1189.手に入れた、生産設備。

 俺は、迷宮都市へ戻ってきた。


 クランのメンバーやギルド長たちなど、俺に関連する人たちには、都市周辺の広いエリアに泊まりがけで調査に行ったと説明してあるのだ。

 迷宮都市に起きた『連鎖暴走スタンピード』とキング魔物出現の調査と言うことになっている。


 ニアが機転をきかせて、そう説明してくれていたのだ。


 俺が眠っていたのは二日半だが、夜の時間を除けば、二日に渡って迷宮都市にいなかったことになる。


 迷宮都市周辺のエリアを、丁寧に調査するとなると、当然二日程度ではできないのだが、南門の方の一方面だけを調査したことにして、一旦戻って来たという話にすることにした。


 そして、意図的な痕跡は見つけられず、成果がなかったという残念な報告にしようと思っている。



 まず、『ツリーハウスクラン』のみんなに帰って来た挨拶をして、次に『冒険者ギルド』に行って、ギルド長に何の成果もなかったという報告をあげた。


 ギルド長からは、前に話をされていた通りに、Cランクの『冒険者証』を渡された。


 本当にCランク冒険者に、ジャンプアップしてしまったようだ。


 それから、太守のムーンリバー伯爵からの伝言を預かっていると言われ、内容を確認したところ……『ドクロベルクラン』の本拠地となっていた大きな屋敷を、俺に褒賞として与えることが決定したとのことだった。


 前にちらっとそんな話が出ていたが、本当にくれるらしい。


 まぁ何かしら俺に褒賞を出すなら、現物で出すのが一番やりやすいということなのだろう。

 ありがたい話ではある。


 だが……そんなに屋敷をいっぱい持っても、本当に使いようがないんだよね。


 ただ、あの屋敷にあった各種生産設備をもらえるのは、大きいけどね。


 しかも、あの3Dプリンターのような魔法道具を自動で作り出す装置まで、もらえるらしい。

 ラッキーだ!


 当然、あの装置の事は、公都には秘密にしているようだ。

 悪用される可能性があるからね。


 土素材の人形の製造設備も、公式記録から除いているそうだ。


 あの屋敷は、単に広い屋敷で、一部に蜂蜜酒を作る醸造設備があるだけということになっているようだ。


 とは言え、『上級エリア』にある広い屋敷だから、それだけでかなりの金額になるだろう。


 『ツリーハウス屋敷』の二倍以上の面積があるからね。


 すぐ使っても良いそうなのだが……使い道が、すぐには思いつかない……。


 誰かに貸したりすればいいのかなぁ……。


 この規模の屋敷を借りる人なんて、いないよね。


 そんなふうに思っていたら、ギルド長から申し出があった。


 それは、その屋敷を時々『冒険者ギルド』に貸してくれないかという申し出だった。


 何故かというと、今後定期的に冒険者を集めて講習会を開く会場として使いたいというのだ。


 今のギルド会館には、多くの冒険者に講習できるようなスペースは中庭しかなく、それでもかなり狭い。

 できれば屋内スペースと実技ができる屋外スペースの両方が必要とのことだった。


 それにぴったりだと言うのである。


 確かにその通りだ。


 『冒険者ギルド』がある『西ブロック』とは反対の東ブロック』にあるが、『上級エリア』なので比較的近い。

 場所的にも良いのである。


 ということで、俺は二つ返事で了承した。


 今後は、ギルドの講習会場として使ってもらえば良いだろう。

 その他、何かイベントをやるときにも使えるよね。


 土素材の人形の製造設備や魔法道具製造設備等は、『ツリーハウスクラン』の『クラン本館』にある俺の工房に移してしまうつもりだ。


 蜂蜜酒の醸造設備も、クランに場所を作って、移そうと思う。



 そういえば……『ツリーハウス屋敷』の周辺の家の引っ越しが、今日中には終わるとの話だった。

 『商業ギルド』のビジネリアさんから、伝言が残されていたのだ。

 今夜からでも、改装ができそうだ。


 こういう……夜に仕事をするという発想がいけないのかもしれないが……ちょっとチートっぽい改装するから、やっぱり夜にするしかないんだよね。


 まぁ夜に密かに行うといっても……あまりにも変わっていると周りに衝撃が走るから……今回も目隠しの板とかは、しばらく貼っておくつもりだけどね。



 俺は『冒険者ギルド』を出た後に、中区まで移動し、『商業ギルド』を訪れた。


 担当のビジネリアさんに、買い取った物件の住民のスムーズな退去についてお礼を言った。


「あの……グリムさん、唐突なんですけど……あの周辺の土地って、もうちょっと増やしませんか。」


 いや本当に唐突な申し出だ……。


 この人は、俺を本気で不動産屋にしようと思っているのだろうか……?


「いえ、これ以上は、増やす必要はないですね」


「そうですよね。もちろんわかってるんですけど……周辺の住民のみなさんが、土地を買ってくれないかって言ってきてるんですよ。

 グリムさんが高額で土地を買い取った話が、噂になってるんです。

 それで……自分も同じように大金を手にしたいのと、先日の夜襲事件で不安になっているのとの両方で、買ってくれないかって、言ってきてるんですよね……」


 なるほど……高値で売れたことが、噂になっているのか。


 もう一つは……襲撃事件があったから、不安を感じているわけだよね。

 それについては、申し訳ない気持ちだ。


 その点を考えると……買い取ってあげた方が、良いのかもしれない。


 今後も何もないとは、言い切れないからな。


「そうなんですか。基本的には、もう買い取る必要はないんですけど、襲撃事件で不安を覚えていることについては、申し訳なく思っているんですよねぇ……」


「そうですよね。あの……ここは思い切って、不動産賃貸業とかやりません!?」


 ビジネリアさんが、俺の表情を窺いながら、そんな提案をした。


 いきなりすごい提案なんだけど……。


 この人ほんとに、俺を不動産屋にしたいらしい。


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