1183.固有スキル、強制発動。

 食事が済んだところで、いつもの秘密基地メンバーに、昨夜起きた『ツリーハウスクラン』襲撃事件について、報告した。


 この中で俺は、『ドワーフ』のミネちゃんに、没収したゴーレムを操る二種類の魔法道具の解析を頼んだ。


 現状では、人の腕を切り落として代わりに装着して体の一部とする以外に稼働させられそうにない。

 だが、せっかく手に入れた魔法道具だから、できれば活用したい。

 そこで、安全に使えるように改良できないか、見てもらうことにしたのだ。


 そんな話をして一段落ついたところで……俺は、突然めまいに襲われた。


 ……なんだ……?

 ……視界がぼやける……

 一体何が起きている……?

 う、……頭の中に声が……何か言っている……


 ————警告! 警告!

 ————固有スキル……『怠惰』が強制発動します!

 ————強制的に休養状態に入ります!

 ————60秒後に休眠状態に入ります!

 ————直ちに準備を整えてください!


 なんだ……?


 頭の中に声が……

 いつもの天声とは違う感じだ……

 もちろんナビーの声でもない……


 ん、……顕現していた『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーが……顕現を解いて俺の中に戻って来た。


 (マスター、緊急事態です! 『怠惰』スキルが自動発動するようです。おそらく完全な休眠……いわばコールドスリープのような状態になると思います!)


 どうして!?

 なんで、突然……?


 ————それは、働きすぎだからでしょうよ!

 ————精霊神様がわざわざ忠告してくれたのに、聞かないからよ!

 ————最低でも、丸一日は全く起きれないから、早く仲間たちにそのことを伝えて!

 ————心配しないように伝えとかないと、大変なことになるわよ!


 なんと、先程の声が話に割り込んできた!


 しかも単なるアナウンスではなく、話しかけてきている!


 いったいどうなってるんだ?


 ————察しが悪いわね。とにかく強制的に休養を取らされるってことよ! みんなが心配するから、早く伝えて!


 (というか……君は?)


 俺は、脳内で思わず話しかけた。


 ————そんなこと今話してる場合じゃないのよ! もう時間がないんだから!


 (わかった)


 俺は、『絆』メンバーに念話を繋ぎ、『固有スキル』が発動して、一日から数日眠った状態になるが心配ないと伝え、その間の対応を頼んだ。


「ちょっと! なにそれ!? 大丈夫なの?」


 ニアが念話も忘れて、普通に訊いてきた。


「あぁ大丈夫だよ。心配しないで、みんなにもそう伝えて。ちょっと眠るだけだから……」


 念話で情報が行っていない『絆』メンバーでないみなさんが、何が起きたのかという顔で、俺たちの方を見ている。


「すみません。私の『固有スキル』の効果で、少しの間眠ります。心配ありませんから……」


 なんとかそう言った後、俺は意識を失った……






 ◇






 私は、『クイーンピクシー』のニア。


 突然、予想外のことが起きた。


 私の相棒グリムが、突然意識を失ったのだ。


 マジで、超焦った。


 ただ様子を確認すると、本当に眠っているだけみたい。


 『共有スキル』にも影響がないから、命に関わるとかそういうことじゃないと思う。


 冷静になって考えれば、チートオブチートのグリムが、そう簡単に命を落とすようなことは、あるわけがないのよね。


 それにしても……『固有スキル』が強制発動ってどういうことよ!?

 まったく、いつも予想の遥か上を行くんだから!


 起きるまでは、私がみんなをまとめないとね。


 いつも気丈な貴族女子のメンバーも、みんな泣きそうになってるし。


「みんな大丈夫よ! グリムが言ってたように、固有スキルの効果で眠っているだけだから。

 この前『光柱の巫女』のテレサさんが伝言してくれた『精霊神アウンシャイン』様のメッセージがあったでしょう? 

 わざわざグリムに働きすぎに注意しなさいって言ってたわよね? 

 多分このことを言ってたのよ。

 でも命に関わるとか、そういうことじゃないから安心して!」


「ニア様、それは本当ですか?」


 いつも冷静で気丈なユーフェミア公爵まで、動揺しちゃっている。


 国王陛下やビャクライン公爵に至っては、目に涙を溜めてウルウルしているし……。


「大丈夫! それは間違いないわ! よく見てみて、寝てるだけでしょ。今からベッドに運んで、起きるまで寝かせてあげましょ」


 私がそう言うと、ビャクライン公爵が率先してグリムの抱きかかえ、ベッドのある部屋まで運んでくれた。


 グリムが目覚めたとき、自分がビャクライン公爵にお姫様抱っこされたって知ったら……ふふふふふふ。今から言うのが楽しみだわ!


「みんな、グリムのことが心配だろうけど、看病というか……見守り係は、今から決めるから、それを守ってね。

 あー、ちなみに言っとくけど、寝てるからって……その隙に変なことしちゃだめよ。

 抜け駆け禁止だからね。

 担当は複数人にするから、できないと思うけどね」


 あえてそんなことを言ったのに……ドンズベリだわ……。


 みんな、ほんとに心配してるみたいね。


 まぁみんな安心して、落ち着きを取り戻してくれたみたいだからよかったけど。


 実はもう一つ、対処しなければならないのよね。


 さっきグリムが眠りに落ちる前に、『絆』メンバーに『絆通信』で一斉に、眠ることを伝えちゃったから、すごい数のメンバーがみんな心配してるのよね。


 でもその対処は、メンバーたちの母親役って感じの『アメイジングシルキー』のサーヤちゃんと、『アラクネロード』のケニーちゃんに、念話で頼んでおいたから大丈夫ね。


 リリイとチャッピーが、心配そうにしてグリムのそばから離れようとしない。


「グリムは大丈夫なのだ?」


「ご主人様、心配なの〜」


 二人は、今にも泣き出しそうだ。


「二人とも大丈夫よ。私たちがしっかりして、グリムが休んでる間、仲間たちを守らないとね。いいわね?」


「うん、わかったのだ」


「チャッピー、がんばるなの〜」


 こういう時は、ただ心配するよりも、何かやることがあったほうがいいのよね。

 具体的にはまだ指示してないけど、二人にはグリムの留守を守るという使命があったほうが、いいと思うのよね。



 改めて考えると、スキルの強制発動が、昨夜の襲撃の最中じゃなくてよかった。


 なんか一段落したこのタイミングを見計らったかのように、強制発動したのよね。


 グリムの意図しないところでスキルが発動したみたいだけど……なんとなく、あの人のチート加減からしたら、スキル自体が発動するタイミングを考える、なんてこともあるかもしれない。


 まさに、空気を読んでくれた感じなのよね。

 ほんとに……チートオブチートだわ。


 (ニアちゃん、ほんとに大丈夫よね?)


 落ち着いたタイミングを見計らってくれたようで、今になってハナシルリちゃんが念話を入れてきた。

 彼女ももちろん、心配でたまらないはず。


 (うん、大丈夫だと思う。ほんとに寝てるだけだと思うよ)


 (そうよね。グリムの事だから……どうせ目覚めたら、またチートがパワーアップしてたりとか、そんなめちゃくちゃなことになりそうだしね)


 (あー、それはあるかも。考えてなかったけど……充分あり得るわ。……なんか……ちょっと怖いわね……)


 (ほんどに兄貴、大丈夫だよな? 兄貴にもじものごどがあっだらどうすんべ……)


 今度は『魚使い』ジョージから念話だ。


 ジョージも動揺しちゃって、『ハイブリッド東北弁』というやつが出ちゃってるみたい。

 私にはよくわからないけど、時々変な言葉遣いになると、グリムが言っていたのよね。


 (ジョージ、大丈夫よ。動揺しないで、私たちがしっかりしなきゃ)


 (んだの。わがった。兄貴を信じで待づよ)


 (ニアちゃん、グリムさんの今の状態ってさぁ、私たちがいた世界の状態で言うと……働きすぎて、突然体の不調をきたして死んじゃう状態だと思うのよね。過労死って言うんだけど。

 ある意味、そんなことにならないように、スキルが強制的に休ませてくれたんだと思うの。

 グリムさんを守ってくれたのよ。

 だからこれって……心配ではあるけど、いいことなのかもしれないわ)


 そう伝えてくれたのは、オカリナちゃんだ。

 オカリナちゃんも、グリムたちと同じ世界から来ているから、そういう知識があるのよね。


 まぁ……ものは、考えようってことでもあるわね。



 グリムが倒れたことで、みんな動揺し不安になったけど、だんだん大丈夫になってきた。


 改めてグリムの存在って、めっちゃ大きいのよね。

 いるだけで、安心感が違うのよ。


 実は、私もかなり動揺してたけど……仲間がこんなにいるから、平静を保っていられたのよね。

 一人だったら……考えるがちょっと怖い……。


 まったくグリムったら、心配かけて。

 起きたら、頭をポカポカしてやるんだから!


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