1177.バナナボートレース大会を、復活させよう!
だいぶ早めの昼食が終わった。
ムーンリバー伯爵家の人たちやギルド長に対して、味見程度に提供するつもりが……クランの子供たちも交えた大ハンバーグ大会となってしまった。
ムーンリバー家のみなさん及びギルド長は、少し放心状態だ。
何故かと言えば、食べ過ぎたからだ。
しかも、「美味い!」とか「すごい!」とか「うおぉぉ!」とか絶叫しながら、ハイテンションで食べまくっていたからね。
戦いが終わって、燃え尽きたみたいな、そんな感じになっているのだ。
てか……伯爵一家……こんなことで、大丈夫なんだろうか?
まぁとにもかくにも、俺の予想通り、『ハンバーグ』及び『ハンバーガー』を気に入ってくれ、大満足していただけたようだ。
もてなした甲斐があったのだ。
朝食も食べてきただろうに……『ハンバーグ』と『ポテトサラダ』と『ポテトチップス』の盛り合わせ『ハンバーグプレート』を平らげ、『コッペパンハンバーガー』を食べ、さらには『ハンバーグプレート』をおかわりしていた。
『ポテトチップス』を『ギルド酒場』に納品するという話を聞いた伯爵が、『フェファニーレストラン』にも納めてほしいと言ってきたので、またもや納めることになってしまった。
てか……もうかなりの量を作らなきゃいけなくなっちゃって、人の手配をしないとやばい感じになってきたんですけど。
『炊事チーム』が三食作る合間に作るって感じじゃ、もう無理になってきちゃったのだ。
『ポテトサラダ』については、作り方を教えてあげることで、『ギルド酒場』と『フェファニーレストラン』両方のメニューに加わった。
これについては、『マヨネーズ』を仕入れてもらうので、作り方を教えても全く問題ないのだ。
問題は『ハンバーグ』だ。
『ハンバーグ』は『カレーライス』と違って、材料を調達するのが大変ではない。
肉をミンチすればいいわけで、『ソーセージ』を作るのと変わらない。
あえて秘密にするほどのレシピでもないし、レシピを教えてあげることにした。
もし『ツリーハウスクラン』で、今後ハンバーガーショップを開いたりする場合でも、工夫の余地があるから、差別化ができると思うんだよね。
「グリムさん、この『ハンバーグ』は、本当に素晴らしいお料理です。
お肉をわざわざ細かくして、他の具材と混ぜて焼くという手間をかけるからこそ、美味しいのだと思います。
『フェファニーレストラン』のメニューにしたら、人気になるのは間違いありませんが……必ず必要というわけではありません。
このレシピは、当面出さずに『ツリーハウスクラン』で何か考えたほうがよろしいんじゃないかしら? クランの収入源になると思いますわ」
『フェファニーレストラン』を運営しているムーランさんが、そんな提案をしてくれた。
「そうじゃのう。すごく美味いが……当面は、『ギルド酒場』でもメニューに加えないほうがいいかもしれんのう。
これを出せば、大人気になるのは確実じゃ。
肉を切って焼くだけと違って、仕込みがかなり大変になりそうじゃ。
そんなこともあるから、やはりクランの収入源として考えた方が良いじゃろう。
屋台とか……お店を出しても良いのではないか?
冒険者を引退して飲食事業やりたいという者も、結構おるからのう。
そういう者の受け皿にもなってくれるとよりいいのう……」
ギルド長もそう言って、ムーランさんの提案に賛同してくれた。
そして、期待するような眼差しを、向けられてしまった。
だがどんなに期待されても……飲食事業の大規模展開とかはやるつもりはないんですけど。
あくまでクランの収入として、できる範囲で、こじんまりとやりたいんですけど。
まぁそれはともかく、そういう提案をしてもらったので、『ハンバーグ』のレシピの公開は、一旦保留になった。
『ハンバーグ』を何らかの方法で、販売し始めれば、いずれどこかの飲食店で真似するところも出てくるだろう。
そうやって普及しだしたときに、『ギルド酒場』や『フェファニーレストラン』でも、メニューに加えてもらえばいいかもしれない。
冷静に考えてみても……現状問題なく肉のステーキが売れているのに、わざわざ仕込みの手間のかかる『ハンバーグ』をメニューに加えるのは、スタッフの負担が増えるだけとも言えるからね。
そんな納品に関する話が終わったところで、俺は、伯爵が喜ぶであろうものを取り出した。
伯爵の年齢層の人には、懐かしのアイテムで、皆喜ぶであろう巨大バナナ『三日月バナナ』を取り出して、見せてあげた。
案の定、伯爵は「おお、懐かしい!」と言って、感動していた。
嬉しそうに、巨大バナナをスリスリとさすっていたのだ。
何本かあげると言ったのだが、一本で充分と言われたので、一本だけ差し上げた。
伯爵は、「以前のように『バナナボートレース大会』をやりたいものだなぁ」と呟いていた。
やはりこの年代の人には、『バナナボートレース大会』も一大イベントだったらしい。
「本当に『バナナボートレース大会』を復活したらどうですか? 必要となる『三日月バナナ』は、私の方で提供しますので、希望者に渡して参加してもらうというのはどうでしょう?」
俺は、思いつきで、そんな提案をしてみた。
「おお、それはいいかも知れん! こんな状況下だが、都市の人々を元気付けることができるかも知れん。
年寄りは、なおさらだ。
若い人にも、昔からの行事を体験してもらいたいしな。
本格的に計画することにしよう!」
伯爵が、がっつり食いついてきた。
やはり問題は、『三日月バナナ』の供給だろうからね。
それが解決されるなら、イベントを開催できちゃうよね。
「それはいいのう。ワシも楽しみじゃ!」
ギルド長も乗ってきた。
「あの……『バナナボートレース大会』を行うには、『三日月バナナ』は何本ぐらいあれば大丈夫ですか?」
「そうだのう……昔は、五艘でレースしていた。十レースぐらいはあったから五十本くらいは欲しいところだな。まぁ久々に実施して、それだけ参加者がいればの話だが……」
「なるほど、五十本ですね。分りました」
「まさか、その数を用意できるのか?」
伯爵が期待を込めた目で訊いてきた。
「はい、生息しているところからニアが取って来れますので、大丈夫です。あそこにいる猿たちは、ニアに対しては襲って来ませんので」
「おお、さすがニア様だ!」
「全然大丈夫よー。五十本ぐらいなら、もう一回採りに行かなくても、既にストックしてあるから!」
ニアが、超ドヤ顔で言った。
そんなに採ってたんかい!
「迷宮都市のイベントとして企画するから、『三日月バナナ』の値段は、こちらでつけさせてもらっていいかな?」
「はい構いませんが……無料提供でも大丈夫ですけど」
「いや、そういうわけにはいかん。貴重なものだし、しっかり販売した方が良い。本気で参加する者にだけ、渡したいしな。
希望者には……一本十五万ゴルで販売するとしよう。行政としては、単に仲介するだけだから手数料は取らん」
「分りました。ありがとうございます。
それで……『バナナボートレース大会』に関係なく、『三日月バナナ』が欲しいという人がいたら、売っても構わないでしょうか?
このバナナの話を教えてくれた農家のバナボさんの知り合いの人で、欲しい人がいるみたいなんです」
「それはもちろんかまわんよ。自由にやってくれ」
「ありがとうございます」
俺は、伯爵に礼を言った。
伯爵は、すごく生き生きとした顔をしている。
なんとなく、若い頃を思い出しているような……そんな感じがする。
都市を盛り上げるお祭りみたいな『バナナボートレース大会』が、できそうだ。
楽しみになってきた!
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