1207.奴隷となって働く、おかっぱたち。

「グリムさん、迷宮に入るんですね!?」


 『エリアマスター』に挑む『強き一撃クラン』の見送りを終え、いよいよ『南エリア』に向かう通路に入ろうと思っていた俺たちに、副ギルド長のハートリエルさんが声をかけてきた。


 彼女は、冒険者時代にはソロで迷宮に挑んでいて、周りの人に『狂気のハートリエル』という二つ名で呼ばれていた人だ。だが、俺的には……『ツンデレのハートリエル』という感じだ……。

 そんな事はどうでもいいが。

 やばい……やはり最近のツンデレ攻撃がボディーブローのように効いているようだ。


 彼女が、スターティングサークルにいるのは、珍しいと思うのだが……。

 彼女も『強き一撃クラン』の人たちを見送りに来たのかな……?


 というか……さっきから気になるのは、彼女の後ろに、おかっぱ頭の男たちがいることだ。


 奴らは間違いなく、あの『ドクロベルクラン』に所属していた迷惑なおかっぱ集団だ。

 紫おかっぱのカッパードとその仲間たちは、確か…… 『刈髪怒奇頭カッパドキア』とか言う、ふざけた名前のパーティーだった。

 今日も、黄色、黄緑色、ピンク、青色、銀色と色とりどりだ。


 俺はハートリエルさんに、これから迷宮に入ることを告げ、今日は中層へも踏み入れることを伝えた。


 ただ中層へ行く話は、念話に切り替えて伝えたけどね。

 おかっぱたちに聞かれちゃう可能性があるから。


「あなた……には心配は要らないと思いますけど……どんな魔物を倒してくるか楽しみです……」


 ハートリエルさんは、ツンとした感じで言っているのだが……なんとなくニマッとするのを必死で押し殺している感じだ。

 あなたと言った後に、うつむいて少し間があったんだよね……。


「ねぇねぇ、このおかっぱたち、どうしたの?」


 やはりニアは、おかっぱたちが気になるようで、ワクワクした感じでハートリエルさんに尋ねた。


 なんでこの人……おかっぱたちを見て、ワクワクしてるのよ……?

 きっと何か……理不尽なことしようと思ってるよね?

 まぁいいけどさ。


 ニアが、カッパードの目の前で静止しているが……カッパードを始めおかっぱたちは、全員ニアから目を背けている。


 まぁもともと、ハートリエルさんからも、距離を置いて俯いて目を合わせないようにしている感じだけどね。


 こいつらは、何度もハートリエルさんに厳しく注意をされていたみたいで、元々因縁があるみたいだったからね。


「この者たちは、予定通り犯罪奴隷として、『冒険者ギルド』の支配下に入ったんです。

 一応Dランクだったから、強い者が主人になった方が良いだろうのことで、私の奴隷にされてしまったのです。この者たちへの罰という意味でも、私がこき使うのがいいだろうと判断されたんです」


 ハートリエルさんは迷惑そうな感じで話していたが、最後にはまるでニアのように悪い笑みを浮かべた。


 なにそれ!?

 ハートリエルさんも、悪い笑みを浮かべるんだ……。


 なんか斬新というか……新鮮すぎて……逆にちょっとドキッとしちゃったんだけど。

 真面目で冷徹な感じからのニマッとするツンデレにやられていたんだけど……こんな悪い笑みまで浮かべるなんて……いろんなギャップがありすぎる。


 悪い笑みは、普及しちゃいけないと思うけど……。

 ニアさんだけで充分なんですけど。


 いや既に……悪い笑みを浮かべるメンバーは、何人もいるな。

 既に広く普及している感じだ……。

 まぁそんなことはどうでもいいが。


 ハートリエルさんの話によれば、今日はおかっぱたちをスターティングサークルに連れて来て、全体の清掃や物売りたちの整理をさせているとのことだ。


「ちょっとおかっぱ頭、ちゃんと心を入れ替えて、真面目に働きなさいよ!」


「わ、わかってる、ますよ……」


 カッパードは、小さな声でそう言った。

 顔をニアから背けている。


 見ているこっちが切なくなるくらい、惨めな感じになっちゃってる。

 まぁ自業自得だし、こいつらは命があるだけいいよね。

 今まで新人冒険者に迷惑行為をしていたんだから、しっかり償ってほしいものだ。


 さっきのニアさんの悪い笑みに反し、励ましの言葉で終わるのかと思ったが……やっぱりそうはならないみたいだ。

 ニアが顎に手を当てながら、悪い笑み全開でおかっぱたちの周りをぐるぐる飛んでいる。


「ちょっとあんたたち、電撃浴びてチリジリになって、モジャモジャになってたはずなのに、なんでおかっぱ頭に戻ってるのよ!」


 またニアが、理不尽な怒り方をしている。


 そして……そんな怒り方をするから、また吹き出しちゃったじゃないか!


 前にも思ったけど……おかっぱというスタイル自体には、罪はないと思う。

 ……ダメだ、笑いが止まらない。


「お、おかっぱは……俺たちのい、命なんだよ、いや、命なんです……」


 カッパードは、初めて顔を上げて抗議した。


 ニアとハートリエルさんに怯えていた感じだったが、おかっぱ頭については、譲れないらしい。 

 命と思えるほど、こだわりがあるようだ。


 それにしても髪型が命のように大事って……まぁいいけどさ。

 おかっぱ頭には、おかっぱ頭の矜持があるのだろう。

 てか、どうでもいいわ!


 よく見ると……おかっぱ頭に、以前ほどのサラサラ感はないんだよね。

 電撃を浴びて、一回チリジリになっているからね。


「はっはぁ、あんたたちの命ってわけね、この髪型が。心を入れ替えてちゃんと生きないと、またチリジリのモジャモジャにするからね!」


 ニアが弱点を聞き出せて、ラッキーという感じで……意地悪な叱咤激励をしている。


「ひぃー、わ、わかりましたよ。ちゃんとします。掃除でも何でもしますから……それだけは勘弁してください」


 おかっぱたちが、全員怯えた目になっている。

 こいつらにとっては……妖精女神と称えられているニアも、魔王のような存在だよね、きっと……。


 まぁ最初は恐怖心からでも、真面目に働いてるうちに、本当に更生できるかもしれないから、ぜひ頑張ってほしいものだ。


 一応、熱血先生でもある俺の分身『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーさんに、意見を求めたところ……このおかっぱたちは、更生できるかどうか、ギリギリの境目という感じらしい。


 ナビーさんの更生施設『残念B組 ナビ八先生』に、ギリギリ入れないくらいの感じらしい。

 ……というか、それはアウトってことなんだけどね。


 かなり性根がやばいってことなんだよね。

 まぁそれでも、奇跡の更生を祈るしかない。


 ニアは、ポンっと手を叩いて、「あいつらを更生させられるかも!」と言った。

 何やら閃いたようだ。


 そして悪い笑みを浮かべながら、ハートリエルさんと話をしている。

 そして、ハートリエルさんまで、悪い笑みを浮かべている……。


 この二人怖すぎるんですけど……。


 “おかっぱの矜持”がどうのこうのって聞こえてきたけど……まぁ何があっても、あいつらの自業自得だし。

 仮にその後、更生できたなら、素晴らしいことだと思う。

 一応、やつらの健闘を祈ってやろう。


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