1206.エリアマスターに挑む強者を、お見送り。

 ギルド長室を後にした俺たちは、『ギルド会館』を出て、迷宮入口にある受付に来ている。


 依頼の掲示板の所には、この前俺たちにいい情報を教えてくれた読み上げ係の少年がいる。

 『ミトー孤児院』から来ているゴヤ君である。


「あ、こんにちは、グリムさん。これから迷宮ですか?」


「そうなんだ。君がいてくれて良かったよ。また『南エリア』に行こうと思ってるんだけど、今日は奥まで行く予定なんだ。

 お勧めのクエストはあるかな? できればレアな魔物がいいんだけど」


「もちろん、あるよ! そういえば、グリムさんもうCランクになっちゃったんでしょう? すごいね! 強い魔物も関係なく超オススメのクエスト情報を教えるよ」


「いいねぇ、それは楽しみだ。で……何がある?」


「『南エリア』だと……水辺の魔物が多いから……ミズカマキリの魔物がいいかも! レア魔物なんだよね。

 今カマキリ系の素材が、いい武器になるってことで高値で売れるんだけど、ミズカマキリはレアだから、状態にもよるけど一体三十万ゴルから五十万ゴルで、買い取ってもらえるよ」


「おおいいねぇミズカマキリ。見つけられるように頑張るよ」


「あと……カブトガニの魔物がいたら、それもオススメ! 頑丈な防具が作れるから、いい値段がつくよ。

 二メートルくらいの大きさがあるんだけど、甲羅が超硬いみたい。倒すには威力の高い魔法を、お腹に持ち込まないとダメみたいだよ。

 一体で五十万ゴル以上になるよ。色付きならもっと高くなるって」


 相変わらずゴヤくんの情報力がすごい。

 弱点まで教えてくれるなんて……この子優秀すぎるんですけど。


「なるほど、わかった。その二種がオススメだね。ありがとう!」


「ねぇねぇ、薬草ですごく見つかりにくいものとか、ないわけ?」


 ニアが、レアな薬草について尋ねた。


 この人、すっかり薬草取りにはまったみたいだ。


「えーっとねぇ……珍しい薬草でしょう……うーん……それは、これかな! 迷宮ノビル! 

 これも見つけにくいんだよ。地上部分には、細長い葉っぱが一本出ているだけだからさぁ。

 でも見つけたら群生してるから、いっぱい取れると思う。

 一つ千ゴルだけど、数は取れると思うから、結構な金額になると思う」


「オッケー、わかったわ。ありがとう!」



 俺たちは、ゴヤくんに礼を言って、スターティングサークルまで降りて行った。


 スターティングサークルは、今日も物売りの人たちがいっぱい出ている。

 これから迷宮に入る冒険者たちも、かなり集まっている。


 今日は、『エリアマスター』討伐を目指す『強きの一撃クラン』約して『一撃クラン』の人たちが迷宮に入るので、賑わいがすごい。


 俺たちは、目的の『南エリア』への通路に入ろうと思ったのだが、急に大歓声が上がった。


 どうやら『一撃クラン』の人たちが来たようだ。


 ちょっと足を止めて、見送ることにするか。


 大勢の冒険者や、物売りの人たちが拍手で出迎え、声援を送っている。


 クランメンバーは、見送りの人たちに手を振って応えている。


 そんな中俺は、『一撃クラン』の中核のBランクパーティー『金獅子の咆哮』のリーダーレオニールさんと目が合った。


 会釈をすると、なんとレオニールさんが俺の方に寄って来た。


「やぁ、グリムくん。君たちも迷宮に入るのかい?」


「はい、『南エリア』を少し探索しようかと。あの……『エリアマスター』討伐、頑張ってください!」


「ありがとう。君たちに追い越されないように、気合いを入れてがんばるつもりだよ。アハハハハ」


 レオニールさんは、トップランカーなのに偉ぶるところがないし、すごく好感の持てる人だ。

 そして笑い方まで、爽やかだ。


「早くて三日後が『エリアマスター』戦だ。よかったら見に来たらどうだい? 君の力なら、後から来ても充分追いつくだろう?」


「ありがとうございます。行けるようなら、行かせていただきます」


「『キング殺し』の君には及ばないかもしれないが、必ず攻略するつもりだよ!」


「ぜひ頑張ってください!」


「『エリアマスター』なんか、ボコボコにしちゃって! 絶対できるわ」


 ニアも、期待の声をかけた。


「ニア様、ありがとうございます。そう言っていただけると、力が湧いてきます」


「頑張ってくださいなのだ!」

「応援してるなの〜」


 リリイとチャッピーも、拳を上げて応援の言葉を送った。


「おチビちゃんたち、ありがとう。可愛い応援をもらったから、頑張れると思うよ。お名前は?」


「リリイなのだ」

「チャッピーなの〜」


「リリイくん、チャッピーくん、立派な冒険者の君たちに、何かお土産を持ってこよう! 楽しみに待っていて」


「ありがとなのだ!」

「うれしいなの〜」


「グリムくん、みんな、じゃあ行ってくるよ」


 レオニールさんはそう言って手を差し出してきたので、俺は手を握り返した。


 握手は、冒険者の間では……というかこの都市では頻繁に行われるコミニケーションみたいだ。

 『コウリュウド王国』では、あまり多くなかったんだけどね。


 俺たちが握手している様子を見て、周りから大歓声が上がった。


「『猛き金獅子』と『キング殺し』が意気投合してるぞ!」とか、「強者の連合だ!」とか騒いでいた。


 レオニールさんの二つ名は『猛き金獅子』というらしい。

 ……ちょっとだけ、羨ましい。

 なんかかっこいい感じで……いいよね。


 俺は差し入れとして、回復薬五十本と、その回復薬をセットして発射できるオリジナル回復道具『竹筒水鉄砲』の専用ケース入り十本セットをプレゼントした。


「すまんな、こんな大量の回復薬をもらって」


「いえいえ、回復薬はたくさんお持ちだと思いますが……“念には念を”と言うことで……。使っていただけたら幸いです」


「ああ、使わせてもらうよ。そしてこんな便利なものまでもらって申し訳ない。これは君が作ったのか?」


「はい。うちのクランの駆け出し冒険者たち用に作った装備です。これなら離れた位置からでも、狙いさえつけられれば回復薬をかけることができますから」


「素晴らしいよ。ぜひ使わせてもらう」


 レオニールさんはそう言って、爽やかな微笑みとともに出発した。


 俺は、最後まで見送った。

 かなりの人数がついて行っている。

 彼らのクランは、三十三人だと言っていたので、他の冒険者がかなりついて行っているようだ。

 総勢六十人ぐらいにはなっているからね。


 クランメンバーでない冒険者は、途中までしか行かないんだろうけど。


 おそらく露払い的に、序盤の魔物を倒すのに協力するのだろう。


 レオニールさんは人望もあるようだし、彼のクランに入りたいと思っている中堅冒険者は多いという話だったからね。

 アピールの場にもなっているのだろう。


 さっきギルド長に提案された『レイド』に近い形になっていると思うんだけど。


 正式な『レイド』となると……これよりも、もっと凄いのかなあ……?


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