1178.孫娘の、宣言。

「おじいさま、私も『ツリーハウスクラン』のメンバーになります!」


 ムーンリバー伯爵の孫娘のルージュちゃんが、突然、宣言した。

 実際は……宣言というよりは、お願いという感じだが。


「またその話かルージュ……。そんなにこのクランに入りたいのか?」


「はい。私も困っている人たちを助けられるように、強くなりたいんです! リリイとチャッピーみたいに強くなります!」


「ルージュや、お前はまだ八歳じゃないか。そんなに焦らなくても良いのではないか?」


 父親のムーディーさんが、諭すように言う。


「お父様、何度も言いますが、このクランに入る事は、より多くの学びを得ることなのです!」


 ルージュちゃんが、八歳とは思えない意見を述べている。

 そして逆に、ムーディーさんを諭すような感じで言っている。


「そうね……私も最初は心配だったけど……この子の為を思えば、正式にクランのメンバーになったほうが、いいんじゃないかしら。どっち道今だって、毎日来てるんですもの」


 おっと、母親のベニーさんが軟化したようだ。


「ちょっと、伯爵! それからムーディーさん! ほんとにルージュちゃんのことを思ったらね、何よりもまず強くしてあげることが大事じゃないの!? 

 特に今のこの国の状況を考えたら、いつ何が起こるかわからないでしょ? 

 うちのリリイとチャッピーだって、最初は普通の八歳の女の子だったけど、この子たちのためを思って、自分の身を守れるように訓練したのよ!」


 ニアが少し呆れたような感じで、そんな意見を言った。


 俺も最初の時に、ニアにこんなことを言われたんだよね。

 そのおかげで、今やリリイとチャッピーは、めちゃめちゃ強い八歳児になってくれたのだ。

 ニアの意見は、間違ってなかったんだよね。


「そうですなぁ……」


 伯爵も思案顔だ。


「シンオベロン卿、ここに住まずにクランのメンバーになることも可能なのですか?」


 父親のムーディーさんが、俺に尋ねてきた。


「もちろんです。住まいも用意していますが、ここに住むかどうかは、各人の判断です」


「そうですか……」


 ムーディーさんも思案顔だ。


「あなた、どうせ毎日通うんですもの、クランのメンバーにさせてあげましょう」


 そしてベニーさんが、援護射撃を行った。


「そうだな……父上、よろしいですか?」


 ムーディーさんは、決断したようだ。


「……まぁいいだろう。もう心はクランメンバーになっておるようだからのう」


 伯爵も、可愛い孫には勝てなかったようだ。


「本当!? やったー! お父様、おじいさま、お母様、ありがとう!」


 ルージュちゃんが、満面の笑みで叫ぶように言った。


「シンオベロン卿、改めて娘をお願いしたい。

 五歳と二歳の息子もいるのだが、息子たちもいずれは、このクランに入れて鍛えることにするつもりだ。

 長い付き合いを頼む」


 ムーディーさんがそう言って、俺に頭を下げた。


「はい、わかりました。クランメンバーになったといっても、来れる時に参加してもらえばいいと思います。

 クランのメンバーは、基本的に自由に、自分の意志で行動を決めてもらおうと思っていますから」


「ありがとうございます。そうさせていただきますわ」


 ベニーさんがそう言って、嬉しそうに微笑んだ。



 と言うことで、俺は、正式メンバーとなったルージュちゃんに、『ツリーハウスローブ』と『ツリーハウスベルト』の二つを渡した。


 これはクランメンバーの証であり、子供たちもみんな持っているものだ。


 ルージュちゃんが、大喜びしたのは言うまでもない。


「リリイ、チャッピー、やったわ! 私もメンバーになれた! ツリッシュ姉様、正式にクランのメンバーになったの! これからも、よろしくお願いします」


 ルージュちゃんは、リリイとチャッピーと抱き合い、近くにいたツリッシュちゃんにも、嬉しそうに報告していた。


 ツリッシュ姉様と呼んでいたが……いつの間にか仲良くなったようだ。


 まぁツリッシュちゃんは、子供たちのリーダーで、面倒見がいいから、外部から来ているルージュちゃんに気を配って、優しく接してあげたのだろう。


「ツリッシュちゃん、ちょっといいかな?」


 俺は、ツリッシュちゃんを呼んだ。


 彼女は、貴族のことが嫌いだったから、こういう場で紹介されるのは嫌だと思うが、今後のことも考えて、あえてこの勇敢なリーダーのツリッシュちゃんを紹介しておこうと思う。


 この国の王女だったアグネスさんと会って、心のわだかまりを解いて以降は、貴族に対しても心持ちが変わっていると思うしね。


「伯爵、この子はツリッシュちゃんと言いまして、みなしご達を人拐いから守り、林に隠れ住んでいた子なんです。すごいリーダーシップのある子で、子供たちのまとめ役です」


 俺がそう言って紹介すると、ツリッシュちゃんは照れ臭そうに、お辞儀をした。


「そうかね……君が……。ツリッシュちゃんというのかい……、本当にすまなかった。私の目が行き届かなくて、君たちのような子供たちを守れなかった。申し訳ない……」


 なんと伯爵が、ツリッシュちゃんに頭を下げた。

 目には涙を浮かべている。


「いいえ……私は……」


 ツリッシュちゃんも、驚き、戸惑っていて言葉が続かない。


「君とシンオベロン卿に誓おう。もう君たちのような思いをする子が出ないように、できるだけの努力をするつもりだ」


 伯爵は、しゃがんでツリッシュちゃんの両肩に手をかけ、真摯な言葉を発した。


「はい、よろしくお願いします」


 真摯な言葉は、ツリッシュちゃんに伝わったようで、ツリッシュちゃんは涙を浮かべながら、頭を下げた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る