と、左に抜ける道があって、そこが中層に繋がる道になっていた。
だがこの地図には載っていない右側の通路もある。
興味をそそられるが、今は一旦無視しよう。
地図を信じて、左の道へ入る。
……しばらく進んでいくと、大きな広場に出た。
まるで上層の始まりにあるスターティングサークルのようだ。
おそらく同じような作りになっているのだろう。
ここは、中層のスターティングサークルとも言うべき場所のようだ。
普通に考えれば、上層のスターティングサークルとは全く違う方位にあるのではないかと思うが、迷宮はアリの巣構造で入り組んでいるので、意外に近い位置なのかもしれない。
接続している道が、全部で八つある。
そのうちの四つは、東西南北のエリアに進む道と思われる。
残りの四つは、俺が来た通路のように上層の東西南北のエリアに通じているのだろう。
ここから中層の東西南北の各エリアに行けるし、上層の東西南北のエリアにも登れるという作りのようだ。
まるで迷宮のジャンクションだな。
この中層のスターティングサークルは、上層の二倍くらいの面積があると思う。
とにかく広い。
草原になっていて、迷宮の中であるにもかかわらず、明るい空間だ。
迷宮の中の通路は、大体薄暗い感じになっている。
各フロアは、薄暗いフロアだったり、それなりの明るさだったり、外と同様に昼明るかったり夜暗かったりなど、フロアによって様々なのだ。
おそらく中層も、そんな感じなのだろう。
俺は、一番近い通路の『南エリア』に入る通路を選んだ。
通路を下り、しばらく進むと、三又の分岐が現れた。
上層と同じ感じだ。
なんとなく、左側の通路を入ってみた。
……草原のエリアで……特に水辺がある感じではない。
中層の『南エリア』は、上層と違って水辺が多いエリアというわけではないのかもしれない。
とりあえず、ここを転移先として登録しておくか。
序盤の最初のフロアとは言え、中層に来る冒険者なんてほとんどいないはずだから、転移でここに現れても、見られる心配はほとんどないだろう。
そうこうしているうちに、俺たちの気配に気づいた魔物が、早速襲って来た。
襲ってきたのは、狼魔物の群れだ。
だが今までに見た狼の魔物とは、違う種類のようだ。
額に長いドリルのような角がついている。
『波動鑑定』によれば『種族』が『イビル・ホーンウルフ』となっている。
角狼魔物とでも呼ぶことにしよう。
レベルは40だ。
さすが中層だけあって、序盤というか、最初のフロアからレベル40の魔物の登場だ。
しかもそれが、二十体群れで襲って来てるんだけど……。
これ……トップランカーの冒険者でも、レベル40の魔物が二十体まとめて来たら、結構大変だと思うんですけど……。
なんとなく中層って……無理ゲーっぽい感じだ。
この角狼魔物たちは、このフロアのボス的な魔物たちだと思う。
そんな考えをめぐらせている間に、魔物たちが近づいていたが、俺の出る幕はなさそうだ。
ニア、リリイ、チャッピーがすでに迎撃しているからね。
俺たちにとっては、二十体程度の魔物は大した敵ではないのだ。
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