1205.レイド、やりませんか?

「それにしても……『キング殺し』殿は、若手の育成にも長けているわけじゃなぁ……ワッハッハ」


 ギルド長が、また愉快そうに笑った。

 悪戯っぽい顔で、少し茶化している感じもある。


「ギルド長、『希望の枝ブランチオブホープ』は、パーティーのポジション構成が特徴的なんですよ! 盾役が四人もいるんですよ!」


 綺麗可愛い受付嬢狐亜人のリホリンちゃんが、またもや自分のことのように誇らしげに言った。


「ほほう、そりゃまた変わっておるのう」


「初心者ですので、命優先で、守りに重点を置いた構成になっているんです。ですからパーティーの人数も多くなっています」


「なるほどのう。それは面白いのう。できればそのシステムを、他の駆け出し冒険者にも推奨したいところじゃな」


「この考え方が広がってくれて、命を落とす冒険者が減るといいんですけどね」


「……じゃが、広めるためには、やはり学校のようなものを作らんと、難しいじゃろうのう……」


「といいますと?」


「駆け出しの冒険者が人数を集めるのは、かなり難しいことじゃ。盾役が四枚となると……総数で十名近く必要になるじゃろう。それだけの数を集めるのは、かなり難しい。学校なら、そこで気の合う者で、人数を集めることもできるじゃろうがのう」


 なるほど……そういうことか。

 よく考えてなかったが、そうかもしれない。

 普通、駆け出しの冒険のパーティーは、五人未満が多いんだよね。


「確かにそうかも知れませんね」


「これからギルドでは、まず新人冒険者に向けた講習を充実させようと思っておる。そこで推奨するポジション構成の一つとして、紹介させてもらうことにしよう」


「ぜひ使ってください。講習会でも、冒険者同士が仲良くなって合同パーティーが組めればいいですね」


 俺はそう言って、俺の考える新人パーティーの構成を詳しく説明した。


 ギルド長は、感心しながら聞いてくれ、リホリンちゃんは相変わらず自分のことのように、誇らしげな表情で聞いていた。



 そんな話が終わり、立ち去ろうとしたのだが、リホリンちゃんに引き止められた。


「グリムさん、『エリアマスター』に挑戦しないんですか? 実力的には、いけちゃいますよね?」


 リホリンちゃんが、期待するような眼差しを向ける。


「そうですね。倒してみたいとは思っているんですが……」


 本格的に迷宮中層を探索する前に、冒険者の矜持として上層の『エリアマスター』を一体は倒しておきたいと思っていたんだよね。

 もちろん迷宮中層を探索するのは、内緒だけどね。


「ここは思い切って、挑戦しちゃったらどうですか! もちろん、今日から挑戦する『強き一撃クラン』の皆さんの結果が出てからでいいと思いますけど」


「分りました。早めに挑戦する方向で、考えようと思います」


「ほんとですか! グリムさんの所にはBランクの『闘雷武とらいぶ』もいるし、少数精鋭で行けちゃいますもんね!」


「少数精鋭もいいが……『レイド』形式も考えてみてはどうじゃ? お主のためではなく、周りの冒険者のためなんじゃが……」


 ギルド長が、突然そんな提案をした。


「『レイド』形式というと?」


「参加する冒険者パーティーを、公募するんじゃよ。

 お主はクランを作っているから、本来やる必要は無いことなのじゃが……この形式をやってもらえば、クランメンバーでない冒険者も数多く参加できる。

 少なくとも賛助会員になっている中堅冒険者は、皆参加できるじゃろう。もちろん他の冒険者も、お主が認めれば参加できるしのう」


「つまりは……『エリアマスター』の討伐を表明して、広く参加者を募るということですか? そして大人数で挑むということなんですね?」


「そうなのじゃ。お主のことじゃから少数精鋭の方がやりやすいじゃろう。

 だがその『レイド』に参加できた冒険者たちは、またとない経験を積めるのじゃ。

 それは経験値というだけではなく、間近で上級者の戦いが見れる貴重な経験なのじゃ」


「でも、ある程度の実力がなければ、いくら大人数でも『エリアマスター』と戦うのは危険ですよね?」


「そりゃそうじゃ。だから実力のある者以外は、サブマスター戦、エリアマスター戦は、観戦だけなのじゃ。

 だが、そもそもそんな機会なんてないから、素晴らしい経験になるのじゃよ」


「なるほど……ただそうなると、一緒に戦っているというよりも……観戦ツアーみたいな感じになりませんか?」


「まぁそれは、どの程度の実力の者までレイドに加えるかによるのう。

 ある程度力がある者なら、最終フロアに至るまでの途中の戦いを、露払い的に担当させれば良いのじゃ。

 そこで経験値も積めるし、一緒に討伐に参加している気持ちにもなれる。

 『エリアマスター』と戦う中核パーティーは、温存できるということになるわけじゃ。

 これが『レイド』形式の良いところでもあるのじゃ」


「なるほど……『エリアマスター』と戦うまでの戦いを、分担してもらうわけですね。一つのチームとして、役割分担するんですね」


「そうじゃ。それに……優れたりレイドリーダーがおれば、そこそこの実力でも最終戦に参加することも可能じゃ。

 まぁそれが叶わなかったとしても、『エリアマスター』を攻略した『レイド』に参加したというのは、大きな勲章になるのじゃよ。

 参加した冒険者たちは……一生お主に頭が上がらんじゃろう。

 またお主を信奉する冒険者が増えてしまうだろうのう。ワッハッハ」


 ギルド長が、また愉快そうに笑った。


 別に俺は、冒険者に信奉されていないと思うけど……。

 ニアさんには、『残念親衛隊』みたいな冒険者たちがいるからわかるけどさぁ……。


「『レイド』形式というのは、あまり選ばれないんでしょうか?」


「そうじゃ。昔はたまに実施してくれる強いパーティーがおったのじゃが……ここ数十年はないのう。物資の準備や全体の統制を取るのが、大変じゃからのう。

 だが多くの冒険者が貴重な経験を積める場じゃから、復活してほしいと思っておったところなのじゃよ」


「そうだったんですね。確かに多くの冒険者が、間近で『エリアマスター』戦を見て、経験を積めるというのは、いいことですね。……その方式で、考えてみたいと思います」


 俺は、そんな返事をした。


 本当は身内だけでやったほうが、やりやすいんだけど……面白そうなので、乗ってみることにした。


 どっち道『エリアマスター』戦は、仲間たちの経験の場にしようと思っていたからね。


 俺が戦ったら、ここのところ多発しているキングの魔物のように、瞬殺しちゃうからね。


「そうか! それは嬉しいのう。

 今の冒険者の中で、『レイド』方式ができそうなのは、お主くらいしかおらんからのう。

 『冒険者ギルド』としても、何十年ぶりの『レイド』ということで、しっかりバックアップするつもりじゃ!」


「それは助かります。実際、どういう準備が必要で、どんな段取りをするのか、教えていただかないとわかりませんからね」


「リホリンちゃんとナナヨちゃんをつけて、しっかりプロデュースしてやるから、安心するのじゃ」


 ギルド長が、ポンっと胸を叩いた。


 てか、めっちゃ喜んでる。


「私も全力でサポートします!」


 リホリンちゃんがそう言って、嬉しそうにガッツポーズをした。


 なんとなく……いいように乗せられた気がしないでもないが……まぁ面白そうだからいいだろう!


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