1184.怠惰は、引きこもり?

 ん……俺は寝てたのか……?


 誰かの声がする……


 重い瞼を上げると……そこには羽妖精が……。


 なんだこのデジャブ感……ってニアか!


「ちょっと! やっと起きたの! もう! ……でもよかった、目が覚めて」


 ニアがほっぺを膨らませた後、安堵の表情になった。


「……ニア、おはよう……」


「おはようじゃないわよ! もう! どれだけ心配したと思ってんのよ!」


 ニアはそう言うと、めっちゃライトな『頭ポカポカ攻撃』を発動した。


 手荒い歓迎だが、いつもの『頭ポカポカ攻撃』よりも、断然、力が抜けている。


「ごめん。そういえば俺スキルが強制発動して、意識を失ったんだよね」


「そうよ、みんな動揺しちゃって、大変だったんだから!」


「ごめんごめん。どのくらい寝てたの?」


「今は朝だから……大体二日半ね」


「え! 二日半も寝てたの?」


「そうよ! 一日から数日って言うから、一日くらいで目覚めてくれるかと思ったら、なかなか目覚めないからちょっぴり焦ったわよ!」


「ごめん」


「まぁいいけどさ。四、五日は覚悟したから……」


「ここは……『竜羽基地』だね?」


「そうよ。『竜羽基地』の寝室よ。みんなで、交代でつきっきりで見てたのよ。

 もうさぁ、寝返りも打たないし、ピクリとも動かないから、死んじゃってんのかと思って何回も焦ったわよ!」


「……そうなんだ。なんか……コールドスリープみたいな感じで、強制的に眠った状態になったみたいなんだよね。

 俺の『固有スキル』で、あまりよくわかっていなかった『怠惰』っていうスキルが、突然発動しちゃったみたいなんだ」


「ふーん、で、どうなの? 強制的に休養をとった感じは?」


「そうだね……まだぼーっとしてて、よくわかんないけど……なんとなく体が軽いような気はするけどね」


「もうちょっとぼーっとしたまま、のんびりしたほうがいいかもね。みんなには目覚めたってことは伝えるけど、もう少し待機してもらうから、しばらくゆっくりしてて」


「そうだね。悪いけど、そうさせてもらうよ」


「オッケー」


 ニアはそう言うと、出て行った。


 心配してるみんなに、すぐに顔を見せたい気持ちはあったけど……まずは自分に起きたことを整理したい。そう思ったのだ。


 整理してから、みんなに心配かけたことを謝りに行こうと思っている。


 まずは、今回の事態の根本原因である『固有スキル』の『怠惰』から確認しよう。


『怠惰』―― 休むほどに能力が上昇し、事象が好転する。オーバーワーク状態になると能力が下がる。


 前と表示される内容は変わらない。

 相変わらず……よくわからないな。

 ただ、今回分かったことは……オーバーワーク状態が過ぎると、強制的に休養させられるということだ。


 改めて見返してみると……オーバーワーク状態だと、能力が下がるのか。

 今まで能力が下がってたってこと?

 『限界突破ステータス』だからか、そんな実感はなかったんだけど……。


 おまけに『休むほどに能力が上昇し、事象が好転する』とある。

 能力が上昇するって、どういうことだろう?

 ステータス数値が上がるという感じでもなさそうだし。


 まぁよくはわからないが……休みをちゃんと取らなければいけないということだね。


 でも……どの程度休めばいいわけ?


 そりゃ俺だって、休みたいけどさぁ。

 のんびり馬車で旅とかしたいんですけど……。

 それができる環境を目指して、頑張ってるんだけどなぁ。

 早く悪魔たちを倒しちゃわないとな。


 それにしても……強制発動の時に、俺の脳内でアナウンスして、話しかけてきたあの声は何だったんだろう?


 もしかして……このスキルもナビーみたいに、俺の分身的な感じで覚醒していたりするのだろうか?


 (あー、もうしょうがないわね。察しが悪いあんたのために、出てやるわよ)


 なんだ!?

 脳内にまた声が響いた。

 そして、あれ……?

 脳内にイメージが……。

 人だ……ジャージを着てて、上はパーカーだな。

 そして頭がボサボサで眼鏡をかけている。

 この人はもしや……?


 (あの……君って『怠惰』スキルかな?)


 (そりゃそうでしょうよ! 話の流れからして、それ以外のなんだって言うわけ!?)


 おお、やっぱり『怠惰』スキルは、話ができるようだ。

 てか、完全に俺の脳内イメージの中で、人型になっている。

 そして……めっちゃ喧嘩腰なんですけど。


 (喧嘩腰ってわけじゃないけどさぁ、かったるいわけよ〜)


 やばい! この人にも、俺の心の声が筒抜けだ。


 (そりゃそうでしょうよ! 同一人物なんだから!)


 やっぱそうだよね。

 ナビー的な感じの存在らしい。


 (あんた、働きすぎなのよ! そのせいで、あたしが出るしかなくなったんでしょうよ! 

 現れたくなんかなかったのに! せっかく引きこもってたのに! 

 わざわざ『精霊神アウンシャイン』様が忠告してくれたってのに!)


 やばい……めっちゃイラついてる。


 やはり働きすぎで、強制的に休養を取らされたってことなのね……トホホ。


 (それ以外、何があるって言うのよ!)


 でも、いろんなイレギュラーなことがあって、休むに休めなかったんだけど……


 (言い訳なんか聞きたくないんだよ! あーもうかったるい! 立ってんのもだるいから、ちょっと座らせてもらうからね)


 彼女はそう言うと、俺の脳内のイメージの中で、こたつに入った。

 コタツの左右には、モニター画面がいっぱいある。

 コタツの上には……カゴに入ったみかんと、ノートパソコンが置いてあるし。

 しかも背もたれの長い座椅子に座って、その左右には、物が乗せられる台があって、お茶のセットとかが置いてある。

 何このセット?

 これってどういうこと……?


 (ああ、私、引きこもりだから。これが基本スタイル! 今後は、この状態で話させてもらうから。

 あんたが普通に休養とってくれてりゃさぁ、わざわざ出て来なくてもよかったんだからね。このぐらい我慢してよね)


 なんかすごいなぁ……。

 まぁ俺としては……自由にしてもらえばいいんだけど……てか、自由すぎるよね!


 (なに!? 何か文句あるわけ!?)


 おっと逆ギレだ。


 いや、文句はないです……。


 (逆ギレてねぇし!)


 ……トホホ。



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